第6話 よっぱらったおっぱい

「Ahoy!!」


俺が酒場につくと、目があった船長は軽く手を上げてそう言った。


「よーそろ。って、もう呑んでんじゃないですか。」


俺も挨拶を返して、カウンターの彼女の隣に座る。


さすが酒豪。もうすでに何本も空けてある。

よくそんな飲めるよな。俺お酒そんな強くないから、一本もいけないわ。


「そりゃぁアンタ、呑めんのなんてくがに上がったときだけでしょうがよぉ。ヒック」


船長はお酒が入ってるとき特有の語尾が小さくなる話し方で、俺の方を見る。


船長はお酒をめっちゃ飲むが、酔わないというわけではなく、顔も赤くなるし記憶も飛ぶ。ただ、それでも呑みつづけるというだけ。


「できあがってますね。で、話ですが。ザッパに言えば女攫ってウヘヘ。それで地下室に十数人壊れかけの女がいたっていう。」


俺は腹を満たすためにステーキでも頼んで、船長に要点を伝えた。


海の上じゃ魚は食えるけど、肉は干したのばっかだから。焼きたての油肉はウメェんだ。


「そりゃぁまたデカくやったねぇ。そうかそうか。で、全ボコ?」


船長は遠い目でつぶやいたあと、ニンマリとした笑みで尋ねてくる。


本当に、表情豊かな人だ。わかりやすいとも言う。


全ボコ全員ボコボコです。女の人達も保安官に任せました。」


「オッケッケ。ほら、アンタも呑みなさいっての。」


俺がサムズアップとともに笑い返すと、船長も親指を立てて、俺のコップに酒を注いだ。


注いだあとにサッと運ばれてきた俺の肉から、コーンを取ったのを俺は見逃さない。


別に俺コーン好きなわけじゃないからいいけど、せめてもらうの一言は言いましょうよ。


俺はそう思うが、美味しそうにコーンを頬張る船長をみて、まぁいっかと思い直し酒を口に運んだ。


「そんな呑みませんよ……。次はどこです?」


「わからぁん。でも今真ん中じゃぁん?そろそろ本気で7つのお宝に挑戦しないとだし、北に行くかな。」


船長はサッと胸のポケットから地図を取り出して、指さしながら言う。


今いるのは地図のど真ん中。メルカトル図法だと一番面積が大きく見えるところ。


7つのお宝というのは、海賊王になるために必要とされる『七つの大宝たいざい』のこと。


1つ、荒波の中を進み行く“勇気”

2つ、味方を守り海に骨を埋める“覚悟”

3つ、胸一杯に詰まった“希望”

4つ、赤の“羅針盤”

5つ、青の神“剣”

6つ、緑の透“盾”

7つ、金の“財宝”


その7つを揃えることができれば、この大海原のすべてをその手に収めることができる……のだとか。


そんな本当か嘘かもわからない迷信じみた言葉に、世界中の男が胸を高鳴らせ、海に出るのさ。


もちろん、俺も船長もその一人。


船長は男じゃねぇけどな。

それと、胸は高鳴らせずに揺らしてるな。


「北にあるんすか?」


俺は地図の北を見ながら言う。

見る感じ、北にはクソでかいだけでなにもない島と、海しかない。


があるって噂。で、南に赤。今北はちょうど冬だから、みんな赤目指してんだわ。だから、そこであえて北に行くと。」


船長は胸元から赤いペンを取り出して、地図の下の方に3つの点を書き込む。


さっきから胸元からなんか出し過ぎじゃね。

胸でかいと、そこに四次元ポケットでもできるんですか。


俺は視線がそっちに釘付けになりそうなのを、必死にこらえて横目で見るだけにしておく…………デカい。


彼女の言った『みんな』とは、四大海賊のことだろう。


四大海賊とは、その時代で勢力大きい海賊団、上位4つを指して言う言葉。


それは時代によって移ろいゆき、もちろん今の時代にも存在する。


力だけを信じて突き進むキング・オブ・筋肉、マッソー海賊団。

女のみで構成される女海賊団、ウーマ海賊団。

情報を操り、海賊王を目指さないことを公言している謎の組織、メーション海賊団。


そして、俺達スペース海賊団。


そのイカれた4つを合わせて、4大海賊と呼んでいる。今のところは。


なんせ、いつ変わるかもわからない。


もしも若手でグングンと伸びてくる海賊がいれば、4大海賊になるやもしれない。


てか、こう並べたら本当にイカれたメンツだよな。


筋肉に女に謎の組織に………オレたちってなんだろう。


他の3つに匹敵できるようなインパクトのあるもの、俺らにはねぇぞ。


俺らの取り柄………仲の良さ?

団員の男どもは、みんな禁欲の辛さを分かち合ってるから、仲がいい。


裏では『本日の船長'sおっぱい』なんて交換日記もされているし。


もちろん、中身は船長'sおっぱいのことで、


『Ahoy!!と言うときに、5cm以上浮けば吉。』


とか、


『走るときにバルンバルン揺れるが、それは歩数と比例してはおらず、胸の揺れはワンテンポ遅れるため少しづつ打ち消し、約7.5回揺れると1回分ズレる。』


とか、


『船長が手を使わずに胸のみで舵を取っていた。あれは何カップ以上ならできるのだろうか。というか、船長は何カップなのだろうか。有識者求む。』


とか、そんな天才なのか馬鹿なのか分からないことが日々綴られている。多分、紙一重で変態だろう。


俺らおっぱいで繋がった仲だ。この絆は同じ乳を飲んで育った兄弟のように固い。


…………何の話だ?


あれか、4大海賊団ってヤベえって話か。


まぁ俺らの代名詞は、仮に『おっぱい』としとこう。


筋肉に女に謎の組織におっぱい。


うん。更にやばくなったわ。

けどまぁ、こんくらいぶっ飛んでないと、4大海賊なんてやってらんないだろう。


俺は謎の納得をして、彩りのコーンがなくなったステーキにかぶりついた。


「ウメェ〜!!」


「くぅ〜、やっぱロックでしょぉ〜!!」


隣では船長がコーンを、ロックの酒で流し込んでいる。

楽しそうで何よりだ。


「「ほんと、くがって最高だぜぇっ!!」」


俺たちは海賊とは思えないセリフを吐きながら、どちらからともなくグラスを合わせあった。

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