第10話王女の思い②


自供させるのは造作もなかった。


必死に彼女を擁護するグレンに、シスリー自身の口で「いかに自分がクズな女」であるかを台本通りに言わせ、その彼女を赦す私。


完璧じゃない?


『恩赦』という貸しをでっちあげ、代わりに魔物討伐に行かせてーー。


魔物討伐をボイコットされてはたまらない、と嘆いていた父も、「この件を全て任せる。やりたいようにやれ」と言って、この案に賛成したわ。


欲を言えば、私>シスリーという認識を植え付けたかった。


これが計画だった。


――だけど。


彼は腐っても勇者。


いくら真実であるように見せかけた『嘘』も、私が惚れ込んだあの『透き通った目』の前では、カムフラージュにもならなかった。


シスリーの自供を聞いたグレンは、しつこく「嘘だと言ってくれ!」「僕の目を見て話してくれ!」を何度も何度も大声で……。


まぁ、シスリーに彼と自由に意思疎通させる許可を与えていなかったから、いくらグレンが叫んでも無意味なのだけど……嘘って分かるんでしょうね。


しばらくして、糸がプツンと切れたように黙って、右足が一歩シスリーの方に前へと出かけたグレンを見た瞬間、察したわ。


(逃げる気?)


ずっと彼の事を思い続けていたかしら。


グレンが何を考えているかなんて手に取るように分かるの。


グレンを見るに、彼は自分がこれからどう行動するべきか、まだ彼の中で纏まり切ってなさそうに見えたわ。


これはラッキーね。


彼に心の余裕や時間があれば、未来はまた変わったのかもしれないけれど、私はそんな未来を望んでなかった。


私は、彼が行動に出る前より先に行動に出た。


時に早口、時に囁くように、巧みな話術を使って、彼の駆け落ちを阻止した。


彼も言いたげな様子だったけど、もう遅いわ。


主導権は私にあるの。


そして、最後に私は彼に用意していた指輪をプレゼントした。


その指輪は、隣国から入手した、二つで一セットのペアリング。


妖しく、眩く光を放つ紅と黒の鉱物が填め込まれたこの世に二つとない指輪。


そして、何よりもその特徴は、どこに居ても持ち主は相手の持ち主ペアの位置が分かる事。












 

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