EP4 無双する刃《リアルチート》

 思えば最初から警戒されていたんだろう。そんな中、一気に三タテしてしまったので仲良くチーミングしたというわけだ。

 四人は俺との距離が二メートル程度になるまで近づくと、歩みを止める。そしてそれ以上近づかず横にいる協力者をチラチラと見始める。


 ははん、どうやら誰か一番槍を努めるか決めかねてるんだな。


 ま、そりゃそうなるわな。手を組んでいるとはいえ協力者を勝たせたいわけじゃない。一番槍が一番やられるリスクが高い以上、誰もやりたがらないのは当然だ。


「それを決めずに向かってくるとは、舐められたもんだ……」


 手を組むのはいい。勝つために最善を尽くすのは当然だ。俺だって勝つために色々汚いことをした覚えはある。


 高所から岩を落っことして圧死させたり。面倒臭いモンスターを引き連れて押し付けたり。火薬をたくさん仕込んだ洞窟に誘き寄せて爆殺したりと悪役も顔を真っ青にするような所業を何回もしてる。


 やるなら振り切れ。それが俺の信条だ。こんな薄くてガバガバな連携はナンセンスだ。


「そっちから来ないんだったらこっちから行くぞ」


 二の足を踏んでいる今がチャンス。

 まさかこっちから攻めてくるとは思ってなかったのか、突っ込んでくる俺を見て相手は慌てる。


「く、来るな!」


 俺の一番近くに戦士は、何とか反応して手に持った槍を突き出してはくるが、その狙いは甘い。俺は軽く体を捻って回避して、隙だらけの胸に小太刀を突き刺し、抜く。


「悪いな」


 ぐぷ、と声にならない声を漏らし倒れる相手を受け止める。一瞬の出来事に残った奴らは動揺するが、すぐに正気を取り戻し武器を構え直す。


「てめえ!」

「か、囲め!」

「ここで仕留める!」


 今度は三人同時、個別に向かってくるよりは厄介だがそれでも対処のしようはある。


「ほれ、プレゼントだ」


 そう言ってさっき胸を刺した瀕死のプレイヤーを投げ、向かってくる二人のプレイヤーにぶつける。一応仲間意識は残っているのか、二人はそのプレイヤーを受け止めると「大丈夫か!?」と声をかける。


 しかし次の瞬間、ある物が目に入ったことで二人のプレイヤーの表情が凍りつく。

 それは仲間プレイヤーの体に巻き付けられた爆弾。さっき胸を刺した時、どさくさに紛れて俺がこっそり付けておいたのだ。

 いわゆる人間爆弾ってやつだな。多対一を仕掛けて来たのはそっち、卑怯とは言わせないぜ。


「「この卑怯者……!」」


 言われてしまった。

 まあいい、俺が傷つくというアクシデントはあったものの、無事爆弾は爆発し、それに飲みこまれた二人、いや三人のプレイヤーは仲良く爆死する。これで残った相手は一人のみ。落ち着いて相手出来るな。


「……さて」

「ひ、ひい!」


 残った一人に目を向けると、明らかに怯えたような声を出す。

 失礼な奴だ。


「く、くそ! 爆弾なんて汚い真似しやがって!」

「おいおい、先にチーミングなんて汚い真似したのはそっちだろうが。なんで俺が責められなきゃいけないんだよ」

「う、うるさい! お前が全部悪いんだよ!」


 やれやれ、話が通じなくて困る。確固たる信念がないまま周りに流されてるからこんな風になるんだよ。


 その点、俺が憧れたヒーロー戦隊「暗躍戦隊シャドウファイブ」の正義はいつも一貫していた。彼らは正義のためなら手を汚すことを厭わなかった。そしてその信念は俺にも宿っている。勝つためなら外道と罵られようとなんだってやる。それが俺の覚悟だ。


「……まあ一対一の勝負で汚い手を使う気はないけどな。正々堂々正面から戦ってやるよ、かかってきな」


 小太刀を正面に構え、敵を見据える。相手は正々堂々の勝負なら勝機があるとみたのか、表情に少し余裕が浮かぶ。俺が約束を破る可能性もあるのに呑気なやつだ。


「ぶっ倒してやる! 『レイジ』!」


 攻撃力を上げるスキルを発動した相手は、ハンドアクスを手に真正面から馬鹿正直に向かってくる。

 『レイジ』を使えるってことは『戦士』の上位職『ウォリアー』か。ウォリアーは優秀なスキルが多いが、反面意外性のあるスキルは少ない。獣化する『バーバリアン』とかは使われると厄介だが、あれは習得するのが大変なので持ってないだろう。


「くらえ。フルパワースラッシュ!」


 案の定使ってきたのはシンプルな攻撃スキル。威力は高めだが、それだけ。

 モンスター相手ならともかく対人で真正面から使うようなスキルじゃない。普段ならもっと慎重なプレイングをしているのかもしれないが、勝負を焦っている今のこいつにそんなプレイは出来ないだろう。


「ほいっと」


 横にステップすると斧は俺の横を通り抜け、床に激突する。

 すると衝突音と共に地面にヒビが入る。すげえ、そんなとこまでナノマシンは再現するのか。割れたコンクリも瓦礫となって周りに散らばっている。すごい再現度だな。


「よそ見してんじゃねえ!」

「おっと失礼」


 いけないいけない。よそ見してやられたんじゃ笑い話にもならない。そろそろこのバトルロイヤルも終わらせるとしよう。


 お相手さんもそのつもりみたいだ。最後は派手に決めるとしよう。


「ヘビーアサルト!」

月面宙転ムーンサルト!」


 相手に背中を向けた俺は、斧による強烈な斬撃を相手方向に宙返りして回避する。そして相手の背後に華麗に着地しながら、小太刀で相手を縦に一刀両断する。


「いったい、何が……」


 何が起きたのかも理解できないまま、相手の体力はゼロになる。

 俺に接近戦を挑んだのが間違いだったな。この勝負、俺の勝ちだ。


『決着っっ! 見事激戦を制したのは、やはりこの男っ! ブルーーーーーマスク、だっ!』


 Mr.Jが煽ると観客たちから割れんばかりの歓声が送られ、俺の全身に襲いかかる。

 人前に出るのは好きじゃないけど、この歓声だけは……悪くない。


 お、手を上げたら強くなったぞ。手を上げてー下げてー。はは、手に合わせて歓声が変わる。おもしろ。


『あのー、ブルーマスク? 次の試合があるんだけど……』

「あ、ああ。すみません」


 ついつい遊んでしまった俺はMr.Jに頭を下げると、すたこら試合場から去るのだった。

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