珠理のキャバ嬢日記

shinmi-kanna

第1話 珠理の誕生秘話

 みなさま初めまして。

私の名は珠理「ジュリ」といいます。

東京の某キャバクラに務めています。俗にいう、キャバ嬢です。


 2021年11月22日蠍座「さそり座」の生まれです。

 みなさまは蠍座の女にどんなイメージをお持ちですか?

 毒がある怖い女ですか?

 大丈夫です。本当に生まれたのは24年と少し前の10月27日です。


 10月27日?………… ん?…………やっぱり蠍座ですね。

 でも安心して下さい。毒はほんの少しだけです。

 刺されても死ぬことはありません。


 血液A型(RH+) T163 B83 W 58 H 90 WT(秘密) キャバ歴2年半

 どこにでもいる普通のキャバ嬢です。


 私は今日、新しい店の面接を受けました。


「前の店はどうして辞めることになったの?。何かあったのですか?」

「いいえ、何も問題は起こしていません。ただ、もっとお金が欲しいからです」


「君がいた〇〇さんの日給も安くはないと思いますけど」

「でも、もっと欲しいのです」


「じゃあいくらくらい稼ぎたいの?」

「はい、月に100万円くらい欲しいので、この店を選びました」


「うーん100万円ね…………」と、店長は考えた後、

「君はキャバクラの経験が2年以上あるから、しっかりやればそれくらいはできると思うよ。日給はこれくらいになるけど、どうだろう?」


そう言って店長はソロバンをはじいて、日給の額を見せてくれました。

 でもそれでは月に25日出勤しても、100万円にはなりません。


「すみません、もう少しアップしていただけないでしょうか」と言ってみました。

すると店長は、

「これでもうちの日給は、業界ではトップクラスなんだけどね………だけど、君のように『たくさんお金が欲しい』とはっきり言うのは悪いことではありません。

まあ、3か月くらいはこれでやってもらい、あとは君の努力次第だね」


 「分かりました。それでお願いします」

「それで、君はいつから来れるの?」


「私は明日からでも大丈夫です」

「じゃあ、名前はどうしよう?」


「綾って名前はどうですか?」

「うちには彩って子がいるから、できれば他の名前にしてくれないかな」


 ふーん、字は違うけど彩って子がいるんだ。

 綾って私が前の店で使っていた源氏名です。綾の名前の継承はなりませんでした。でもそのおかげで私は新しい名前になって、生まれ変わることができました。


 店長が写真入りの在籍キャバ嬢の名簿を見せてくれました。

 

「写真があるのは今いる子で、写真のないのは最近辞めた子だけど、これ以外にしてもらえないかな」


 最近辞めた子と同じ名前は1年間はつかえません。これはキャバクラ業界では普通のことです。発音が似た名前も基本的には使わないことになっています。


「他にもいろいろあるよ、こんな名前はどお?」


 そう言って店長がいろいろキャバ嬢らしい名前の候補を見せてくれました。

 でも好きな名前がありません。

 それで「私、ユリが好きです」と言いました。

 すると店長が「えっ?」といった感じでびっくりしていました。私もびっくりしました。

 

 店長から貰った名刺には石田悠理「いしだ、ゆうり」と書いてありました。

 告白されたのかと思ったのね。店長ごめんなさい。

 でも店長はとっても素敵です。ちょっと見は俳優の斎藤工さんみたいです。

 

 それで名簿をパラパラとめくると、5ページ目の上のほうに「珠理」という文字がありました。


 「この名前は大丈夫ですか?」

 「うん、大丈夫だよ」


 「この名前の人は今まで誰かいたんですか?」

 「いや、誰もいなかったと思うよ。君が初めてだね、それに珠はソロバンの珠だから、縁起がいいね、君はいい字を選んだね」

  

水商売は縁起をとても大切にします。おつりの計算をする時は今でも、ソロバンを使う店がたくさんあります、それも四つ珠ではなく、珠数が多い五つ珠が好まれます。

 こうして初代、珠理が誕生することになりました。


「細かいことはこの後事務所で書いてもらうけど、他に何か聞きたいことはある?」


キャバクラの面接は大体こんな感じで行われます。

私もキャバクラの面接はこの店で3度目になります。それなのにとても緊張しました。でも無事に採用が決まりホッとしました。


 私は珠理、私は珠理、と、間違えないように心の中で何度も唱えました。


 「じゃあ店頭の写真はどうしよう。写すのは今日でもいいし、明日でもいいけど」

 「じゃあ、明日にしてくれますか」


 写真の映りはキャバ嬢の命です。妥協はしません。

 だって、この写真がお店のドアーの前に飾られるんですよ。

 あしたはバッチリと、念入りに特別なメイクをしてまいります。

 私、化けるの結構うまいんです。綺麗になってお客さんとお会いしたいから。


 明日が楽しみ。それじゃあ今夜はおやすみなさい。








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