第37話 猫貴族、森を調査する


グリフォン商会へ訪れた次の日、僕はヴィクターと共に朝から冒険者ギルドの掲示板の前にいた。


「ちょっと遅かったね。良さそうな依頼が残ってないね」


「そうですなー。ここはエドモンド殿に何かおススメの依頼がないか聞いてみますかな」


「おススメの依頼かぁ。二人ともDランクでオーガも倒してるしこれなんてどうだ?」


エドモンドさんが出してきたのは王都近隣の森の調査依頼だった。

先日僕が倒したオーガのような本来ならもう少し森の奥で見かける魔物の目撃情報が幾つか寄られているらしい。


「もしかしたら森の奥に異変が起こってるかもしれないと?」


「俺たちもそう睨んでる。初めはただの偶然かと思ったんだがこうも目撃情報が続くと少し胸騒ぎがしてな。調査依頼だから何か異変があればすぐ戻ってきてくれて構わねえ」










「静かなもんだね。この前みたいにゴブリンたちとも遭遇しないし」


「でも少し静か過ぎて不気味だとは思いますがね」


その後も森を探索するも、魔物どころか動物たちの姿も見つけることが出来なかった。

半日以上探索したが何の手掛かりもなく、一度ギルドへ引き返すか思案し始めた時、クロエが気になる匂いがあると言い始めた。


『なんだか薄っすらと変な匂いがするにゃ』


「もしかしたら今回の元凶かもしれないね。少し慎重に様子を見に行ってみようか。念のため『ハイド』の魔法を掛けておこう」


森を進んでいくと、岩陰に上手く隠れるように存在する洞穴を見つけた。


『匂いはここからするにゃ』


「ここまで近づいてはじめてわかったけど魔物の気配もするねぇ」


「どうやらこの洞穴には魔物の気配を隠す様な特殊な薬か何かが使われておりますなぁ」


「クロエが感じ取ったのはその匂いだったんだね。お手柄だったねクロエ」


『戦闘ではあまり役に立てない分、これぐらいは働くにゃ』


クロエは戦闘をしようと思えばそこらの魔物よりも遥かに強いのだが、失った魔力がまだ回復しきっていないため、余計な魔力を消耗を避け魔力回復につとめるためにも、極力戦闘には出ないようにしているのだ。


岩陰からこっそり侵入し、中の様子を伺うと5人程の人型の影があるのを見つけた。


「あれは…ゴブリン?」


なんとそこで見つけたのは剣や槍といった武器を持ち、防具に身を包んだゴブリンだった。


「しかもただのゴブリンではありませんな。上位種のホブゴブリンですな。ただ、普通のホブゴブリンよりか数倍は強そうですが」


「何やら裏がありそうだし、一匹を残して抹殺といこうか。幸い『ハイド』と死神のコートのお陰でこちらには気付いてないようだし先制攻撃をいきますか」


「ではまずはわたくしにお任せを」


『シャドードミネイト』


「ギャッ!?」


ヴィクターのシャドードミネイトという魔法は、自身の魔力を影のように薄く延ばしその範囲にあるものを強制的に支配するという強力な魔法だ。

ただし、無条件で成功する訳ではなく、相手に影の存在を気付かれたり、魔力でレジストされると失敗するらしい。

影はおろかこちらの存在にすら気付いていなかったホブゴブリンたちは呆気なくヴィクターの魔法にかかり、咄嗟に悲鳴があがっただけで全く抵抗することが出来なかった。


「標的が多いからこの魔法かな」


『ダークランス』


僕の周りには闇の魔力で出来た鋭い槍が無数に発生した。

そして一気にホブゴブリンたちに襲い掛かる。


「グギャー」


なんとか必死に身体を動かそうとするホブゴブリンたちであったが伯爵級悪魔のヴィクターの魔法の支配から抜け出せるはずもなく、あっさりと断末魔をあげて息絶えた。


「じゃあなぜこんなところに武装したホブゴブリンがいたのか記憶を読み取らせてもらおうかな」


僕は殺さずに捕えていた最後の一匹に向かって手をかざし、『カオスナイトメア』の魔法を唱えた。

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