第17話 伏泰平先生のオカルト授業
柳が目を覚ました時、そこには満足そうに眠る少女。
布団から置き身支度を始める。久しぶりに目覚めがいい。柳は自身に取り憑いていた落ちモノが綺麗に剝がれた感覚だった。
だがそれと同時に夢の内容を思い出す。あの黒く塗りつぶされた少女、最初出会った時は朧げで顔もわからない。
今も布団で眠る子供に柳は視線を移す。
だがその確証は無い。彼女自身も記憶が無い。
仮説を立てても立証しようがない問答は捨て置き、朝食を作る。肉と米を調理しながら今後の事を考える。いつまで姫がここにいるのかはわからないが、彼女の為にもちゃんとした食材を買っておくべきだろうか?
「ご飯?」
「あぁ、肉しかないが」
「缶詰は?」
「あーサバ味噌ぐらいか?」
寝起きで眠たそうに言う姫。
いくら子供でも缶詰めそのままで旨いものはあるのだろうか。少なくとも柳の家にあるのはサバ缶くらいだった。甘くもないトウモロコシや味の薄いツナよりかは違うはずだ。
「食べる~」
「姫、お前どうすんだ?」
「どうするって?」
「俺は仕事があるがお前は今日どうすんだよ」
「ボクも神だからやる事があるからね~」
寝ぼけまなこの少女はどう見ても髪色以外は普通の少女に見える。それも海外から来た子と言ってしまえば済むようなものだが。柳には実感が無いがそれでも彼女は神。そんな彼女のやる事とは一体なんだろうか?
「何すんだよ?」
「ふふふ~秘密~」
そこまで気にしていない柳はそうかと言って話を切る。
朝八時、家を出て姫と別れた柳。警察生活七日目、柳が月に誘拐されてから五日間。一日だけ濃すぎる警察生活だったが、伏警部は「基本をおろそかにしていたら意味が無い事を失念していた」とこの五日間で捜査の基本や訓練をつけてくれた。稲永は捜査に行ってる。
「さて柳君、君はどこまで異常存在について知っているのかね?」
そして今日、柳は伏警部とマンツーマンで講義を受けている。
「えっと、霊と妖怪の怪異と……神のなんでしたっけ?」
「よし、じゃあ念のため最初からやろう」
「異常存在、幽霊と妖怪の怪異、宇宙人と神と外来人が外的存在と呼ばれる」
「はい」
「何かね?」
「宇宙人と神はわかるんですけど、外来人てなんですか?」
「外来人とは神と似たようなものだ。厳密には神の眷属だ」
「眷属?」
「そう。神ほどの力ではないが、神によって力を得たの能力者だ。その者達は大抵、別世界から送られてくる。カミサマテンセイ?とか訳の分からない戯言を吹き込まれた者たちの場合、好き勝手するから冗談じゃない!全くこちらとしてはいい迷惑なんだ!この世界は掃き溜めじゃないんだぞ!」
「警部!ちょっとちょっとそこまでにしましょう!」
「ああそうだったな。たくっ」
伏警部はこの話をしただけでこめかみに青筋が浮かんでいる。
「じゃあ先にこの話をしよう。外的存在は別世界からくると言ったが怪異は何処からくるか」
「人間の念が生み出すんですよね?」
「そうだ。じゃあその二つの違いは何か?霊は人間一人一人の念で作られ、妖怪は多数の人間の恐れから産まれる。個人か多人数かだね。無論人数が多ければ力も増すが一つ例外がある。それは狂気。尋常ならざる感情を含んだそれは並大抵の怪異を圧倒できる程の力を得る。要するにどっちの感情が強いかの勝負だ。ちなみに怪異はASに反応するぞ」
「へー」
今ここで柳がどれほど覚えられたかは定かではない。
「実は六課としてはそこまで怪異は敵ではない。対処法は分かり易いからね。戦闘能力が無くても退治はできる。問題は外的存在だ」
「と言うことは戦闘能力必須なんですか?」
「それもそうだし何よりも神が一番厄介なんだ。力ある妖怪でもまだ先人の残した術から分析して封印出来る。」
「分析できるんだ……」
その研究をした人は一体何者なんだろうか。
「伝承ある神はまだどうにか出来るかもしれないが、事件を起こす多くの神は未知の勢力なんだ。それ故に力で黙らせるしかない」
「そう簡単に行くんですか?」
「そう行ってくれたらいいんだがなぁ」
悲しそうに言う伏警部はきっと苦労させられているのだろう。
「じゃあ一番簡単な宇宙人から行こう。彼らは基本的に一芸に秀でた種族とでも思っていればいい。科学技術や身体能力、魔術のどれかが超越レベルで発展していたりバランス良く整ってたりする。策使って物理で殴って殺せる。次に外来人。彼らは基本人間と変わらない、神の力を使えるだけで」
「なにが神とは違うんですか?」
「耐久性と知能、身体能力、術全てだ。要するに神の下位互換だ。頑張れば殺せる。まあ言ってしまえば超能力者だ。だがそれは世界の理まで書き換えることが出来てしまうのだがね。君はその力を受けてないからまだわからないと思うが」
確かに柳は誘拐されて少し記憶を消されただけ。これだけでもただ事ではないのに伏警部曰く、まだ生ぬるいレベルだそうだ。
「そして神。全知全能から何か一つの概念のみを司る者もいるが全てにおいて人間を超越している。まず人間では殺せないと思ってくれて構わない」
柳は理解した。その一言で柳は常に命の危機にいる状態だったのだと悟った。
「あ、あの伏警部……」
「何かね?」
「俺の家に居候してる神が……」
「あぁ、諦めてくれ……ヤマダクンから聞いてる」
二人揃って深い悲しみに暮れる。彼が言うのだから彼らではどうしようもないのだろう。
「どうにかならないんですか」
とはいえ簡単に諦められる問題ではない。
「どうにかと言ってもその神の目的は何なのかね?基本的に神は権能と欲が行動理由だ。それさえどうにかすれば勝手帰ってくれるはずだが?」
「どうも彼女の奉仕種族が言うには神になると同時に俺に印を刻んだらしいのですが」
「じゃあもう駄目では?君にどういう理由かは知らないが最初から執着されてはこちらとしては何も言えないよ」
無慈悲な狸の宣告に柳の希望は砕かれた。
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