EP2 新天地《ニューメイクタウン》

 放課後。

 なんとか五体満足で自宅に戻った俺は、早めの夕食を済ませてリアルワールド・オンラインにログインした。


 向かう先は第六エリア『新天地ニューメイク』の中央部にある大きな街『ニューメイクシティ』だ。

 ここはリアオン屈指の難関である『鉄血城ウルガンド』というダンジョンをクリアしないと来れない街なので、必然的にこの街にいるプレイヤーはみな一定以上の腕前を持っていることになる。


 ちなみに上級者が初心者を守りながら進む行為、いわゆる『運びキャリー』は対策されている。

 鉄血城は中盤でパーティメンバーと離れ離れになる強制イベントがあり、プレイヤーは合流地点までソロプレイを強いられることになる。その道中には強力な中ボスも出てくるのでキャリーされた初心者はみんなここで仲良くすり潰されてしまう。


 まあ俺は全てのダンジョンを一人で踏破してるので何もなかったのだが。

 ……悲しくなんてないぞ。


「お待たせいたしました、空さん」


 ニューメイクシティの正門前広場で待っているとそう声をかけられた。声の方を向いてみると、そこには銀城さん……ではなく見知らぬ女性がいた。


「えーと、どちら様ですか……?」

「そうでした、まだフレンドになってませんでしたね。少しお待ちください」


 そう言って見知らぬ女性は右手を前に出してメニュー画面を出現させる。そして二、三回画面を操作すると女性の顔が突然変わり銀城さんの顔になる。


「これで変わりましたか?」

「ああ、なるほど。仮面マスクしてたのか」

「はい。この顔は既に多くの人に知られてしまっているので仮面マスク機能には助かっています」


 仮面マスク機能とは、自分の顔を他の人に晒さない為の機能だ。

 リアオンではVR機器を通して本人の顔の形をスキャンされ、それがアバターになる。

 しかしこれだとプライバシー的問題が発生してしまう。それを回避するのがこの機能だ。

 仮面の名の通り自分とは違う顔を貼り付けることができ、更にフレンドだけには本当の顔を見せることの出来る設定もある。

 それを使えばフレンドにだけ素顔を見せ、他人には偽物の顔を見せることが出来るのだ。


「最初は素顔でやっていたのですが、銀城コーポレーションと関係を持ちたいのか、パーティを組もうとのお誘いが絶えなくて……」

「いやそれナンパ……いや、何も言うまい……」


 仮面時の顔は自分で作るので、どうしてもスキャンした自分の顔よりも偽物っぽくなってしまう。なので仮面機能を使ってるかどうかは慣れてる人には分かってしまう。特にナンパするような奴は相手がマスクしてるかには細心の注意を払っている。

 そりゃこんな弩級美人がゲームやってたら声かける野郎も多いだろうな。


 ちなみに俺は装備の見た目を忍者のスキルにより変えているが、仮面マスク機能は使ってないので顔はそのままだ。有名人でもない限り男は素顔でやるのが一種の慣習的なところがあるからな。


「はい、フレンド申請送りました。登録していただけますか?」

「……あんた大人しそうに見えて押しが強いよね。はいはい、登録しますよ」


 目の前に出てきた『フレンド申請が届きました』のウィンドウを操作し承認する。

 すると俺のまっさらなフレンドリストに『REINA_Ag』の名前が追加される。うわ、違和感がすごい。なんせリアオンを始めてから八年経つが、俺のフレンド欄はまっさらだからだ。


 理由は単純、フレンドがいない方が忍者っぽくて格好いいだろ? 決してぼっちだからじゃないぞ。


 まあそのこだわりも今日あっさりと破られてしまったわけだが。


「ふふ、承認ありがとうございます」

「……はあ、ずるいなあんた」


 彼女が微かに笑うだけで俺のちっぽけなこだわりはどこかに行ってしまう。

 冷めた俺ですらこうなのだから世の男連中は一発で恋に落とされてしまうだろう。あのryoとかいうプロRe-sports選手も契約は建前で銀城さんを狙っていたんじゃないか?


「それではフレンドにもなったことですしパーティ招待もしますね」

「はいはい、もうどうにでもしてくれ」


 目の前に出てきた『パーティ申請が届きました』のウィンドウを投げやり気味に押す。パーティを組むと、パーティ内の人が受けたクエストを一緒に受けたり一緒にボスモンスターと戦えたりする。

 その他にもパーティメンバーの体力を把握出来たりと恩恵は多い。しかしレアクエストは一人でやりたい派の俺は滅多に利用することはない。


「それでは行きましょうか、目的地は第八エリア『トト竜峡谷』です。場所の説明はいりますか?」

「へっ、馬鹿にすんねい。あそこは俺の庭よ庭」

「そうでしたか、それは安心しました」


 俺の口調に一切突っ込むことなく彼女はスタスタと歩き出す。

 ……確かに俺の返答は面白いかと言われれば微妙かもしれないがここまで塩対応されると流石に凹む。


「おい! 待てってば!」


 しかしこんなところで挫けるわけにはいかない。気を取り直した俺は既に結構先を歩いている彼女のもとに走って近づくのだった。

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