漆黒の猫貴族
おやじ
幼少期
第1話 猫貴族、黒猫と出会う
俺は幸村秀一、28歳、しがない猫好きな会社員である。
そして今は帰宅途中で、いつもなら1人寂しくとぼとぼ歩いているのだが…
最近は一つ新たな楽しみがある。
「ただいまー。元気にしてたか?」
「ニャー」
部屋の奥から一匹の黒猫が姿を現した。
「出迎えありがとうな。大分怪我も治ってきたな〜。これならもう立派なモフモフだ!」
この黒猫との出会いは1週間前のことだった。
会社帰りにふと立ち寄った近所の神社で、怪我をして弱っているのを見つけたのがきっかけだった。
そしてこの一週間は世話を見てきたのだが、ようやく元気になったようである。
「お前も元気になったことだし、名前も付けないとな。んーよし!お前の名前はクロエだ…えっ!?」
その瞬間、クロエを中心に辺りは白い光に包まれ、思わず目を閉じた。
「んんん、なんだったんださっきのは?え、ちょっと待って!ここどこ?」
目を開けるとそこは一面真っ白な何もない空間だった。
「ようこそ、秀一。この度はこの子を助けてくれてありがとう」
そう言って現れたのは、白いドレスを着たアイドルなんて比ではない程の美しさを持った1人の銀髪の女性とその腕に抱かれた一匹の黒猫。
「あっどうも。いえ猫好きとしては当然のことをしたまでです。えーっとクロエとその飼い主さん…でいいんですかね?」
「これは失礼しました。私はエステル。メネシスという世界を管理する女神です。わかりやすく言えば、秀一から見た異世界の神です!」
「かっ神様?まさか神様とは!これは失礼しました!私幸村秀一と申します。で、神様ってことは天国?もしかして私、死んじゃってます?」
「ふふ、楽にしてもらって大丈夫ですよ。
ここは時空の狭間、我々神族が暮らす空間ですので天国とは少し違いますね。そしてあなたは『エステル!!闇の神獣が見つかったとは本当か!?』あらあらこれはアマテラス、お陰様でこの通り見つかりましたよ」
エステルの話を遮るように、なにもない空間から黒髪で巫女服を着た女性?幼女が現れた。
(あっああアマテラスだって!?おれでも知ってる神様の名前じゃん!!それに闇の神獣?どういうことだ?)
「ん?誰じゃ?」
そう言いながら幼女はこちらに向かって手をかざすと、
「ふむ。なるほど。そなたが見つけてくれたのじゃな。妾の民である秀一よ。此度は感謝する。そなたの知っているアマテラスであっておるぞ。そしてこの黒猫はエステルの眷属たる神獣の一匹じゃ」
(え、この幼女なんで俺の考えがわかるの?)
「誰が幼女じゃ!妾は女神じゃ。自分の民の心くらい読めるにきまっておろう。」
「こ、これは大変失礼しました!本当に神様だったんですね!」
「あらあら疑ってたんですの?」
「い、いえそんなことありませんとも。あはは…(だってまさか神様だと思わないし)…ところで私はここになぜ呼ばれたのでしょうか?」
「なんじゃ、まだ説明しておらんかったのか?」
「ちょうどこれから説明するところだったんです。では一から順に説明しますね。実はこの私が管理する世界で、愚かにも神獣たるこの子を傷つけた不届者が現れまして。傷を負ったこの子が逃げる際に魔力が暴走してしまい、時空の狭間を経由して異世界である地球に転移してしまったのです。」
(神獣?魔力?気になるけど一先ず続きを聞かないと。)
「元々8つの属性の神獣たちがバランスをとることで世界が安定していたのですが、闇の神獣が居なくなってしまったことでバランスが崩れ、メネシスでは天変地異や魔物の凶暴化が始まってしまいました。
このままでは遠からず世界が崩壊してしまうため、なんとか闇の神獣を連れ戻そうと探していたのです。
すぐに地球へ行ってしまったことはわかったので、地球を管理するアマテラスに協力してもらって探していたのです。しかし思ったよりも衰弱していたようで魔力が感じられず、見つけられないでいたところ、いきなりこの子の魔力を感じここに呼び出した、というのが今の状況です。」
「なるほど。つまり私が助けて世話したことで神獣としての力を取り戻したということですか。」
「いえ、それだけではありません。秀一がこの子にクロエと名付けたことにより主従契約が成立し、あなたの魔力を源にしてこの子に力が戻ったのです。」
(契約?魔力?さっぱりわからん)
「主、改めまして助けくれてありがとうニャ」
そう言いながらクロエがエステル様から俺の方へ飛び移ってきた。
「ニャ?主?え、クロエ?クロエが喋ってるのか?」
「そうニャ。主と契約したことで、主とだけは話せるようになったニャ。もちろん女神様たちは別ニャ。」
「か、可愛い。ただでさえ可愛いのに『ニャ』だと…うりうり。どうだここか?」
周りに女神がいることも忘れ無心になってクロエをモフッた。
「ん、んん!秀一よ。話はこれで終わりではないのじゃ。なんならここからの話の方が大事なのじゃ。」
「あ、すいません。ついクロエに夢中になってしまいまして。お話とはなんでしょう?」
「そなたは妾の民であったのじゃが、今回そのクロエと契約したことで、契約者として一緒にメネシスへ行って欲しいのじゃ。本当は妾もこんなことはしたくないのじゃが、メネシスを救うにはこれしか手がないのじゃ。」
「メネシスへ行くってことはクロエと離れずに済むってことですよね?なら大丈夫です!幸い家族ももう居ませんし、行きますよ!」
「ほ、本当か?妾にとって地球で生まれた秀一は息子も同然。せめて向こうへ行っても生きていけるよう妾の加護を授けようぞ。」
「ありがとうございます。地球もいいところでしたが、さっきの話からメネシスはどうも魔法?があるようなので実は少し楽しみだったりします!」
「まだ私の世界についてしっかり説明出来てなかったわね。私の世界は魔法があり、ファンタジーな世界を想像してもらったらわかりやすいと思うわ。」
「ちなみに行けば私も魔法が使えるんですよね?」
「使えるにゃ。主は私と契約したから間違いなく特別な闇魔法が使えるニャ。」
「特別な闇魔法?」
「漆黒魔法といって女神の加護や神獣との契約によって使うことの出来る特別な魔法ニャ。」
「漆黒魔法。厨二病っぽいけどカッコいい!
おーはやく魔法使いたいです!」
「まだ説明したいことがあるから落ち着いてね。秀一にはメネシス適応した身体を持ってもらうために赤ちゃんへ転生してもらうことになるわ。だから魔法が使えるのは当分先ね。もちろん、アマテラスだけでなく、私もあなたに加護を与えるから特別製の身体よ。」
「うぅ、待ちきれませんが我慢します。ちなみに特別製な身体とは?」
「それは生まれてからのお楽しみね♪まぁでも私とは教会に来てくれたら話せるようにしておくから、本当に困ったら教会に来てね。」
「おい、エステルだけずるいのじゃ。妾には妾の民であった秀一を見守るという義務があるのじゃ。」
「ふふ。じゃあ秀一さんが来たらあなたも呼びますね。」
「それでいいのじゃ。では秀一よ。達者で暮らすのじゃぞ。」
「ちょっと待ってください!最後に私は向こうで何をすればいいのか確認させて下さい!」
「秀一がクロエといるだけで世界の崩壊は収まっていくことになるから、クロエと私の世界を精一杯楽しんでくれたらいいわ。あ、でも凶暴化した魔物の退治をしてくれると嬉しいわ。」
(ゆくゆくは使徒として世界の管理を手伝って貰うことになるでしょうけど♪)
「わかりました!では精一杯メネシスを楽しみたいと思います!エステル様、アマテラス様、ありがとうございました!」
そして、おれは再び真っ白の光に包まれた。
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