第8話 おっぱいと一緒じゃ寝れん

「今晩、開いてますか?」


俺は適当な宿屋に入って尋ねた。

背中では船長が酒持ってこーいと小声だが、まだつぶやいていた。


船長、もうそろそろ酒求めるのやめません?

手に持った酒瓶は離さないし……。


「あーあいてるよ。何部屋だ?」


奥にいた髭面の親父が尋ねてくる。


「ふたへ……」


「一部屋ぁ!! 船長と元帥くんの仲だもん!! 一緒におねんねぶっかまそうぜぇ!!」


俺が二部屋と答えようとしたところで、船長が割り込んできて、そんなトンデモ理論を叫ぶ。


いやいや、あなたマジで言ってる?

マジならちょっと病院行ったほうがいいわ。


普通に考えて、宿の一室で男女が二人きりなんて大丈夫なわけないでしょう。


それに、俺の欲望が爆発しそうだから、やめてほしい。

どんだけ萎えたとはいえ、船長の大砲大砲と同じ部屋で一晩を過ごすのなると、勃つものが勃つだろう。


酔った船長はありえないくらいに無防備なので、俺も理性のリミット外れて狼になってしまうかもしれん。


船長を襲ってしまったとなれば、海賊引退どころか切腹まであり得る。


「ふ、二部屋でお願いします。」


「あいよ、一部屋ね。2000貰うよ。これ鍵。」


俺は訂正するが、親父は分かってるとばかりに笑って、鍵を差し出す。


分かる、分かるよ。

宿屋やってたらこういうシュチュエーションに度々出会って、一部屋にしたほうが気が利いてるってのはわかるよ。


けどね、今回ばかりはマジでそれは悪手なのだ。


「二部屋で。」


「2000のお返しです。ではごゆっくりー。」


俺が断固として譲らんと4000を出すと、親父はそれを受け取った上で2000をお釣りとして突き返してきた。


こやつ、やり手だ……。


もう仕事は終わったとばかりに微笑んで、親父はそっぽを向く。


「ほ〜らぁ〜、元帥く〜ん!! 早く行くよぉ、船長もうおねむなんだわ。ほら、しゅっこーう出航!」


俺がどうかしてもう一部屋借りようと頭を働かせていると、テンション高めな船長が俺の背中をバシバシ叩いて言ってくる。


「はぁ本当にいいんですね? もしものとき、困るのはあなたの方ですよ。」


俺は呆れ気味に尋ねる。

これでいいと言われてしまったら、もう本当に行くしかない。


「モロチン。船長、そういう覚悟大丈夫だからぁ! 後、元帥くんのこと信用してるし。」


船長はそう笑う。

そんなん、ずるいじゃんか。そんなこと言われたら爆発しそうになっても、ヤルにもヤれない。


そもそも、盛ろうと思うこともないと思うが。

ただ、萎えも収まってきてまた再び欲望が溢れ出してきたので、明日は船長と買い物に行ったら、夜の街に消えようと思う。


次は大きな戦いになるっぽいし、久々に何発か抜いてもらおうじゃないか。


人間、息抜きもガス抜きもヌキヌキも必要なのだよ。


「わかりました。部屋行きましょう。」


「よーそろぉー!」


俺の背中をバシバシと叩く船長に苦笑いしながら、俺は重さの感じない彼女の体を背負いながら部屋へと向かった。


「 おぉ、意外と広い部屋じゃないですか。」


俺は聞いているか聞いていないか分からない船長に向けて、独り言のようなつぶやきを放つ。


「すごぉーい、安い割には結構なお部屋じゃないの。」


どうやら聞いていたらしい船長は、また俺の背中をバシバシ叩いて言う。


あのー、痛いんですけど。何で、事あるごとに背中叩くんですか?

いきなり、ヤンデレ系ヒロインにでもジョブチェンジしたんですか。船長には難しいと思いますよ、幼馴染の暴力系ヒロインは。


「いやぁ、久しぶりに陸に上がったら眠くなってきちゃったよぉ。お酒も呑んで、今日は早く寝るかぁ。それじゃあおやすみ!! 君は盛るもんでも盛ってから適当に寝なよ。」


船長は回らない呂律を回して、そう早口でまくし立てると、二つ並べてあるベッドの中心にダイブした。


おい。

それじゃあ俺が端っこに出るのが決定じゃないか、俺だって久しぶりの陸なんだから、広々とゆっくり寝たいんだけど。


俺はお小言を言おうとするが、酔っ払いの入眠というものは早くて、船長はすぐに小さな寝息を立てて眠りに入ってしまった。


「はぁ、まったくうちの船長は……」


俺はそう口では言いながらも、シーツ1枚掛けずに眠ってしまった船長に布団をかけてあげる。


本当にこの船長は。無防備と言うか無頓着と言うか、謎の信頼を俺においていると言うか。

もう少し、警戒して欲しいものだ。


俺だって二十歳現役ピチピチバリバリの漢。襲わないとでも思っているだろうか。

まぁ実際、無防備な船長を襲うような勇気は俺にはないのだが。


俺はベッドに腰掛けて船長の顔を見つめる。

本当に整った顔だ。俺が生きてきた中で、こんなに綺麗な顔は彼女以外に一人しか見たことがない。その一人も、こんな天使のような……だらけき笑顔を見せることはなかったし。


「本当見ているだけなら最高なんだよな。」


かわいい胸もでかくてスタイルもいい、性格だってそこら辺の女と比べれば何十倍もマシだ。少し……言うか、かなり大雑把な所はあるが、根は優しくて気遣いのできる人だし、面倒見も良く、団員どもにもとても好かれている。


本当に、陸の上で出会ったならば、即求婚して即振られるくらいにはいい女だ。振られる前提なのは仕方あるまい。


男ばかりの海賊の華。他の団の奴らに出会った時には、お前らの船長は綺麗でおっぱいもデカくて羨ましいとよく羨ましがられる。


俺だって他の団にいれば、たいそう羨ましがっただろう。


しかぁし、海に出てしまえば話は変わる。

見ているだけで心が癒されるオアシスおっぱいも、欲望が制限される大海原ではじわじわと首を絞める、真綿の縄になりかねない。


と言うか、既にもうなっている。

俺たちはこの団に入った時から、常に強大な二つの大砲おっぱいを向けられながら、びくびくと過ごしているのだ。いつ発射するかもわからずに。


もう我慢しすぎておかしくなって、男が好きになってしまったやつもいた。

大きいものを日常的に見すぎて、ロリコンになったやつもいた。

ムラムラが限界突破して、常時賢者タイムを発動できるようになったやついた。


俺も一瞬、男の娘に目覚めかけた。

しかし、男である自我を保って必死に自分を抑え、なんとかここまでやってきた。


他のやつもそうだ。皆必死に自らの欲望を抑えているから、メンタルだけは世界最強の海賊団と言っていいほどには、鋼の精神力を手にしている。


つまりどういうことかと言うと、 船長のおっぱいがデカすぎるのだ。


「すぅ……ぅ……あぅ……」


ほら見ろよ。安らかのようで微妙にエロい寝息を立てている今も、その凶暴な双峰はシーツを沈ませるほどにタユンタユンしている。マジH。


タユンタユンという擬音が存在するか知らんが、とにかくヤバいのだ。

エゲツないほどの柔らかさと弾力を兼ね備えている。


ヤバぇ、ムラムラしてきた。


船長が寝る前に言ったとおり盛りたいのは山々だが……女性と二人泊まっているところで発情するほど、俺は変態ではない。


「俺も早く寝よ。」


このまま起きていたら、更に欲望の戦艦が加速して止まらなくなりそうなので、 俺は早急に床に就くことにした。


眠ってしまえばこっちのもん。

夢でどんなにエロい女に囲まれようが、万の女をはべらせてハーレムを作ろうが、何したってナニしたって誰に止められることもない。


まさに夢の世界。睡眠最高。


というわけで、俺は船長が真ん中に大文字で寝たせいで細くなったスペースに潜り込む。


なんか隣から柔らかそうな気配と甘い香りと暖かい体温の、誘惑のエレクトリカルパレードが響いてくるが、俺は絶対に寝返りを打たないという確固たる意志の元、まぶたを閉じて羊を数え出した。


羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹、羊が4匹、おっぱいが2つ、羊が5匹、羊が6匹、おっぱいが バルンバルン、 羊が7匹、おっぱいがポヨンポヨン、羊が8匹、おっぱいが9匹、羊がボインボイン…………


俺は所々で欲望が入り混じる羊数えをして、徐々に夢の世界へと誘われていった。


……おっぱいが100匹……エヘヘ、おっぱいパラダイス……

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