第20話 応援要請
稲永が高校に向かう同時刻。警察署地下、六課。
「まぁ柳君、そこまで悲観する必要はない。せいぜい利用してやればいい」
「なに……言ってるんですか?」
狸の口から飛び出た言葉に耳を疑う柳。
彼は自分の口で神の恐ろしさを語ったはずなのに
「いくら神と言っても君に害意を持って接しているわけではないらしいじゃないか。ならばそれを上手いこと回していれば心強い味方にはなるぞ?」
きっと彼は今までもそうやって生きて来たのだろう。
柳は伏泰平が六課に来た理由が、少しわかったような気がした。
彼は刑事にしておくには、何処か危うい。そう直感した。
柳には純粋無垢の少女を利用できるような狡賢い人間にはなれない。彼も純粋だから。
「さて、取り敢えず。異常存在はこんなものだ。何か聞いて置きたいことはあるかね?ないなら……このまま昼食にしよう」
そう言って部屋の時計を確認する伏警部。
時計は十二時を指している。
「無いですね」
それではと、警部がデスクに弁当を取り出していざ食べようとした時、伏の電話が鳴る。
「はい。伏です。あぁ稲永君。アレ?、アレってアレか?柳君に?そうか、相手は?は?外来人?流石に危険じゃ……」
「ジャーン!」
伏が稲永の提案を却下しようとした時、柳の背後、入口近くのロッカーからヤマダが飛び出してくる。
「うわ!」
「待ってくれヤマダクン、今電話中なんだ」
「そのことで来たんだ」
驚く柳だが慣れ切った冷静な伏の対応は呆れているようだった。
「新人クン、連れて行って。」
「何を言っているのかね!?神より弱いとはいえ…」
「だからだよ。今のうちにその鱗片を知って置かないと」
伏警部の言葉を遮ったヤマダは、柳の前に出て言う。
そのヤマダの顔を見た伏警部の顔つきが変わる。
「……何を知っている?」
「私独特のネットワークとでも」
「……君はいつもそうだ。頑なに詳細を言おうとしない。君は何の為に行動しているのかね?」
身動きしないヤマダと、机に肘を置いて顔の前で手を組み、今にも射て殺さんとする眼付きの伏。
柳には二人の間で何が起こっているのかは分からない。
長い沈黙の後ヤマダが口を開く。
「ここしばらく外的存在による事件が増えてくる」
「それも君のネットワークかね」
「それに対抗する為に私は敢えて柳君は月に行かせた」
「……そうか、そう言うことか」
そのままの姿勢で俯く警部。彼の頭の中で、一体どんな想定が組まれているのだろうか。その声は重い。
「柳君、ちょっと待っていてくれ」
そう言って伏警部は立ち上がり部屋から出る。
ヤマダはその場から動かない。
どういうことかわからない柳は目の前のヤマダに話を聞こうとする。
「何なんです?何の話だったんです?」
「気にしないで。大した話じゃないから~」
そう振り返ってヤマダはいつもの調子で言う。だが柳にはどうにも釈然としない。彼女らの話から柳がわかった事は、我々が彼女の掌の上で転がされていたこと。
だがそれで事態が深刻にはなっていない。柳には彼女の何も知らない。追求しようにも柳は彼女を動かせるだけのカードがない。
「どうしたの?新人クン?」
ただヤマダを見つめ何も言わない柳に彼女は不思議そうに尋ねる。
「柳君!これを稲永君のところに持って行ってくれ!」
部屋に戻って来た警部は、柳に不思議な紋様が描かれた黒く漆塗りされた二つの
木札を渡した。
「それが有れば神や外来人の精神干渉に抵抗出来る。まぁ効くのは精神攻撃であって普通に物理干渉は無理なんだがね。あ、後それAS反応するから切った方がいい」
柳がASを見ると警告一歩手前、ランプは黄色に光ってる。
上着を着て六課事務所の扉に手をかけ、何処に持って行けばいいか聞いていなかったと気付いた柳が振り返ると同時に、ヤマダが手を叩いた。
「時間がないから私が連れてくね~」
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