第13話 実践∩実験


 青葉先輩と5メートルぐらい離れて対峙していた。


 ちょっと体を動かすとの事で準備運動をしながら話を聞く。


「まず限定魔術リミテッド・アーツだが、便利ではあっても万能ではない。制約も多い。なにせ固有の発動条件すら自分で模索しないといけないからな。だが、共通したある程度の傾向はある。まずは限定条件は3種類に大別される。」


「1つ目は『事前準備』、2つ目が『発動時』、3つ目が『周囲の状況』だ。最低限2点以上の限定条件を満たしていないと発動しない。場合によっては3つ、4つ条件をクリアしないと発動しなかったりもする。そして、これを模索するにあたって参考になるのが原点オリジンだ。言ってしまえばその人が持つ強さのイメージだな。幼少期の憧れだ。」


 参考に私の魔術アーツの説明でもするか。と亜子先輩は言った。


「私の魔術アーツは、『他人の魔術アーツを使用する』という能力だ。私の原点オリジンは『物語の主人公になった自分』だ。まぁ子供の頃から本を読むのが好きで、そんな空想ばっかりしていたからな。限定条件は『相手の限定条件を知ること』、『相手の限定条件を自分で紙媒体に記録すること』、『発動時にその限定条件を自分も満たすこと』の3点だった。」


「まぁ他にも『同じ魔術アーツを短期間に何度も使用すると効果が劣化する』とか、「自分が把握していない条件で魔術アーツが強化されている場合その強化は反映されない」とかいろいろ制約はあったが、便利な力だったな。」


 つくづく使えなくなったのが残念だ。と先輩がぼやいた。


「だから、他人の魔術アーツの条件を推測するのは私の魔術アーツ外の特技の一つだ。伊吹の魔術アーツの解明が楽しみだ。」


 ...やっと理解した。つまり自分の魔術アーツが使えなくなって暇だから、新しい魔術保持者アーツ・ホルダーを見つけて遊びたかっただけか。混じりっけのない純粋な好奇心だった。


「まぁとりあえず、すぐに使えるものでもないからな。まずは起動状態に慣れるところから始めよう。目を閉じて、自分の力に意識を向ける。そして力を起こしてみろ。」


 言われた通りに目を閉じて集中する。さっき僕の魂に沈んだ力をイメージして伝える。―――起きろ。


「...起動アウェイク


 すると体の内から力が立ち上ってくる。全身に力が通っていき感覚が冴えわたる。心なしか体が軽くなった。


「よし、起動状態にはできたな。不用意に動くなよ。今は魔力消費で身体機能が強化されてる。普段の倍くらいは最低限動けるからいつもの感覚で移動しようとするとケガするぞ。とりあえずゆっくり目を開けろ。」


 目を開けると、感覚もまとめて強化されているらしく遠くがよく見えた。普段の見え方との違いに戸惑う。


「まずは、普段との違いに慣れろ。足を動かさずに手だけを動かして違和感が無いか確かめろ。」


 矢継ぎ早に亜子先輩から指示が出る。手を軽く振ってみると確かに動きが軽く早い。何度か振って感覚をつかんできた。


「次に足だ。歩こうとするなよ。あげて下すだけでいい。」


 言われるがまま足を持ち上げる。反応が鋭すぎて正直戸惑う。自分が想像している動きより早いので想像通りの動きになるように何度か繰り返した。


「体の方は問題ないな。それじゃ切る前に意識を集中して、魔力消費量を確認してみろ。」


 意識を先ほどのようにアウラに集中させる。すると現在の消費量が通常の60倍近いことが分かった。単純に1時間の消費量を1分単位で消耗していっている。確かにこれでは常用は出来ない。


「起動状態を切るぞ。イメージは起こした力をもとの場所に戻して寝かせる感覚だ。」


 目を閉じて集中する。全身に広がった力を集めて魂へと戻していく。


停止アスリープ


 体が少し重く感じるようになった。体を動かした分の反動が来ている。消費魔力は何もないときの倍ぐらいだろうか。


 亜子先輩がこちらに向かってきた。


「...違和感はないか?感覚の違いで酔ったりするから気をつけろよ。」

「大丈夫です。ありがとうございます。」


 そうか、と頷いた。


「上出来だな。体の違和感になれるのも早そうだし、イメージによる魔力制御も問題なさそうだ。ちょっと休憩したら次はもう少し動く練習をしてみよう。魔力量に問題が出そうなら言うんだぞ。」


 何せ伊吹は簡単に回復できるからなとウィンクされた。

...確かに魔力は回復した。

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