第77話 私と土下座と愛の言葉
またロザリンド視点に戻ります。
時間は少し遡り、カーティスをディルクの所に送り出した直後になります。
私は我が家のエントランスでグルグル回っていました。
「落ち着きなよ、ロザリンド」
兄が呆れたように話しかけます。
「だって…私ディルクに嫌いとか言っちゃったんですよ!?確実に傷つきましたよ!他に言い方があったはずなのに!やっぱり私が行けばよかったぁぁ!ディルクぅぅ~」
冷静になった私は涙目です。ディルクは獣人ハーフだからか冷遇され、それを当たり前としてきたから自信がなかった。3年かけてやっと私に愛されていると思うようになってくれたのに、マイナスになったらどうしよう。
「だから落ち着きなよ。今回の件はディルクだって悪いでしょ。お互い方向性は同じだったはずだよ。着地点がずれただけ。ロザリンドはディルクとしか結婚しないと言った」
「はい」
「ディルクはロザリンドを誰にも渡さないために、力を示して自分がロザリンドに相応しいと皆に認めさせようとした」
「え?」
「そこからなの?ディルクは負けるつもりは微塵も無かったよ」
「獣人にはそうやってつがいに言い寄る相手を叩きのめして認めさせる風習がある」
ジェラルディンさんが補足した。
「ディルクが悪かったのはその辺りをちゃんとロザリンドに言わなかったことかな。ロザリンドの意思を無視して争奪戦になっちゃったからね。実際ロザリンドには通じてなかったわけだし」
「それから、つがいを奪おうとする輩への怒りのあまり我を忘れていたようだ。若い獣人にはよくあることだな」
「そ、そうなんですか」
つまり、すれ違ったわけかな。私もディルクに皆につがいだと認めてもらうためだから!と説得されてれば、怒らなかったかな?
「あと、ディルクもやり過ぎだったしロザリンドが止めたのはいいタイミングだったかも。ジェンドも引かなかったから、怪我じゃ済まなかった可能性もあったし」
「うむ。つがいを奪おうとして返り討ちにあい、命を落とすのは獣人にはよくあることだ」
「よくあってたまるかマイペース脳筋!!」
戦乙女のハリセンがジェラルディンさんに炸裂した。兄もジェラルディンさんの発言にドン引きしている。
「人命第一!!」
「しかし男の戦いに…「人命第一!!男のプライドとメンツなんて人命の前では塵に等しいわ!!」
「ロザリンドに同意。そんなんで死なないでよ。生きろ」
兄もすかさず同意した。ジェラルディンさんは何かいいたそうだったがまたシバかれるのは嫌なのか黙った。
兄は私を優しく撫でる。
「まぁ、カーティスさんは要領よさそうだから、そのうちディルクも落ち着いて戻ってくるよ。部屋で待ってな。なんて謝るか、ゆっくり考えておきなよ」
「はーい。兄様ありがとう」
兄にギュッと抱き着くと、自室に戻って考えた。どう謝罪すべきだろうか。ごめんなさい?大好き?上手くまとまらない。私は必死に考えて考えて考えた。
「お嬢様、ディルク様がお見えになりました」
マーサの声がした。待って!まだ考えついてないの!!もう少し待ってください!混乱する私に、無情にも扉が開こうとする。
扉をディルクが開けた。私は誠意を示すため、古きよき日本の心・最終兵器DO☆GE☆ZAをもってディルクを出迎えた。
見よ、日本の心意気!!私は完璧な土下座を披露した。
「嫌いなんて嘘ですごめんなさい世界一愛してます!!」
「え?ええええええ!?」
ノンブレスで言い切った私に、ディルクは驚いた様子。一瞬見えた尻尾がブワッてなってた。
慌てて駆け寄るディルク。私を起こそうとする。
「なんで土下座!?謝るのは俺じゃないの!?怒ってたんじゃないの!?俺もロザリンドを世界一愛してます!」
「ディルク…!」
私は大喜びでディルクに抱きつく。混乱したからだろうけど、世界一愛してますだって!キャー!!私のテンションが大変なことになってます!
「録画するんでもう一回!」
「えええ!?なんで!?」
「そんなの繰り返し観て聴いて幸せを噛み締めるに決まってます!鑑賞用、保存用、布教用で後3回お願いします!」
「百歩譲って鑑賞用と保存用は解るけど、布教って何!?」
「ディルクの素晴らしさを布教します!あと、自分の告白映像を見て恥ずかしがるディルクを見て私が楽しみます!」
「いい笑顔でいわないで!それどんな公開処刑!?」
「…だめ?」
「う」
「私、ディルクに言われたいな。ディルクは照れてあんまり言ってくれないし」
子猫のように擦り寄り、じっとディルクを見つめる。ディルクは真っ赤になって涙目だ。はぅ…安定の可愛さ。
「ディルクぅ…」
甘ったるい声でおねだりをする。せめて、せめて鑑賞用は欲しい!
ディルクは私を抱きしめると、震える声で告げた。
「ロザリンドが誰より何より大好きだよ。あ、愛してます。俺はまだ君に相応しくないし失敗するかもしれないけど、ずっとずっと側に居て。君の意思を無視して、怒らせてごめんね」
「ディルク」
「…なに?」
「顔が見たい」
「勘弁して。今赤いし、顔が緩んでるから」
背中に手をまわしてスリスリすると、ディルクもスリスリしてきた。あー幸せ。
「私、ディルクの緩んでる表情が超好きです」
「…うん」
「見たい」
動いてディルクの顔を見ようとしたら、後頭部をおさえられて胸に押し付けられた。
「…だめ。恥ずかしい」
「恥ずかしがるディルクも大好きです」
「……それは…そうだね。ロザリンドは俺をからかうのが好きだよね」
「ライフワークと言っても過言ではありません。というわけで、私を怒らせた罰として、目を合わせて愛の言葉をお願いします」
「そのライフワークは止めて!しかも明らかにハードルが跳ね上がったよね!?さっきのは許してくれたんじゃないの!?」
「許してますが誠意は欲しいです。それに大好きな人に愛を囁かれるチャンスですよ。私だって、たまには言われたいですよ」
覚悟を決めたのか私の両肩を掴んで距離を取り、ディルクは私の瞳を見つめた。
「ロザリンド…」
ちゅ、と可愛らしいキスをされた。私の目を真っすぐ見て、真っ赤になりながら…羞恥に震えながらもディルクは言った。
「どうしようもないくらい君が好きです。ロザリンドをあ、愛してます」
限界だったらしく、私の肩に頭を乗せるディルク。
「えへへ」
幸せです!いやもう、今の私こそお見せできないぐらい顔が緩みきってますよ!
『どうしようもないくらい君が好きです。ロザリンドをあ、愛してます』
「……ロザリンドさん」
「はい」
「…録ってたの?」
「バッチリですね!ディルクの可愛さが凝縮されたかのような素晴らしさです!」
「こらあああぁぁ!消して!消しなさい!むしろそんな魔具壊してやるぅぅ!!」
涙目で怒鳴るディルクは可愛らしいですが、私もここは譲れません!
「嫌です!永久保存です!私だけで楽しみますから!!」
結局、私だけで楽しむ。他人に見せない。必ず防音結界を使用してから見るを固く約束させられ、私はディルクの素敵映像を死守したのでした。
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