第6話 トリック

『けれど花咲さんの財布は確かに巾着袋にいれられたという平さんの証言があった。巾着には入っていたはずだ』

『それってどういうこと?』

『大きな袋の中に小さな袋を入れて二重になっているものを想像して欲しい。細川君の財布は普通の大きな巾着袋に入った。そして花咲さんの財布はその内にある小さな袋に入った。そうすれば細川君の財布にラメはつかない』


読んだだけでは意味が理解できず、花咲は読み上げながら黒板に図を書いてみた。いつもの大きな巾着。その中に細川の財布と小さな巾着。その中に花咲の財布。

ラメがつかない理由。それは大きな袋と、その中にある小さな袋の中でそれぞれ財布が分けて入っていたためだ。しかしどうしてそんな事になっているかがわからない。


『朝、まず細川君が財布を大きな巾着に入れる。次に花咲さんが財布を小さい方の巾着にいれる』


「ちょっと待って、誰もそんな変な動きはしていなかったと思う」


リアルで声を上げたのは平だった。すぐさま書き込みがある。


『巾着にいれるのは預ける側で、丹波先生が巾着を広げていたはずだ。すべての事が大きな巾着の中で行われていたんだ。先生は最初普通に大きい巾着を広げる。そこに細川君が財布を入れる。次に小さな巾着を広げて、花咲さんはそっちを大きないつもの巾着と思い込み財布を入れる。先生大きな巾着を閉じる。そうすれば誰にも見られず二つの財布を別々にできる』


「そっか、それなら丹波先生は袋の入口を変えるだけで、怪しく見えないように財布を分けられる……」


まるで手品のタネのようなことに平は納得する。しかし謎はとけつつあるものの、新たにわかる事があり生徒の中には少しずつ不安が広がった。


「待って、それじゃあ丹波先生が犯人ってこと?」


リアルで湧き上がった言葉は無視するように、書き込みは増えた。


『あとは先生は帰りのホームルームで小さい巾着を引き抜いて金庫に残しておき、大きな巾着をいつも通りに出して、細川君に返す。金庫の中は先生の体で見えないから誰にも怪しまれず閉められる。それで財布が返ってないと言いに来た花咲さんは勘違いしたってことにして、教室から皆が帰ってから金庫から花咲さんの財布を取り出す。あとは明日にでもなんでもないような顔して【巾着から飛び出て金庫の中にあった】とでも言えばいい』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る