第17話 意識<意欲

今日の練習相手は最上先輩がしてくれるとの事で連れだってグラウンドに向かった。


 最上先輩も動きやすい服装に着替えて準備体操をしている。

 服装はおしゃれな感じのスポーツウェアだった。


「今日は何をしますか?」

「昨日の続きからでいいと思うぞ。やっぱり体を慣らすのが一番だからな。」


 わかりました。と僕は言うと、起動状態にした。

 昨日に比べて起動するのはスムーズになったが、やっぱり感覚の変化にはまだ慣れない。


 軽く走ったり、ジャンプしたりして体の感覚を徐々に慣らしていく。

 身軽になった感じで、体がよく動くのが結構楽しい。


 10分ぐらいはそうして遊んでいたが、一通り慣れたので一旦止めた。


「昨日も思ったがやっぱり伊吹は呑み込みが早いな。」

「...そうですか?自分ではあまり。」

「私なんか今までほとんど体動かしてこなかったからな。最初の頃なんか歩くのも苦労した。

 魔力操作で強化具合を落として徐々に慣らしてやっと動けるようになったぐらいだよ。」


 なんだかんだ普通に歩いたり走ったりに1週間ぐらいかかった。と亜子先輩は言う。


「だけど伊吹はまだ調整も出来ないから、結構難しいはずなのに二日目でもうそれだけ動けてるからな。何か運動でもやってたのか?」

「う~ん...特には。子供の頃にちょっと武道とか、水泳とか。それぐらいですね。」

「まぁ才能だな。因みに青葉は体になれるのは早かった。姫は私よりちょっと短いぐらいだったな。」

「そうね。私も運動とかはあんまりしてこなかったから。」


 と最上先輩も言った。


「それだけ動けるならちょっとゲームでもしましょうか。私の魔術アーツで狙うから、身体強化でよけるの。『起動アウェイク』」


 先輩がそういうと、手に持っているペンがぼんやり光った。

 軽く振ると、水の塊がいくつか浮かんだ。


 よっと声を出しながらペンを振るとキャッチボールぐらいの速度で水球が飛んで行った。


「まぁとりあえずはこれくらいから始めましょう。あたってもそこまで痛くはないけど濡れるわ。」


 どこまで自分が動けるのか、面白そうだった。




 ...結果として、5分もたたずに結構全身が濡れた。


 避ける事に集中すると、体に力が入ってしまい予想外の動きをしてしまったり、体のコントロールをしていると避けきれなかったりと、意外と両立が難しかったのだ。


 亜子先輩はあたふたしてる僕を見てケラケラ笑っていた。

 最上先輩もちょっと笑っていたが、


「こんなところかしら。じゃあちょっと動かないでね。」


 そういうと、ペンを僕に向けた。

 すると濡れたところから水が抜け出してペンの先の水球に吸い込まれていく。

 濡れた僕の服は完全には乾かないが、殆どの水気は吸い出された。


「...すごいですね。」

「まぁ私の魔術アーツだから。」


 なんでもないように最上先輩は言う。


「いや、実際姫はすごいぞ。私が姫の魔術アーツをコピーしてもそんな器用なことは出来ないからな。ぶっ放すのがせいぜいだった。そんな威力を抑えたり、服から水分を取り出すなんて絶対できん。姫の魔力操作と、イメージ制御のなせる技だな。」


 と亜子先輩が真面目に言う。

 それはすごい。と僕は尊敬の目を向ける。

 最上先輩はちょっと照れくさいらしくそっぽを向いた。そっぽを向いたままで先輩が言う。


「さっき避けようとしたときに、とっさに妙な力が出てバランス崩してなかった?」

「...はい。予想外に飛んで焦りました。」

「それはね、伊吹くんが無意識に魔力操作で身体強化した結果よ。避けようと必死になってとっさに体を強化したの。だから自分が想定している動きと違う動きになってしまうのよ。意識的に行うことが出来れば、もっと自在に体が動かせるわ。」


 そういいながら、グラウンドに土の壁を作り出した。高さは2メートルぐらいだろうか。

 ちょっと見ててというと、壁の前で少しタメを作った。


 そして次の瞬間そのままジャンプして壁の上まで軽く飛び上がった。


「見た通り今のは意識的に脚力を身体強化して跳んだの。魔力操作で身体強化が出来ればこういうことが出来るのよ。」

「...すごい。」

「コツは、力を他のところから集めてチャージする感覚よ。起動の時に体全体に流れる力を、意図的に全身から足に押し流すイメージ。」


 やってみて、と言われたので目を閉じて集中する。

 いま全身に広がっている力を足に集める。足に力がたまったような感じがしたので、ジャンプしてみた。

 いつもより少し高く飛べたような気もするが、2メートルには届かない。


「跳ぶことだけに集中して、走ることや蹴ることではなく、この壁の上まで跳び上がるの。」


 ジャンプする事。壁の上まで跳び上がる自分をイメージ。さっきの最上先輩の動きを想像する。

 跳んだ。さっきよりは高くなったがまだ少し足りない。


「足のばねに力を押し込める感じよ。跳ぶための力を押し込んで。」


 ばね。力を押し込む。ギリギリとたわむばねをイメージして体の力を押し込んでいく。

 ためた力を開放すると同時にジャンプした。今までより高い。足の先がぎりぎりで壁の上に届く。

 無理矢理に体を持ち上げた。


「...できた。」


 僕は荒い息を吐きだした。


「じゃあ次は、もっと短い時間で出来るようになりましょうか。今のじゃ実戦で使えないわ。」


 ...とりあえずは2秒ぐらいが目標ね。と最上先輩が言った。

 因みに今、僕は上るまでに10秒位かけて意識を集中させていた。2秒って...


 ちょっと押し黙った僕を見ると先輩は少し考えてまたペンを振った。

 隣に3.5メートルほどの壁が出来上がる。


 最上先輩が壁から飛び降りると隣に作った壁の前に立った。


 ふっと軽く踏み切ると2メートルぐらいは軽々と飛び上がった。そして空いた左手を壁の上端にかけ左手一本で体を跳ね上げた。

 そのまま一回転して スタっと壁の上に着地する。僕は唖然としてそれを見ていた。


「...どうやって。」

「やってることは単純よ。跳んでから、足から手に魔力を移動させて、手で体を跳ね上げてから全身に戻すだけ。」


 簡単に言うが、僕は跳ぶのにもタメがいる。その上、跳んだ後で腕に力を集中させるなんて、余計なことを考えていたら、おそらくジャンプの精度が下がる。さらに、空中で腕に集めた力を、着地前には全身強化に戻す。それも全行程含めて3、4秒でやるのだ。


「こういう事をしようと思ったら、タメや集中を素早くするしかないの。以下に素早く反応できるかで出来ることが変わる。それは練習あるのみよ。」


 だからとりあえずは2秒ぐらいでこっちの壁に乗れるように練習しましょう。

 そういうと最上先輩は笑った。


 その後、何度もトライした結果、最終的には5秒ぐらいまでためれば乗れるようになった。

 それ以上に短い時間だと高さがどうしてもとどかない。


 17時を回ったころ、今日はここまでにしましょうと最上先輩は言うと、作った土壁を戻した。


 亜子先輩が口を開く。


「伊吹、今日は結構魔力使っただろ。残りはどのくらいだ?」

「体感だと4000ぐらいから初めて、今2000切るぐらいです。消費ペースもちょっと早いです。」

「体動かしたのと、慣れない魔力運用だからな、仕方ない。明日と明後日は魔力使った訓練は無しにしよう。魔力の回復に専念しないとな。」


 まぁ回復方法は任せると、亜子先輩はニッと笑った。


「それで土曜はどうする?来られそうか?」

「大丈夫です。行けます。」

「そうか。じゃあ姫と一緒に巡回してもらおうか。」


 いいか?と最上先輩に聞く。最上先輩は頷いた。


「じゃあそういうことで。集合場所と時間はあとで連絡する。多分午後から夜ぐらいになるはずだから心づもりをしておいてくれ。」

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