第13話 バラック・後編
どかあぁぁぁん!
何度目かの衝撃でまた壁まで吹き飛ばされた。
バラックは
赤い魔力球はダメージこそ無いが受ければ確実に3mは後ろへと飛ばされた、何度受けても耐えることは出来ない。
「む、厄介だな」
バラックは構えていた大盾を引いた、ビリーの言葉を頭で反芻する。
(君の戦闘スタイルでは絶対にそのマジックドールは倒せない、 やれば直ぐに分かると思うけどね)
自分の戦闘スタイル。
敵の攻撃を全て受けきり、疲弊した所を斬る。
バラックの必勝法。
それはもちろんビリーも知っている。
今回の相手はマジックドールだ、疲弊はしない。
ある意味バラックとの相性は最悪だが、妙だ。
確かにマジックドールは厄介だが、距離を離すだけでそれ以上の攻撃はこない。
吹き飛ばされるがダメージはない。
戦い初めて数分で、ビリーに何か意図があると思い始めていた。
(君の戦闘スタイルでは絶対に倒せない)
ビリーの言葉が頭を巡る。
そして、バラックの頭に閃きがあった。
「む、つまり、受けるな。 という事か?」
ゆっくり前進したバラックにマジックドールがまた赤い魔力球を打ち出した!
それを体を捻って避けて力強く踏み込んで一気に間合いを詰める!
重厚な鎧に身を包んだバラックだが、仲間を助けるために身を挺する動きは速い。
見た目に反して彼の動きには俊敏性がある。
赤い魔力球がバラックに襲い掛かるがそれを避けながら近づき、間合いに入ってロングソードに手をかけた瞬間、マジックドールが青い魔力球を浮かべた手をバラックに向けた!
青い魔力球は凄まじい衝撃波を放ち、バラックがそれを耐えて一瞬の隙が生まれた時、赤い魔力球がバラックの胸に直撃した!
「がっ!」
衝撃に胸を押さえたがやはり殆どダメージは無い。
更に追い打つ赤い魔力球を体制を立て直して器用に避ける。
間合いを詰めていくとマジックドールはまた青い魔力球をバラックに向けた!
バラックは大盾を構える、衝撃波が大盾に襲い掛かりまた体勢を崩してしまい赤い魔力球を避けきれずに大盾で受けるとまた後ろへと弾き飛ばされた!
「む、やはり受けては駄目なのか」
赤い魔力球は点で来るから避けられる、だが、青い魔力球は近付くとその場で面で来るから避けきる事は出来ない。
大盾を構えれば耐えきれるかと思ったがどうしても隙が出来てしまう。
バラックは戦法を考えながらうっすらと笑っている自分に気が付いた。
「む、そういえば、こんなふうに作戦なんぞ考えるのは久しぶりだな。 ビリーめ、コレが狙いか?」
バラックは戦いながら、ビリーがなぜこんな事をするのか。
ビリーは何をしたいのか。
そんな事を考えていると、ビリーと会う前に聞いたビリーの噂を思い出した。
「そういえば、ビリーの話を初めて聞いたのはまだ軍にいた頃だったな」
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バラックは元々が軍人だった。
かの銀聖剣を振るい、アリス・ヴァンデルフが魔神を打ち倒して世界が魔族の脅威から解放されて平和になるかと思われたが。
人間は今度は人間同士で争いを始めた。
バラックは戦災孤児で路地裏で育った。
体が大きくなるとすぐに軍に入った。
持ち前の耐久力ですぐに頭角を現したバラックは引き抜きでとある女性武官の下に配属された。
そこで、ビリーの噂を聞いた。
なんでも、冒険者が臨時で国の防衛線に駆り出され、そこで局地戦を左右する働きを見せた。
局地戦では現場で敵に囲まれた味方を鼓舞して先頭に立って戦い、戦場を俯瞰して部隊を死線から生還させたんだとか。
女性武官が大層気に入って引き抜こうとしたらしいがどんな好条件も蹴ってまた冒険者に戻ったと。
一緒にビリーと戦った者が初めての戦争で何故そこまで上手く戦えるのかと本人に聞いたらしい。
その時の彼の答えは
「僕は普段、冒険者としての依頼を1人で受けている。 採集も討伐も全て。 魔物は色んな奴がいるからその全てに1人で対応しようと思ったら常に考えないといけない、その経験が生きたんだと思う」
その後にこうも続けた
「僕には飛び抜けた才能が無いからね、必勝戦略が無いんだ。 相手相手に合わせて戦法を変えなきゃならない。 だから、臨機応変っていう分には自信があるんだ。 この間の戦場ではその部分が上手くいった感じだね」
と。
その頃にはバラックには必勝戦略とも言える物が出来ていた。
全ての攻撃を受けきる。
それは戦場でも迷宮でも変わらない。
だから、そのビリーの逸話を聞いた時はその者の必勝戦略が臨機応変という訳か、ならば、自分も自分の必勝戦略と言える耐久力を更に磨き上げるのみ。
そう考えた。
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「む、随分と懐かしい記憶だな」
バラックは今の自分の力が通じない状況に昔のそんな記憶を思い返していた。
赤い魔力球を右へ左へと避けながら手を考える。
青い魔力球による衝撃波はほんの一瞬だ、だが、確実に隙が生まれる。
受け切るという事は足を踏ん張らざるを得ない、その時にどうしても動きが止まるからだ。
あの青い魔力球の衝撃波さえどうにかすれば間合いに入っているから確実に自分のロングソードがマジックドールを両断する。
範囲の広い青い魔力球の衝撃波は避けれない。
受けきる事は容易だ。
だが、動きが止まるせいでこちらの刃が届く前にマジックドールの赤い魔力球が先に来てしまう。
どうする?
そこまで考えてビリーの意図をバラックが読んだ、それは天啓にも似た感覚があった。
赤い魔力球を掻い潜りながら距離を詰めていく、バラックのその動きに迷いは一切無かった。
そして、青い魔力球が向けられた瞬間。
バラックは大盾を構えて衝撃波を受けた瞬間に体を旋回させてその勢いのままにロングソードを薙ぎ払った!!
避けれない。
受けてはならない。
ならば、受け流して攻撃すればいい。
マジックドールはいとも簡単に胴を真っ二つに切り裂かれて動きを止めた。
「む、なるほどな」
バラックはいつしか自らの耐久力故に攻撃を受け切る事しか考えていなかった。
大盾を構えれば来る攻撃を全て受け切る。
それは相手にとって絶望的ではある。
何をしても通用しないのだから。
今回の敵はひたすらバラックと距離を取ろうとした。
2種の魔力球は今までのバラックでは確かに、距離を詰めることは出来なかった。
赤い魔力球は受けてはならない。
青い魔力球も受けてはならない。
【受け切る】事しか考えていなかったバラックがようやっと【受け流す】という答えにたどり着いた。
それは至極単純な答えだが、必勝戦略とも言える大盾による防御を取った瞬間のバラックにはどうしても浮かばなかった。
自分が今し方両断したマジックドールを見下ろしてバラックは笑った。
「む、恐ろしい男だ、何処まで考えて
ズズズッと独りでに石造りの扉が開いた。
バラックは扉を潜りながらまた、思案に頭を巡らせた。
こんなに大掛かりな仕掛けを作り上げてまで俺達に伸び代がある事に気づかせたかったのか。
確かに、コレは言われても分からなかっただろう。
なんなら聞く耳を持たないはずだ、特にアインダークとクーリーンは。
この状況なら、魔水晶を質に取られている分、本気で事に当たるだろう。
きっと、他のメンツにも何かしら、課題のような状況を与えられているんじゃないだろうか?
ビリーなら、そんな事も出来るだろう。
細部まで考えられている、だが・・・
それでは、俺達とビリーの差は開くばかり。
他にもなにかあるのか?
バラックは尽きることなく疑問を噛み締めながら薄暗い通路を頭上の魔力球の明かりを頼りに進んでいく。
突き当たりに扉があり、押し開けたところで思考を止めた。
そして、ニヤリと笑ってロングソードを引き抜いた。
扉を開けた先の広間には先ほどと同じマジックドールが10体、バラックを待ち受けていた。
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