第34話 捜査講座②
目の前の三つの資料を読む柳。
一つ目は川や湖での多発する水難事故。
二つ目はA市のカルト宗教施設で行われた惨殺事件。
三つ目は街中で起きた連続猟奇殺人。死体は全て臓器がその場で抜き取られていた。
柳は一つ目のファイルを読む。最初柳が関わった事件かと思ったが違った。どうも証言や証拠からは急に水底に引きずり込まれ、二度と上がってこないらしい。捜索は行われたが水底に遺留品はあれど、被害者計十四名の遺体は見つかっていない。
二つ目のカルト宗教の資料はここ、A市内にある森の中にあった建物で起きた。五年前に公安にも目を付けられていた過激派の新興宗教団体、「真理の瞳」がある日突然、全員鈍器のようなもので撲殺されていたらしい。教祖の
三つ目、この殺人事件はいつも早朝に死体が発見され、推定死亡時刻はそこから一時間以内。そのどれもが、あまりの凄惨な姿で発見者が気絶し通報が遅れることもしばしばあった。一般には広まっていないが仏の腹は裂け、頭は割れ、臓器と呼べるもの全てを引き抜かれた状態だった。肉と皮と骨。おぞましき人の加工肉と言えよう物体が、夥しい量の血痕とそこに残る。六名の共通点の無い被害者が出ており、その事件現場もバラバラ。だが十年前の事件の容疑者、
「さて、どれかわかるかね?」
柳の頭で纏めた情報では導き出せる答えはわからない。
どれもこれも六課がらみではありそうではあるが。というかA市が魔境過ぎる。
「案外、表に出てないだけでこういうことは地方程多いのだよ」
柳の心を見透かしたように警部はコーヒーを飲みながら言う。
「今から一時間、その後に答え合わせだ。もう少し読んでみたらどうだ?スマホ、使ってもいいよ」
吞気にまだ居た鴉女医と談笑しながら警部はタイマーをセットする。
柳はネットで事件のあった現場周辺に検索をかけ怪しいところがないか探している。水難事故は幽霊が足を引っ張った等の話はあるが、ただ足を水に取られただけだと噂もある。
宗教団体惨殺なら儀式でそんなこともあるのではないかとは思ったが誰か一人を撲殺するならまだしも、最後の一人はどうやって自分を殺すのだ?資料には一人残らずとある。これは人ならざるモノの犯行と言えるのではないか?
猟奇殺人は容疑者死亡として幕を閉じたが犯行方法が不可解な点が多い。犯行現場はそれぞれ裏路地、下水道、山道など人目につきにくい場所ではあるが誰にもバレずに路上で人を解体するのはそう簡単にではない。普通、被害者は抵抗するし臓器を一つ残らず、それも頭部の細かい三半規管なども持って行くような事が短時間でできるのだろうか?これも人ならざるモノの犯行と言える。
「さて、もうそろそろ時間だ。わかったかね?」
「これ他の人にも聞いていいんですか?」
「駄目だ。こちらからヒントは与えられない」
「そうですか……」
頭を抱えよく資料に目を凝らす。ふと、気になる点を見つけた。二つ目の資料の事件現場の写真。何処かで見た記憶がある。
「そこまでだ。さ、答えは?」
それを考える前に警部が催促してきた。
「うーん、二ですかね」
「残念。答えは三だ。ま、一を選ばなかっただけ良しとするか」
「答え合わせと行こうか。さて前二つ、実は一つ目は異常存在が関わっている」
「え!?」
柳が驚いたのは二つ目に一切異常存在が関わっていない事だった。
「だが我々が動かなかったのは理由は簡単だ。一つ目は幽霊が関わっていて、民間の霊媒師や霊能者と呼ばれる人間で十分だった。二つ目は信者が術を持っていたけど殺したのは全部人間だったという証拠があっただけなんだ」
「三つ目にはあたしも関わっていたからね。あんな手際よく解体した奴の
柳が何度もずっと資料を眺めている間、ずっと事務所の紅茶をわんさか飲んでいた鴉女医が口を開いた。
「二は単に解決してないだけなんですか?」
「ああ、犯人は未だ行方知れずだが。当時、稲永君にも見てきて貰ったが異常は無かったからね。まぁこの話はおいておこう」
警部は資料を回収する。
「さて?どうだった?今日はもう大して何かするわけでもないし終わって良いよ」
「え!?もう!?」
時刻は昼前。思っていたより早く終わって拍子抜けの柳。
「ちょっと待って」
鴉女医は何かに気づいたのかの機械を取り出し、柳を呼び止める。
「今日変な夢見たでしょ」
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