第二十三話 委員長と幼馴染
6月30日、人類同盟の要請に従う形で日仏連合が本格参戦。
それに伴い人類側は戦線の戦力配置を再分配した。
目の前に広がる川幅50mはある河川。
その対岸には灰色のトーチカが川岸を埋め尽くしていた。
「ヘイヘーイ、今日は絶好の戦闘日和ですねー!」
久々の明るいうちからの正面戦闘だからだろうか。
高嶺嬢はいつにも増して張り切っている。
パッチリおめめをギラギラさせながら、抜身の大太刀をブンブンと振り回す様は狂気すら感じ取れた。
「ようやくカトンジツ解禁…… みなぎってくるでござるな」
白影はウキウキと戦闘開始を待ち望んでいる。
雪化粧された環境下で全身黒尽くめは、忍びという言葉に真っ向から喧嘩を売っていた。
毎度のこと思うが、カトンジツの派手さもあってこの娘は忍者にほとほと向いていない。
そんなんだからNINJAって呼ばれるんだよ!
日仏連合は北部戦線を丸々担当することになったのだが、実質的に守りを固める場所は3ヶ所の橋とこの場所のみ。
俺は人類同盟から譲渡された無人戦車1個連隊と無人機銃座48基を3ヶ所の橋に分散させ、従者ロボも2体ずつ配置した。
結果、手元には高嶺嬢と白影、従者ロボ10体が残っている。
そして————
「トモメ・コウズケ、この地点に配置した兵力は少ないように感じます。
本当に問題は無いのですか?」
禍々しいショッキングピンクの長槍を携えた美少女。
纏う雰囲気はクラスの委員長といったところか。
「もう、だからあたし達がいるんでしょ!
トモメ君、あたし、頑張っちゃうよ!!」
絵に描いたような幼馴染の美少女が、俺を上手くフォローしてくれる。
その手には、自身の身長と大して変わらない全長の大型ライフルが抱えられていた。
この二人はホモゲイスから借り受けた臨時戦力と言う名の監視役だ。
彼の特典である水筒のおまけでついてくる美少女達、その数は、今では12人にもなるらしい。
その内に二人、『槍使いの美少女(委員長)』と『水筒に飲み物を入れてくれる美少女(幼馴染)』が彼女達だ。
ホモゲイス曰く、委員長は槍の達人であり、幼馴染はあらゆる兵器のスペシャリスト。
どの程度の戦力になるかは分からないが、少なくとも俺相手なら瞬殺できる程度には強いんだろうな。
上空では同盟の無人機と敵の戦闘機が既にドンパチやっていた。
砲火の音が戦場音楽を奏で、至る所から立ちあがる黒煙が曇天を黒く染める。
「よし、俺達も一丁やるとしようか!」
「カトンジツ!」
その掛け声と共に放たれた一条の火線が開戦の合図となった。
敵のトーチカで埋め尽くされた川岸は、轟然とした爆音と共に全てが火の海に飲み込まれてしまう。
幾多の命を喰らった業火が、白雪の戦場を赤々と照らす。
そんな地獄絵図を一瞬で作り上げた黒尽くめの少女、NINJAマスター白影は、疾風の如き速さで川上を駆け抜け、火の海に飛び込んでいった。
私、日仏連合を監視するために派遣された『槍使いの美少女(委員長)』は、その光景をトモメ・コウズケが操縦するヘリから呆然と眺める。
白影はいかなる業火の中でも悠々と駆け抜け、火の海をさらに拡大させてゆく。
「ヘイヘーイ、黒いのは随分盛ってるじゃないですかー。
私だって負けませんよー!」
白い外套を羽織った少女、ハナ・タカミネはそう言うやいなや、まだ上空に留まったままのヘリから止める間もなく飛び降りた。
今の高度は少なく見積もっても200mはある。
ただの投身自殺だが、飛び降りていった彼女は着地した途端、何事もなかったかのように市街地の奥に駆け出していく。
「…… 頭おかしいよぉ」
同じく監視役として派遣された『水筒に飲み物を入れてくれる美少女(幼馴染)』が、震える声で呟いた。
全くもって同感だ。
「よし、あそこの広場に着陸するから、しっかり捕まってろよ!」
ヘリを操縦するトモメ・コウズケの声。
ヘリの着陸程度、何かに捕まらなくとも問題はない。
しかし、隣を見れば幼馴染は、律義に指示を守ってシートにしがみついていた。
全く、大げさなっ——
突然、横倒しになる機内。
メインローターによる揚力は失われ、まるで無重力になったかのような体感。
窓の外に広がる薄汚れた市街地がどんどん大きくなり、脳裏には死が過ぎる。
「最後にあのクッソ汚いホモを殴りたかった……」
自然と零れるのは僅かばかりの心残り。
しかしヘリは私の悲観を覆すように、危なげなく態勢を立て直し、気持ち悪いほどすんなりと着陸した。
何が起きたのかは理解できない。
「しゃぁっ、お前ら、市街地の敵兵を刈り尽くしてこい!!」
性格が変わってしまったのかと思うほど荒々しい指示。
従者ロボが機敏な動きでヘリから降りてゆく。
私と幼馴染も彼らに続けば、ヘリは瞬く間に大地から離れ、こちらに向かってきている敵機の群れに突撃していった。
高性能機とは言え回転翼機1機で数十機の戦闘機に突っ込んていくとは……
「委員長、あたし達も早く行こっ!」
幼馴染が対物ライフルのコッキングレバーを引いて私を促した。
気づけば従者ロボ達は2組に分かれて、NINJAマスター白影とハナ・タカミネがいる方向へ向かっている。
どうやら私達は少し出遅れたようだ。
「ええ、私達も仕事をするとしましょうか」
ホモから支給された魔槍、第801世界の魔羅王が愛槍ゲイ・ほるク。
手に馴染んでしまった魔槍が、ビクンッと脈打つ。
どうやら獲物に飢えているようだ。
「よーし、トモメ君に良いとこ見せちゃうぞー!」
初めてのホモ以外の上官で張り切っている幼馴染。
威勢の良い彼女の後に続いて、私も戦場へと駆け出した。
鬼が待つともしれない、戦場へと……
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