天使と悪魔

 息を切らして走っていた俺は、道端に財布が落ちているのを視界の端に捉えて足を止めた。近寄って手に取ると、それは重厚感があっていかにも高そうなシロモノだった。

 そして今、俺のことを見ている人は誰もいない。


 悪魔が言う。

『金に困ってるんだろ?財布なんか落とす奴が悪いんだ、もらっとけよ!』


 天使が言う。

『貴方のすることに間違いは無いわ! 自分に自信を持って! さあ、もらっていきましょう!』


 そうだ、俺の行いに間違いは無いのだ。俺のすることは全て正しい。それに、警察から逃げるのにだって幾らか金は必要だろう。

 そうと決まれば話は早い。札とカードの類を素早く抜き取って本体を捨て、血液で汚れた両手をどこで洗おうかと思案しながら俺は再び走り出した。

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