EP11 蒼峰大河《ザ・ファースト・ヒーロー》
幼い頃から何でも出来た。
一度勉強したことは忘れないし、逆上がりや跳び箱も失敗したことがなかった。かけっこだって負けた記憶もない。
いつも周りの子からは持て囃され女の子からは山ほどのチョコを毎年貰っていた。
そんな俺が天狗にならず、変な方向に曲がらなかったのは母さんのおかげだろう。
人よりも優れた才能を持つ俺に向かって母さんはよく言っていた。
「大河、貴方は人より優れています。だからこそ誰よりも優しくあらねばなりません。驕ることなく、誰かの希望になれるよう務めるのです」
その時は言葉はまだ幼い俺には意味がよく分からなかったけど、俺は母さんが大好きだったから笑顔で頷き、その言葉を胸に抱いて生きてきた。
とはいえ現代は犯罪も少ない平和な規律社会。ドラマチックなことなど起きず、俺はごく普通の一般人として楽しく生活していた。
しかしそんな中、転機が訪れた。
それはヒーロー役のオファー。街でスカウトされモデルをやっていた俺に、なぜか戦隊ヒーローのオファーが来たんだ。
見る人に勇気と希望を与えられるその仕事は、俺にとって天職だと思った。
その仕事に本気で取り組むと、俺は瞬く間に有名になった。
そして番組が終わった後も色んな活動をして多くの人と触れ合った。そのどれもが充実していて楽しかった。
だけど……頑張れば頑張るほど虚しさを感じていた。
それは誰も俺の横を一緒に歩いてくれなかったから。
人より優秀なことは孤独であり残酷なことだ。
俺と共演したことで自信を無くし、タレントの道を諦めた有名モデルや芸の道から退いた大御所俳優もいる。スポーツ番組の企画で俺に負けた選手が現役を引退したこともある。
この時初めて俺は母さんの言っていたことが分かった。
強すぎる力は希望だけじゃなく『絶望』にもなるんだ。暗闇を照らす光も、度を過ぎると目を潰してしまう。
周りの人は俺のことをよく褒め称えてくれる。
「君は凄い」「貴方には誰も敵わない」そう言われる度に俺は笑顔の下で深く傷ついた。その言葉は「お前には誰もついていけない」と言ってるのと同じだから。
だけど……君は違うんだな、空。
追いかけ、横に立ち、追い越そうとしてくれている。
これ以上嬉しいことがあるか?
きっとこの先の人生で今日以上に満ち足りることはそうないだろう。
君はどうだ? 同じ気持ちでいてくれるか?
「――――なぁ!」
煙が晴れ、空が姿を表す。
あれほどの業火に包まれたにも関わらず体力はまだ残っている様子だった。
「水遁・
体全体を水のベールで包み込み、火耐性を上昇させるスキルだ。効果時間こそ短いがその上昇量は他のスキルと比べて頭ひとつ抜けている。よくあの土壇場でこのスキルを思いついたものだ。
しかしアバターも本人も体力が限界そうだな。少し寂しいが幕引きとするか。
「ありがとう、ここまで追いかけてきてくれて。君に敬意を表し、全力で潰させてもらう!」
今にも倒れてしまいそうな彼のもとへ駆ける。君なら完膚なきまでに叩き潰してもまた立ち上がることができるだろう。だから手加減はしない、俺の全力をぶつける!
「スキル発動! 奥義・羅刹斬!」
このスキルは体力が残り二割を切った時のみに使える奥の手。
大太刀を黒いオーラが覆い、攻撃力と攻撃速度が格段に上がる。その代償として体力が徐々に削れてしまうが、それを差し引いてもこの技は強力だ。
元気な時ならまだしも、満身創痍な彼では反応することすら困難だろう。
「――――終わりだ!」
研ぎ澄まされた一閃。
我ながら称賛出来る一撃だった……にもかかわらず、彼はその一撃をしゃがんで回避した。
「馬鹿な!? まだ動けるのか!?」
何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も斬りかかる。
しかし空はそれら全てを皮一枚ギリギリで回避してみせた。
な、なんて集中力なんだ。素直に驚嘆する。
「だがいくら避けても、反撃出来なければ俺には勝てないぞ!」
「ええ……そうですね。もう幕引きにしましょう……!」
意趣返しとばかりに空は俺の腹を思い切り蹴り飛ばす。重さで勝る俺は少し後退するにとどまるが、限界まで重量を軽くしてるであろう彼はその勢いで後ろに跳んだ。
「距離を取った……? どういうつもりだ」
疑問に思う俺の足に、何かがコトリと当たる。視線を下に移すとそこには見覚えのある球体が落ちていた。
「煙幕玉……!」
瞬間俺の視界が真っ白に染まる。
なるほど。距離を取って煙幕を張り、死角から攻撃する気だな。
さっき煙幕を張られた時と状況は変わり、今の俺はスキル『
「しかし普通の『疾風刃』なら使える。姿を見せたその時が最期の時だ」
確かに空は強い。あの速度で自在に動くのは俺には不可能な芸当だ。
しかし地上での斬り合いなら俺の方が上。
「さあ、来い……!」
集中し五感を研ぎ澄ます。
観客からすれば戦況は五分に見えるかもしれないが、実は俺の方が少し有利だ。体力も俺の方が残ってるし、空は戦いが長引くほどに速く動くことが難しくなるからだ。
煙が晴れれば更に俺の方が有利になる。なので空は煙幕中に攻撃しなければいけない、さぞ焦っていることだろう。
空は必然的にこの煙の中を動かなければいけないが、そうすれば突然音が鳴ってしまう。
キャラの耳に入った音はナノマシンの通信を通じて俺の耳にも聞こえる。つまり空の出した音を俺は聞くことができる。
向こうは煙の中を視覚頼りで進まなければいけないのに、俺には聴覚が味方してくれる。
どちらが有利かは火を見るより明らかだ。
(――――来た!)
風を切り、何かが俺に向かって来ている。目では確認できないが音で分かる。
方角は正面、到達するまで三秒ってところか。
足音はしないが、おそらく何かしらのスキルで消しているのだろう。忍者にはほんの少し体を浮かすことで足音を消すスキル『忍び足』があるからそこらへんか。
音のする方に目を凝らしていると、煙の中に影がうっすらと見えてくる。
間違いない、あれだ。
俺は右手に持った大太刀の刀身を左脇に持ってきて、居合切りをするような構えをする。
そしてタイミングを計り……全力の一撃を放つ!
「疾風刃――――ッ!」
放たれた渾身の一撃は迫り来る影に命中し、対象を真っ二つに斬り裂く。
しかし砕いたのは想像外のもので、
「なっ、小太刀、だとっ!?」
俺の方に向かってきてたのは空ではなく、彼の持つ小太刀だった。ば、馬鹿な!?
「いったい空はどこに!?」
「……こっちだ!」
頭上から声。
上を向く、なんと空は俺の頭上にいた。そして物凄い速度で俺の方に落下してくる。
「やるな空ァ! だが素手で何が出来る!?」
「奥の手は最後まで取っておくものですよ!!」
空は右腕についた籠手を左手で操作する。
すると右腕の籠手にある竜の爪の装飾が外れ、一本のナイフになる。
そんな機能を隠し持っていたとは……!
「だが……空中では身動きが取れまい! 俺の勝ちだ!」
斬った物が小太刀だったと分かった瞬間、俺はすぐに大太刀を構え直した。普通の人なら混乱し隙を晒すだろうが、俺はそう簡単には
「これで終わりだ! 旋風斬り!」
今使える中で一番出の速いスキルを選択する。俺の知る限りリアオンに空中で移動できるスキルはない。つまり今の空に俺の一撃を防ぐ手段はないということだ。
そんなこと空自身も知っているはずだが、彼の目に諦めの色はなかった。まだ、打てる手があるというのか!?
彼は一際目を輝かせ、ナイフを構えて――――
「勝つのは俺だ!
突如空中で加速した空は目にも止まらぬ速さで空を駆け抜け、俺の首を斬り裂いた。
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