EP11 相対す両雄《ダブル・オタク》
『準決勝第一回戦はこいつら! 謎の覆面男、ブルーマスクと、ネオ秋葉原のボス、オタキングだーっ!!』
実況のMr.Jがそう観客を煽ると、二回戦までの試合とは比べ物にならない歓声が巻き起こりスタジアム中央のリングに立つ二人の選手を包み込む。
しかしそんな喧騒は、二人の耳には入っていなかった。
「……」
「……」
お互い無言で睨み合う時間が続く。
ゲームをやっているとたまにある、強者と遭遇した感覚。それを二人はビンビンに感じていた。
「ブルーマスク殿、お主に恨みはないが、ネオ秋葉原の未来のためここで散ってもらうでござる」
「悪いがそれは出来ねえな。こっちだって小さくない覚悟背負ってゲームやってんだ」
バチバチに火花を散らす両者。
「もう待ちきれない」そんなオーラを感じ取ったMr.Jは、早めにトークを切り上げ試合を開始する。
『それでは! 試合開始!』
その合図と共に、空は覆面の中の
「
「
空の前に小太刀を携えた戦士が。
オタキングの前には真紅の鎧に身を包んだ剣士が現れる。
「ん? あいつのキャラ、もしかして……」
「ふふ、気づかれたかブルーマスク殿、この姿を見て何か気づいたことはござらんか?」
「舐めんなよオタキング。ていうかその名前でバレバレだろ」
オタキングのキャラの見た目は、九年前に放送されていた戦隊ヒーロー『飛翔戦隊ジャスティスファイブ』のリーダーであるジャスティスレッドにそっくりだった。
ジャスティスファイブは空の好きな『暗躍戦隊シャドウファイブ』の翌年にやっていた戦隊ヒーローだったので、空はそっちも毎週欠かさず見ていた。
ダークな側面も持つシャドウファイブとは違い、ジャスティスファイブは典型的な勧善懲悪のストーリーだった。捻りは少ないが万人に好まれる王道ものといったところか。
「まさかお前も戦隊ヒーロー好きとはな。その装備、結構本物に似てるじゃないか」
「お褒めに預かり恐悦至極でござる。しかし似ているのは見た目だけでござらんぞ。その強さもジャスティスファイブに匹敵すると自負しているでござる」
オタキングは右腕に握った剣と、左腕に装着した円盾を構え笑みを浮かべる。その構え姿は堂に入っている。
しかし空は動揺することなく、いつも通り小太刀を構えながら標的を見据える。
「行くぞ」
「望むところでござる」
オタキングが返事をした瞬間、空はスキルを発動する。
「
試合を行うリングはお世辞にも広いとは言えない。過剰なスピードアップはリングアウトするだけと判断し、空は速度強化スキルの発動を一つにとどめる。
しかしそれだけでも十分に速度は出る。
「モニターで見るよりも実際に見た方が何倍も速く感じるでござるな……!」
想像以上の速さに少し焦りつつも、オタキングは冷静に左腕の円盾を前に構え、防御姿勢を取る。
「
緑色の光が彼の体を包み込み、その防御力を上昇させる。しかし空はそんなこと気にも止めず、手にした小太刀を思い切りオタキングにぶつける。
「クイックスラッシュ!」
「むんっ! パワーシールド!」
空の小太刀とオタキングの円盾がぶつかり合い、大きな衝撃音が鳴り響く。空の放った斬撃の強さに、僅かにオタキングの体は後ろに下がるがなんとか踏みとどまる。
そしてお返しとばかりに空の体目掛け剣を振るう。
「ちっ、『バックステップ』!」
首筋目がけ鋭い斬撃が放たれるが、空はスキルを使って後ろに跳び、その一撃を避ける。
「死にスキルと言われているバックステップをこうも上手く使いこなすとは、お主本当に何者でござるか?」
「俺はただのゲーム好きだよ。正義感強めのな」
バックステップは前に進んでいても膠着状態でも強制的に後ろへ進むスキル。
初期に手に入るにしてはクセが強く使うタイミングも限られるので忘れ去られる筆頭のスキルなのだが、空はこのスキルが気に入っていた。
「使いにくい技を使いこなしてこそゲーマーだろ。一つの小技を覚えるのに数百時間浪費するのを恐れるようなヌルゲーマーじゃ俺に勝てねえぞ」
「ふふ、つくづく気が合いそうでござるな。生憎拙者もそちら側の人間、オタクの底力を見せましょうぞ!」
お互い、ゲームを愛するものとしてのプライドを賭け、激しい激突をくり返す。
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