Disk3 ROJ杯開幕《ゲームスタート》!

EP1 ROJ杯《グランプリ》

 怜奈さんと二人でリアオンを楽しんだことで俺たちは仲良くなり、学校でもよく喋るように……は、ならなかった。

 彼女は相変わらずみんなに囲まれてちやほやされてるし、俺も変わらず前の席に座っている椎名としか喋らなかった。


「あー、暇だぜ。なあ空、何か面白い話とかないのか?」

「ねーよ、そんなもん」


 椎名の下らない質問に無気力に返す。

 怜奈さんと二人でゲームしたことは、こいつからしたら面白い話になるのかもしれないが、そんな騒ぎになりそうなことを話す気は起きない。それに一緒に遊んでからもう一週間経つが、結局彼女とゲームしたのはその一回だけだった。

 まあ彼女みたいな選ばれし者と、俺みたいな日陰者の距離感はこんくらい離れてるのが丁度いい。そんなふうに考えていたのだが……。


「ん? メール?」


 手首に付いたスマートリングが震える。

 また広告メールでも届いたのかとメール受信箱を開き、中身をチェックする。


「……へ?」


 それを見た俺は思わず間抜けな声を出してしまう。

 なんとそのメールは怜奈さんからのものだった。メールには短く『明日、空けておいてください』とだけ書かれていた。

 明日は休日。俺の脳内スパコンが弾き出した予測によると、このメールがデートのお誘いの可能性、99.99パーセント!


 俺は他の人に見られないよう急いでウィンドウを閉じると、離れた席に座る怜奈さんを見る。すると彼女もこちらを見ており、俺と目が合うと笑みを浮かべ小さく頷いた。


『デート、楽しみですね』とでも言いたげに。


「来たな……時代が……」

「何言ってるんだお前」


 椎名に怪訝な顔を向けられるという屈辱的な実績を解除してしまうが関係ない。

 俺は次の日を楽しみにしながらその日一日を過ごしたのだった。


◇ ◇ ◇


「……知ってた」

「何がですか?」


 俺の言葉に怜奈さんは不思議そうな顔をする。一方俺はというとガックリと肩を落としていた。

 そうなるのも当然の話。怜奈さんにのこのこ着いて行きたどり着いた場所は、ついこの間一緒に来た場所と同じところだった。


「ネオアキバドーム……またここに来ることになるとはな……」


 ネオ秋葉原の顔、ネオアキバドーム。ついこの前、あんまり強くないRe-sports選手と戦った場所だ。もうしばらくは来ないと踏んでいたのだが、早い再開になってしまった。


「怜奈さんや。なんで俺はまたここに連れて来られたんだ? また試合を見学させられるのか? それぐらいだったらまあ我慢してもいいが、また乱入は勘弁してくれよ」


 あの試合はネット中継されていたので多くの人が見てしまった。後から確認したら掲示板も盛り上がってたみたいで、俺のことを本物の『青き疾風』じゃないかと言ってる人までいた。


 さすがに証拠がなさすぎるのでその言葉は冗談のひとつで済まされたが、また試合をしたらボロが出る可能性がある。それはなんとしても避けたい。


「今回は乱入はお願いしません。安心してください」

「ほっ、それは安心……」

「その代わり一般参加者として大会に参加して頂きます」

「――――っはぁ!? なんだって!?」


 聞き間違いかと思い聞き返すが、彼女は何度聞いても同じ返答をした。


「お、俺が大会に参加するだって!? 聞いてないぞ!」

「ですがこの前、私の活動を手伝ってくれると言ったじゃないですか」

「そんなこと言っ……たかも、しれないけど。それはその場の流れというかなんというか」


 怜奈さんのゲームを愛する気持ちに感銘を受け、確かにあの時はそのようなことを言ってしまった。何やってんだ過去の俺! お前が代わりに出場しろ!


「あ、エントリーは私が済ませているので安心してください」

「それのどこに安心すればいいのかなあ!?」


 大きな声で不満を表すが、怜奈さんはまともに取り合ってくれすらしない。この人、マイペース過ぎるだろ……。


「さ、これを」


 そう言って彼女は大会後に返却していたシャドウブルーの覆面を渡してくる。クソ、またこれを被ることになるのか。


「……はあ、しょうがない。今回だけだからな」


 ここまで来てしまったらしょうがない。エントリーしてるのに途中で抜けたら色んな迷惑もかかってしまう、腹をくくるしかないか。

 人目がないのを確認し、覆面を被る。クソ、テンションが上がるのがなんか悔しい。


「Re-sportsの世界大会に参加するには、大きな公式大会で結果を残す必要があります。今日空さんが参加されるプロアマ混合の大会『Realize Online Japan cup』、通称『ROJ杯』は、日本では最大規模の大会。ここで優勝すれば選抜候補になれるでしょう」

「いやだから俺は世界大会に出る気なんてないんだって……」


 げんなりとしながら答える俺を見た怜奈さんは、その整った顔に笑みを浮かべ口を開く。


「でも、負けるつもりはないのでしょう?」

「……まあ自分から負けに行くほど、腑抜けちゃいないさ。ことゲームに関しては特にな」


 他の何で負けてもなんとも思わないが、ゲームだけは話が別だ。

 ゲームは俺の全て、いや全て以上だ。優勝することに興味がなくても、負けるのは嫌だ。

 この人はそれを理解して俺を焚き付けてんだな。


「勝負は全部で四回戦。一回戦は多人数で行うバトルロイヤル形式。二回戦から決勝戦まではスタンダードな一対一の対戦形式になります」

「バトルロイヤルなんてのもあるのか。それは観客も盛り上がりそうだな」

「ええ、それに今回のROJ杯には有名選手も多数参加するので配信も盛り上がるでしょうね。きっと貴方が戦って楽しいと思える選手もいると思いますよ」

「ま、この前のなんたらって奴よりは強い選手と戦いたいけどな」


 この前の試合は消化不良だったが、勝った時に浴びた歓声は……悪くなかった。またあの時と同じ気持ちになれるだろうか。


 少しだけ、ほんの少しだけ期待しながら。俺は会場に足を踏み入れるのだった。

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