第3話 兄と母とお昼ご飯

 兄と話をしてて、ふと気がつく。兄ってば植物図鑑使ってないではないですか。




「にいたま、おにわのおはなのなまえぜんぶしってるの?」




「ああ、大体は」




 さすがは未来の植物オタクである。




「にいたま、しゅごい」




 素直に尊敬の意を示すと、また兄は苦笑いして私を撫でた。




「そろそろ昼食だ。行こう」




 思ったより庭に長居したらしく、言われてみればお腹がすいてきた。兄に手を引かれて歩きだす。




「おなかしゅきまちた」




 兄はまた苦笑して、私はニコニコして歩く。あれ?なんかメイドさんがこっち見てポカーンてなってる。なぜだ…あ、私そういや基本ぼっちだから兄と仲よさげなのがレアすぎるのか。




「僕の花畑の鈴蘭をロザリアの部屋に活けてくれ」




 兄はついでといわんばかりに口をあけた石像と化したメイドさんに声をかけた。




「はははひぃ!ただいまぁぁ!」




 噛んだ。


 噛んだよこの人。


 5歳児に頼まれてそんな緊張せんでも…とりあえず、律儀に約束を果たそうとしてくれた兄にお礼を言った。兄はそれに返事をせず、私の頭をポンポンしてまた歩きだす。ふと、後ろを見てみた。




 あ、さっきのメイドさん走った。いやお前走っちゃダメだろ。


 あ、転んだ。大丈夫かな。大丈夫みたいケガはなさそう。


 あ、マーサだ。お顔が般若みたくなってますよ。美人が台なしですよ。美人が怒ると大迫力…あのメイドさん運悪いな。


 あー、案の定叱られてるわ。




「…だいじょうぶかなぁ」




「…鈴蘭が部屋に届かなかったらもう1回僕に言って」




 兄は微妙な顔でそう言った。もはやツーカーですね!私と兄、今日ずいぶん仲良くなったよね!




「あい!」




 私は兄に機嫌よく返事をした。マーサがこちらに気がつき、少し驚きを見せたがすぐ使用人の顔に戻る。流石はプロなのです。さっきのメイドさん、ぜひ見習って下さい。




「ルーベルト様、ロザリア様、昼食のご用意は整っております。今のお時間ですと奥方様もいらっしゃるかと」




 どうやら母は今日体調がいいらしい。兄を急かし、食堂に向かった。なんか背後から破壊的な音がしてたけど…聞かなかったことにした。




 食堂にはどう頑張っても2児の母には見えないうちの母がいた。スープ皿に丁寧に嫌いな野菜を避けている。母は確かに体が弱いが、半分は生活習慣的な問題な気もする。




 偏食して運動もせず寝てばかり。だからお腹もすかないし、筋力も抵抗力も体力も低下するのだろう。




「おかーたま、こんにちは」




 ニコニコと母に駆け寄る私。




「あらロザリア、今日はご機嫌ね」




 私に微笑みかえす母。私と同じく紫水晶の瞳に銀髪。まるで人形みたいに美しい母。さて、どうやって野菜を食べさせるかな?




「おかーたま、おやたいがきらい?」




「え?…そうね」




「じゃ、ロザリアもたべない!おやたいきらーい!」




「ええ??」




 急にそんなことを言い出した私に困惑する母。お子様秘奥義『お前がしないなら私もしない』である。


 傍で給仕をするマーサも常日頃、母の偏食を窘めている。ゆえに当然マーサは私に味方する。




「奥方様、お嬢様に手本を見せて下さいませ」




「あ、じゃあ僕も母様が食べないならピーマン食べない。」




 更に兄が乗っかる。兄は母が食べようが食べまいがどっちでもいいのだろう。兄、確か大きくなってもピーマン嫌いだったしな。




 母、完全アウェーにより涙目である。しかし私は母に追い打ちをかける。




「かあたま、あーん」




 にっこり笑って野菜を母へと差し出す私。私は美少女。可愛らしい子供に無邪気に差し出され、断ることが出来る大人はいないに違いない。




 母は涙目で完食した。満足げにマーサも頷いて…親指立ててるよ、マーサ。私もこっそり応えました。




「かあたま、えらーい。おりこうー」




 母をナデナデすると、嬉しそうに微笑む。いや、母マジ天使。可愛すぎ。




「ロザリア、僕には?」




 あ、兄も完食。え?なんですか?兄も褒めろってことですか??




「にいたま、えらーい」




 ニコニコ笑って兄の傍に駆け寄ると、兄は撫でやすいよう頭を私に傾けた。


 あ、撫でるんだと兄もナデナデすると、嬉しそうだった。変なとこ親子だよね。兄もはにかんだ顔母そっくりでかわいいよ!




 兄のかわいい顔をしばし観察してから、私も食事に戻り無事完食した。母と兄からダブルナデナデをされたのは言うまでもない。


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