第55話 猫貴族、親子喧嘩を見届ける
「ぐわぁはっはっはっは。すまん、すまん」
目の前で先程まで戦っていた不審者じいちゃんが笑っている
「いやいや、呑気に笑ってる場合じゃねぇよ。なんでオーガストが倒れてて、庭がこんな無茶苦茶になってんだ」
「なに、久しぶりに会ったもんじゃからのぅ。どれぐらい強くなってるか試してみたんじゃよ。庭はあれじゃ。こやつ、多分次男のルークじゃろう?と戦った結果よ。ぐわぁはっはっはっは。」
父さんはやれやれと頭を左右に振っている
うん?なんだか急に空気が冷えてきたような…?
「にしてもここまでやらなくても…ひぇっ」
「あら?何甘ったれたこと言ってるのかしら?」
「はっ母上」
猛烈な冷気を発しながらこちらへ微笑みながら水色の髪のおばあ、いや女性が歩いてくる
「あら?ルーク?今失礼なこと考えなかったかしら?」
おばあさんと脳内で考えた瞬間、凍るような視線をこちらへ向けてくる。
恐ろしすぎる。言葉遣いは丁寧なのに迫力満点で、まるで極道の妻みたいだ。
「いえ、滅相もございません。おばあさまは美しいなと考えていただけであります」
「あら?初めて会ったのに嬉しいこと言ってくれるじゃないの。それで今回の件はチャラにしといてあげましょうか、ウフフフフ。でもグレン、あなたはダメよ?わかってるわよね?」
「いや、オーガストはまだ成人もしてないんだからしょうがねぇだろ?」
「あら?しょうがねぇだろ?まだあなたは立場がわかってないようね」
おばあさまの周囲を濃厚な魔力が充満していく
これはヤバい。じいちゃんもかなりの化け物だったけど、おばあさまも相当な化け…ひぇっ。
おばあさまがまたこっちを睨んでる。
なんで心の中を読まれるんだ。こわい、こわすぎる。
「まぁいいわ。先にグレンね。ゼファー?あなたは手出し無用よ」
「もちろんじゃ。グレンは相当なまってるようじゃからのぅ」
「くっ相変わらず凍え死にそうなくらいの冷気だな。でも俺には関係ねぇ。こいつで焼き尽くしてやる」
『付与・火炎』
『焔斬り』
父さんが付与に加え、莫大な魔力を剣に乗せておばあさまに切りかかる。
あれは見たことない技だな。
父さんの切り札なのかな?
『凍れ』
「「えっ?」」
おばあさまが一言唱えただけで父さんの剣だけでなく、両手足が凍りついた。
本来氷属性は火に弱いはずなのに、炎の剣を凍らせてしまうなんて…。
しかも相手は王国では近衛騎士団の団長と並ぶと言われる父さんだぞ。
「あら?もう終わりかしら?ウフフフ」
「相変わらじゅ母上ふぁ化け物か。どうひゃっても溶きゃせしょうにゃい」
父さんはガクガク震えてイマイチ何を言ってるのかわかりにくい。
震えすぎてクロエみたいになってるな。
しかし、本当に凍え死にそうだ。大丈夫かな?
「あら?そんな強さで王国を守れると思ってるのかしら?あなたがそんなだからオーガストがこんなに弱いんじゃなくて?まぁでもルークは合格点ね」
「無茶言ふなひょ。政務しにゃがらこれ以上鍛へるにゃんて無理だ」
「その点に関しては引き継いですぐ出ていった私たちにも原因があるかもしれないわね。それにしても弱すぎるわ。明日から覚悟してなさいね?」
「ひぇっ、わきゃったきゃら早くこれを溶かしてくへ」
「本当しょうがない子ね。ゼファー、溶かしてあげて」
『燃えよ』
じいちゃんもまたおばあさまと同じように一言唱えると、みるみる父さんの氷が溶けていく。
「なんで俺の炎はダメで、父上の炎だと溶けるんだよ」
「まぁ実力の差というやつじゃのぅ。ぐわぁはっはっはっは」
「あとはこの子を起こさないとね」
『氷魔球』
もうずっと気を失ったままだった兄さんの顔に30cmぐらいの氷の球がぶつけられる。
え、そんな勢いでぶつけちゃうの?
「ぐへっ。なんだ!あれ?確か俺はじいちゃんと戦ってたはず…ひぇっばあちゃん!」
「久しぶりね、オーガスト。よく眠ってたわよ。色々話したいことはあるけど、まずは屋敷の中へ行きましょうか。みんな気になってるようだし」
と屋敷の方へ目線をやると、いつも通りの母さんとヴィクター、どこか心配そうな姉さんとティアがこちらの様子を伺っていた。
「そうじゃのう。ルークには聞きたいことが山のようにあるしのぉ。なにをしておる。はやくせんか」
凶悪夫妻は呆ける僕たち親子三人をせっつかせながらドスドスと屋敷へ入っていった
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