あの時びしょ濡れだった死にたがり美少女を俺は救えたのだろうか?
明日波ヴェールヌイ
第1話
「ん……はぁ……はぁ……ふぅ……」
俺の耳元で少女の甘い呼吸音が響く。柔らかく大きなその胸が俺の身体に押しつけられていた。
少し前までびしょびしょに濡れて冷えていたその子の身体は今はもう火照っていて、熱い。
身体を重ねるようにベッドに二人で倒れている。荒い呼吸をしている彼女の目はどこかうつろだ。
俺は彼女の長い黒髪をなでながら声をかけた。
「
俺から世凪とよばれた彼女は俺の腕に抱きつく。絹のような肌が腕を包みこんだ。
「んっ……まって……もうちょっとだけ……このままでいて」
「わかった」
「あと……」
彼女の黒い瞳がまっすぐ俺の方に向いていた。
「ん?」
「今だけは、ううん。これからは
「え、あ、ああ」
そうはいっているものの、俺の思考はすでにフル回転している。いわゆる賢者タイムといったところだ。
いやなんでこうなった。そこらへんにいるような俺がなぜこんな可愛い子と一緒のベッドに寝ているんだ?
―――――――――――――――――――
朝、目を覚ますといつもの薄暗い部屋だった。遮光カーテンのせいで、光も奥まで届かない。
俺もこのまま朽ち果てていく運命なのだろうか。
俺の名前は
今日は土曜日。本当なら俺はこの時期の日曜は女子と楽しく遊んでいるはずだった。
そんなことを考えると無性に腹が立つ。
「くそっ! なんでこの俺が童貞なんだ!」
そう、俺は童貞だ。もっと言えば彼女はおろか女友達すらいない。
「ちくしょう! 偏差値70あって、いい高校に通っているこの俺が!」
いい高校に入れば女友達一人くらいできるはずだ。頭が良ければなおさら。そのはずなのに、俺を追いかけてくるのは課題と締め切りだけだ。
「本来なら美少女とお付き合いして、周りから羨ましがられてるはずなんだよ……」
俺はこのまま大学でも理系で、男の園に行き、男に囲まれ、大人になっても嫁もできず枯れていくのか。
結構顔はいいと思うんだけどな。
「ちくしょう!」
足踏みをすると下から文句が飛んでくる。
「海斗! 静かにしなさい! 起きてるなら、早く降りてきなさいよ!」
「はぁい……」
ちくしょう、親には勝てねぇんだよ……ちくしょう。
一階へと降りていくと、母がパンを温めていた。
リビングからは外が見えるのだが、今日は雨だった。
「ほら、早く食べてしまいなさい」
「はいはい……」
「ハイは一回!」
本当にうるさいなぁ……どっちでも変わらんやろ……
そんな愚痴をうだうだと考えながらパンをかじる。バターの香りが口の中で広がるが、そんなことどうでもいい。
「はぁ」
「どうしたのため息なんかついて」
母が不思議そうに聞いてくる。
「いや、なんでもないよ……言ってもどうにもならないから」
そうだ。彼女が欲しいなんて言ってもどうにもならない上に母に言ったら馬鹿にされるだけだ。
「悩みがあるなら外でも行って気分転換してきたら?」
母がそんなことを言った。俺は外をちらっと見たが相変わらず雨が降っている。
こういう日は家に篭っておくのが一番なんだ。
そんなこと知らないとばかりに母はもう一度
「行ってきたら?」
と、言った。
俺はしぶしぶ着替えて、出かけることにした。
寝癖を直そうとしてもかたい髪が言うことを聞かないのでシカトする。
「こういう所なんだろうな……彼女ができない理由……」
俺だって分かっている。でも面倒じゃない?ちゃんとやってるやつは偉いよホント。
ショルダーバッグに財布とスマホ、傘を持って玄関へ。
「いってらっしゃい」
母が家から出ようとする俺を追いかけてそう言った。
「行ってきます」
それだけ返して俺は家を後にした。
「んにしてもすげぇ雨」
六月の半ばということもあってか中々に強めの雨だ。
雨水がビニール傘を叩く音、路面で跳ねる音。周りの風景は白いもやがかかったようになっている。
「とりあえず駅前に行ったらなんかあるだろ……」
駅前にはゲームセンターやショッピングモールなどがあるから時間を潰したり、気分転換によく使うのだ。
だがそこに行くまでに少し歩く必要があった。
「雨は嫌いだ」
何かの本で雨は幸運を運んでくるといったことが書いてあった気がする。だが実際はどうだろうか。
雨の日は頭が痛くなる時もあるし、気分まで重くなってくる。
水溜りを避けつつ通りを歩く。雨のせいで歩いている人は少なく、車が多く走っていた。
「ん、あれは……」
駅のすぐ近くにある陸橋。人通りはほとんどないのに、制服姿の少女が手すりを掴んで立っていた。
「同じ学校の制服だけど……誰だ……?」
彼女は雨にもかかわらず傘もさしていない。ブラウスは雨で濡れ、肌に張り付いていた。
それに、胸のところを黒いものが包んでいるのが見える。あれは……ブラか?
少し気になって近づいてみる。すぐに誰なのかはわかった。
「世凪さん……?」
少女は俺の声を聞くとパッと見たものの、すぐに視線を逸らしてしまった。
「飴井くん……ね……」
彼女は世凪 凛。
クラスメイトである彼女は男子の中で密かに人気の高い美少女。
その彼女の黒い瞳は涙か雨かわからないが、潤んでいて目尻からは水が
「どうしたんだ……?」
心配になって彼女に問いかけ近づこうとすると、急に彼女の方から俺に近づいて来た。そして、俺の胸に顔を
「飴井くん……私を抱いて……?」
そうやって俺にすがっている彼女の肌は冷たかった。
<あとがき>
どうも毎回えっち要素を入れたい明日波ヴェールヌイです。
第一話どうだったでしょうか?カクヨムさんの描写の限界へと挑戦したい今作。
半分くらいバン覚悟で書いております。
もし面白い、これはえっちと思って頂ければ幸いです。
その上で星、ブクマ、応援などしていただけると嬉しい限りです。
では最後に
恐れるな……! 少年、青年! 君たちの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます