後日談その9 沖縄旅行 その2
――今までも、たびたび二人で出かけていたが。
当然、今回のように飛行機を利用しての旅行は初めてである。
住み慣れた場所とは遠く離れた場所だ。しかも同じ国内とはいえ、沖縄は陸路すら繋がっていない。
なので、幸太郎には少しだけ懸念があった。
(しぃちゃん、ご両親のこと大好きだからなぁ……ホームシックにならないといいけど)
両親と一緒に暮らしていない幸太郎と違って、しほは生まれてからずっと両親の庇護下にいた。そこから離れるとなれば、少なからず寂しさを感じてもおかしくない。
一泊か、あるいは二泊程度なら気にしなくてもいいかもしれないが……なんと、今回は五泊六日の旅行を計画してしまっていた。
一週間近く、家を出ることになるわけで。
つまり幸太郎は、しほが寂しがらないか心配していたのである。
(でもまぁ……今のところは大丈夫か)
とはいえ、来たばかりということもあってかしほはまだまだ元気そうだった。
「わぁっ。幸太郎くん、海よっ。青いわ! すっごい青いっ」
バスに乗車中、窓際の席で彼女は外の風景にはしゃいでいた。
まるで興奮した幼児のように、何か見つけては幸太郎の肩を揺すって報告してくる。
(心配しすぎかな? 俺の悪い癖だよなぁ)
時折、幸太郎は無駄に考えすぎることがある。
起きてもいない不安に引っ張られるのは良くない傾向だ。そんな思考を振り払って、彼もしほに促されるままに外の風景に視線を移した。
「……空港の近くは都会って感じがしたけど、だんだんと自然が多くなってきたね」
「そうなの! 海がこんなに近くにあるってすごいわっ」
窓の外には、一面に海が広がっていた。
二人は今、沖縄の南部から北部に向かって移動している最中である。南部には空港や県庁所在地の那覇があることもあって、沖縄の中でも人口密度が高く、街並みも発展している。
だが、北に行くほどに人口密度も薄くなり、手つかずの自然も多く見えるようになってくる。いわゆる『沖縄らしさ』を感じるのは、むしろ中部や北部の方が多いかもしれない。
まぁ、裏を返せば北上するほど田舎ということでもあるのだが。
那覇近郊は観光客向けに宿泊施設やお店など整備されていて、快適ではあるのだ。買い物を楽しみたい人は南部付近で遊ぶのもいいだろう。
しほと幸太郎は今回、綺麗な海を見たいということで北部のホテルに泊まることにしていた。なので、二人はこうしてバスで移動しているというわけだ。
ちなみに、沖縄に電車などというものは存在しない。モノレールなら那覇付近を走っているのだが、中部や北部にまで続いていないので、観光客の移動は専らバスかレンタカーになる。
そして、沖縄のバスは都市部と違って非常にのんびりしている。
昔よりはマシになったのだが、最近でも十分くらいは平気で遅れる。しかも車社会ということもあって道は頻繁に渋滞するので、移動も遅かった。
そのせいだろう。
『ぐるる~』
不意に、しほのお腹が唸り声をあげた。
隣にいる幸太郎にも聞こえるほどの大音量である。
「しぃちゃん……お腹空いた?」
「ち、違うわっ。わたしじゃないもん。おなかなんて空いてないんだからね!?」
確実に音源はしほのお腹なのだが。
しかし、相当恥ずかしいのだろう。彼女はお腹を抑えながらも、そっぽを向いて素知らぬふりをしていた。
女の子としてのプライドがあるのだろう。しほは頑なに認めようとしない。
「そっか。もししぃちゃんが空腹だたったら、次のバス停で降りて食事でもしようかと思ってたけどなぁ」
「あわわっ。う、ウソです! 今のはわたしが犯人ですっ。お腹空いたから、お願い幸太郎くんっ」
だが、しほはプライドよりも食欲の方が勝るようだ。
あまりにも呆気なく食欲に敗北した彼女は、嘘を認めて昼食を希望していた。
「分かった。じゃあ、下りて何か食べようか」
「やったー! 幸太郎くん、だいすきっ」
……そんなこんなで、二人の旅はまだまだ続く。
相変わらず、二人らしく……楽しい時間を過ごしていた――。
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