第36話
俺達二人の前に突然現れた
目にいっぱいの涙を溜めて
「私、ずっと心配してたんだよ!? スマホのメッセージも既読付かないし、家に行っても全然出ないから」
「.........」
兎苺の問いかけに顔を背けて視線を地面に落とす。
「加那、この子知り合いか?」
「......うん。例の幼馴染み」
「え? お兄さん!? なんでここに!?」
どうやら加那に夢中で俺のことには全く気づいていなかった様子。
それだけ加那と会うことに必死だったということか。
でなければこんな夜遅い時間まで友達の家に押しかけたりはしない。
「いやまぁ......俺と加那はちょっと顔見知りでね。こいつを家まで送る途中だったんだ」
「そうだったんですね」
口を開けて何度も
「でも元気そうでほっとしたよ。あんなことがあったから、加那ちゃん一人で大丈夫かなって思ってたから」
が、加那はその手を冷淡に払いのけ、重い口を開いた。
「――大丈夫なわけないじゃん」
「加那ちゃん?」
「今頃何にしに来たの? 肝心な時に
「落ち着いて加那ちゃん!」
「おいロコ、いくらなんでも心配して会いに来た友達にそれは――」
「剣真は黙ってて!」
強い視線と口調で俺を静止させる。
加那、ロコから初めて向けられた怒りの感情に俺は困惑した。
「......ごめん。ちょっと急に体調が悪くなっちゃって.........私、もう帰るね」
そう言って加那は一歩前へ踏み出すと、逃げるようにその場から走り出した。
「待ってよ加那ちゃん!」
ロコを引き留めようとする彼女の腕を俺は
「加那にはあとで俺の方からメッセージ送るからさ、キミも今日はもう帰った方がいい。駅まで送るから」
時刻は夜の11時半を回っており、路線によっては終電時間が近い。
治安が良い地区でも、こんな時間に制服姿のJKを一人で帰らせるのは抵抗がある。
「.........はい、分かりました。すいません、よろしくお願いします」
数秒の間の後、観念したのか俺の提案を素直に受け入れ、残念そうに彼女は頭を下げた。
*
俺は彼女、兎苺ちゃんを駅まで送りながら、ロコにスマホで『今彼女を駅まで送ってる』とだけメッセージを送信した。
すぐに既読は付いたものの、なかなか返事が返ってこない。
「それにしても驚きました。お兄さん、加那ちゃんとお知り合いだったんですね」
横目でスマホを一通り操作し終わるのを確認し、彼女は俺に話しかけてきた。
「俺の方こそ、キミが会いたかった友達がまさか加那とは思わなかったよ」
シャッターがほとんど閉まっている商店街は、日中とはまた別の顔を覗かせていた。
その独特な雰囲気と静けさは、人だけでなくお店も眠りについているとことを感じさせる。
時間帯的にも商店街の先、
「......あの、お兄さんは加那ちゃんとはどういうご関係で?」
何故か頬を赤らめ、おずおずと彼女、兎苺ちゃんは俺に訊ねてきた。
「関係か......兄妹みたいなもんかな」
「兄妹ですか?」
「あぁ。短い期間だったけど、昔俺の実家に加那がお世話になってた時期があってね。その時によく加那の面倒をみてたんだ」
俺は何も嘘をついていない。
約二年間、あいつと一緒に住んでいた事実がある。
もっともこの話はあいつが前世の時の話だが。
「そうだったんですね......私てっきり加那ちゃんの恋人だと勘違いしてました」
「俺が加那の彼女? ないない! 絶対ありえない! 第一、こんなおっさんが女子高生と付き合ってたらヤバイから」
「そうなんですか? 私のクラスメイトでも大人の男性と付き合ってる子、結構いますよ。中にはお小遣いまでくれる彼氏さんまでいるみたいで。羨ましいです」
純粋に目を輝かせて、恋する乙女のようにうっとりした表情を浮かべる。
どうやら兎苺ちゃんの周辺はパパ活に
この子にはそんな風になってほしくないので、あとでそれとなく伝えておこう。
「......お兄さんは、加那ちゃんの事情をどこまでご存じなんですか?」
一転して真面目な表情で俺に問いかける。
事情という言い方が嫌に引っかかって、胸の奥がざわざわと音を立てて騒ぎ始めた。
「事情も何も俺、加那の今の家のこと、ほとんど知らなくて」
「そうなんですか?」
「前に加那に訊こうとして何回か試してみたんだけど......その度に適当に誤魔化されちゃって。家のことをあまり知られたくないんだろうなぁ」
心当たりがある反応のようで、彼女は何度も小さく頷いた。
本人が話したくないことを無理矢理を喋らせるのはどうかと思っていたが......ここまで不穏な空気が漂うと加那、いやロコのことをもっとしっかり知っておかなければ。
家族として、逃げるわけにはいかない。
「――良かったら今の加那のこと、教えてくれないかな? キミの知っている範囲でかまわないから」
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