第六十話 それはまるで外堀を埋めるかのような
2045年7月14日、俺達チーム日本と愉快な仲間達、総勢102名は末期世界第3層攻略のための第二段階作戦に臨もうとしていた。
昨日と一昨日は敵のカチコミもあって色々大変だったけど、何とか撃破したうえ高嶺嬢達も復活することができた。
これが雨降って地固まるって奴かな?
「ヘイヘーイ!
昨日はいじけてたら、とんでもない目に遭っちゃいましたよー!」
「もう戦車はこりごりでござる……」
戦闘後、俺の戦闘指揮車をゲロまみれにしたゲロゲロコンビは今日も元気一杯だ。
やっぱり人型兵器は戦場に連れて行くと元気になるのか。
まあ、冗談は置いといて。
今回はショック療法で二人の精神崩壊を何とかすることができたが、次も同じ手が使えるとは限らない。
超常の戦闘能力を持つと言えど、二人とも精神は意外と乙女っぽい所があるし、これからは一層の配慮が必要になる。
彼女達の運用も今まで通り敵陣地に放り込んで放置という訳にもいかなくなるだろう。
「トモメ・コウズケ、御姉様をあまり無碍には扱わないで下さいまし。
少々突飛な恰好ではありますが、由緒正しき貴族なのですわよ。
これまでの扱いもありますし、相応の責任はきちんと取られるおつもりなのでしょうね!」
赤っぽい茶髪をドリルみてぇに巻いたベネルクスの宝石が白影の運用に口を出す。
こういう外野の目も厳しくなってきたし、味方の人数が増えるってのも考え物だ。
「シャル、この服は古来より伝わる由緒正しき忍び装束…… お主と
それとトモメ殿にあまり恥ずかしいことを申すな!
まだ早いでござる!」
若干怒っているのか、垂れ目がちな蒼い瞳をほんのり吊り上げ、ドリル公女をテシテシとはたく白影。
黒頭巾で目元しか露になっていない為か、怒っているかちょっと分かりにくい。
「も、申し訳ありません御姉様!
シャルが間違っていましたわ!
それとまだ早いって一体どういう意味が……」
傍から見るとあまり痛そうには見えないが、公女は涙目になりながら即座に謝罪していた。
どうやらこの二人の力関係は大きく白影に傾いているようだ。
彼女の忠臣を自負する骸骨みたいなヒョロガリ七三は、何とも言い難い顔で彼女達から目を逸らしていた。
親戚同士だったら多少の無礼は問題ないらしい。
不意に、後ろから服の裾が引っ張られる。
「ぐんまちゃん、ぐんまちゃん」
うん?
高嶺嬢から俺に言いたいことがあるっぽい。
「実は私も旧家です」
存じておりますよ、総理御令孫。
「こういうの逆玉って言うんですか?」
君はいきなり何を言っているんだい?
「高嶺嬢、君は疲れているんだね」
今度の戦いでは彼女の乱用は避けなきゃね!
『ミッション 【今日のノルマです】
資源チップを納品しましょう
鉄鉱石:100枚 食糧:50枚 エネルギー:250枚 希少鉱石:150枚
非鉄鉱石:150枚 飼料:100枚 植物資源:100枚 貴金属鉱石:50枚
汎用資源:50枚
報酬 LJ-203大型旅客機 8機
依頼主:日本国第113代内閣総理大臣 高嶺重徳
コメント;親族同士の顔合わせは済んでおる』
『ミッション 【今日もよろしくお願いします】
資源チップを納品しましょう
鉄鉱石:50枚 食糧:30枚 エネルギー:100枚 希少鉱石:50枚
非鉄鉱石:50枚 飼料:80枚 植物資源:50枚 貴金属鉱石:20枚
汎用資源:20枚
報酬 エアブスA-620大型旅客機 4機
依頼主:ダッセーCEO フィリップ・ダニエル・ジャン・シュバリィー
コメント;まず私と君で話をしよう、それから決めようじゃないか』
『—— 全砲門、効力射に移れ』
末期世界第3層人類戦線総司令官トモメ・コウズケにより後方の自走砲と多連装ロケットの部隊へ下された全力砲撃の指令。
彼の特典である機械人形は忠実にその指令を実行し、統制下の無人兵器群が一斉に咆哮した。
数十秒遅れで巨獣の遠吠えにも似た砲撃音が空間を満たし、100や200では収まらない数の砲弾が滑空する風切り音が響き渡る。
そして次の瞬間、空中に突如姿を現わした障壁と激突した。
「…… いやぁ、参ったな。
見てるだけで列強の力って奴を教えられちまう」
呆れたような声を出すスティーアン。
敵の本拠地と考えられる標高1000mにも満たない山。
その山を覆い尽くすほどの巨大な魔法障壁。
天使達が構築した障壁は、砲弾の嵐に晒されて稲妻のような光と共に甲高い叫び声を上げている。
未だ突破は出来ていないものの、止むことのない砲弾の暴風雨を考えればそれも時間の問題だ。
「我らのような小国では束になったところで叶わない。
列強とはそんな存在だ」
イロコイ連邦のタタンカは既に第一段階作戦と彼らが呼称する攻勢で見たことがあるのだろう。
妾の隣に立つ彼の態度は、日仏を始めとする列強と言われる国家の現状に強い反感を持つ妾達へ助言するかのようだ。
『戦車部隊は指示座標を目標として、これより射撃を開始せよ』
続けて前衛に展開する機甲部隊の戦車砲が射撃を開始した。
彼の理解不能な看破能力が障壁の弱点となる箇所でも察知したのだろう。
根拠も理屈も説明されないし、説明されたとしても妾では分からないが、彼の戦術能力は御姉様の戦闘能力並みに訳の分からない領域に達している。
悔しいけど認めなければならない。
御姉様やハナ・タカミネの戦闘能力に隠れがちだが、彼の戦術家としての能力は伝説レベルと言って良い。
だからこそ妾達、第3世界諸国の探索者は彼の下で戦うことを良しとしたのだ。
実際、彼の指揮下に入っている今は、敵本拠地が目の前に聳え立って砲撃戦の真っ只中にもかかわらず、今後の戦況に何の不安も抱けない。
それほどまでに彼が揃えた戦力と構築された攻城陣地、攻勢ドクトリンは洗練されたものだった。
もしも人類同盟や国際連合の軍を彼が直接指揮していたら、同盟が1ヵ月近くかけてようやく攻略した高度魔法世界第3層も1、2週間程度で攻略できていたのではないか。
連合が主力軍を合流させてくれていれば、もっと短い期間になるだろう。
それなのに列強同士の利権争いと政治的対立で協力できないまま、彼らは無駄な時間と物資、人命を浪費している。
目の前に地球を侵略しようとする人類共通の敵が存在しているのに……!!
巨大ダムが小さな穴から決壊するかのように、戦車からのAPFSDS(Armor-Piercing Fin-Stabilized Discarding Sabot:装弾筒付翼安定徹甲弾)の集中射撃でいとも容易く崩壊した魔法障壁。
『戦車部隊は撃ち方止め、砲撃部隊は弾種を榴弾に変更し効力射を継続せよ』
「それでもっ、妾は、今の列強を認める訳にはっ……!」
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