第4話

 翌朝、アテナイア王朝の三姉妹は今日も元気いっぱいで、ダイニングルームに駆けこんで匠に抱きついた。


「怪獣たち、明日からベルボトム幼稚園に通うんだよ!」

 三人を抱き上げた匠が言う。

「べるぼとむ幼稚園!?」

 三姉妹は顔を見合わせて異口同音に言った。


「パパ上、タイムアウト!タイムアウト!」

 両手でアルファベットの「T」を作ってメロディが匠に合図する。

「ピーッ!モンスターズ、一分間のタイムアウトです!」

 匠は抱き上げていた三つ子をそっと床に降ろした。


「ハドル!」

 メロディが号令をかけると、キャンディとシャンプーが駆け寄った。三姉妹お気に入りの場所、ソファの脇にしゃがんで顔を突き合わせる。

「ねえ、聞いた?ベルボトム幼稚園だって!」

とメロディ。

「聞いた!」

とキャンディ。

「そばにいたから聞こえた!ねえ、べるぼとむってなに?」

とシャンプー。

「あんた、知らないの?」

「わたしも知らない!変な名前~!」

「ねえ、メロディ、べるぼとむってなに?」

「幼稚園の名前よ!聞いてなかったの?」

「幼稚園なのは知ってるもん。ねえ、べるぼとむってなに?」

「なんで知らないの?ベルボトムよ!」


「知らないもん。べるぼとむってなに?」

「だからベルボトムなの!」

「意味わかんないよ~」

 シャンプ―が泣きそうな顔をして言うと、キャンディが容赦なく突っこんだ。

「メロディ、あんたも知らないんでしょ!」

「・・・」

「あきれた~!メロディ、知らないのにハドルを組んだの?」

「だって三人しかいないんだもん。スクラム組めないでしょ!」

 メロディは返答に困って話題をすり替えた。

「ねえ、すくらむってなに?」

「スクラムっていうのはね、ラグビーでみんなが肩を組むの」

 メロディはシャンプーに丁寧に説明した。

「なんで肩を組むの?らぐびーってなに?」

「なんでラグビーの話してんの?幼稚園じゃないの?」

 キャンディがまた突っ込む。


「・・・つまりね、ベルボトム幼稚園に私たちは入るの!」

 メロディがしかたなく最初の話題に戻した途端に、シャンプーも最初の質問に戻ってしまう。

「それ、パパ上に聞いたよ。ねえ、べるぼとむってなに?」

「メロディ、作戦会議になってないよ~!」

 キャンディが口を尖らせて文句を言うと、シャンプーがため息をついた。

「また、わからないことが増えちった!」

「・・・」

 三人は黙りこくって顔を見合わせた。


「ねえ、わたしたち、昔のおトイレでしゃがんでるみたい!」

 シャンプーが言うと、メロディとキャンディーは異口同音に言った。

「シャンプー、あんたって時どき不適切発言するわね~」


「ピーっ!タイムアウト終了。朝ごはんよ~!」

 そこへ折よく、キッチンから食事を運んできたアロンダが声をかけた。三姉妹は歓声をあげて、母親に駆け寄って抱きついた。

「ママ上、おはよ~」

「ママ上、わたし、お馬で幼稚園行っていい?」

「うちに馬なんかいないでしょ!なに言ってんの?」

「お馬はムリねえ~、でもロバが送ってくれるって」

 アロンダが優しく言った。


「えッー?驢馬・・・??」

 三姉妹が異口同音にしかめっ面をして顔を見合わせると、アロンダは娘たちの頭を撫でながら、朗らかに笑った。

「パパ上のあだ名よ~。ミドルネームがロバートでしょ?」

 

「が~ん、パパ上って驢馬ろばだったの!?」

とメロディ。

「王様だもんね、一応。耳はフツーなのにね~」

とキャンディ。

「ねえ、みどるねーむってなに?」

とシャンプー。

「服は着てるのにね~」

「それって裸の王様でしょ?なに言ってんの」

「ねえ、みどるねーむってなに?」


 というわけで、三姉妹の作戦会議は紛糾して収拾がつかないまま中断、その後も驢馬を巡って大混乱。

 なし崩し的に謎の「ベルボトム幼稚園」に入園することに。

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