第17話 僕はみんなとお祈りする
「んぅ……」
もぞもぞと動き、ぱっちりと目を開く。
「……知らない天井だ」
知ってるけれど。昨日の夜までとは決定的に違う。
目に入るすべてが真っ白だった。
昨日あったことはすべてが本当にあったことなのだと、僕に囁く。
枢機卿――マリス様による白化で、真っ白に染め上げられた教会。その自室にて、僕はベッドから起き上がった。
「姉ちゃん! アカリ姉ちゃん!」
ドンドン、と扉を叩きながら叫ぶレン。
入っていいよ、と言った途端、バン! と思いきり扉が開かれた。あまりにも強く開けすぎて、扉が壊れないか心配だ。
「大変なんだ! 全部が白くて、白くて……とにかく真っ白なんだ!」
レンの後ろからワラワラと子どもたちが姿を見せる。みんな誰もが不安そうに瞳を揺らしている。
「大丈夫だよ。教会が、ちゃんと教会になったってことだから。安心して」
優しく微笑むと、レンが赤面する。
「お姉ちゃん! おはよう!」
「おはようジュリア。元気でいいね」
抱きついてきたジュリアの頭を撫で、レンを見る。
「レンは来ないの?」
「お、俺はいい。俺が行けば……ほかの奴らも来て大変なことになるだろ。ジュリアだけなら、みんな我慢できる」
「そっか」
レンが顔を赤くしてそっぽを向く。
「みんなで朝食を食べよう。そのあと、しなきゃいけないことがあるからね」
僕たちは隣にあるムタくんのコンビニに行き、ひとまず僕のお金で朝食分を購入する。
今は営業していないけれど、鍵を持つ僕には関係ないし、ムタくんからも許可が下りているのだ。
「お祈りをして、天啓を得よう」
「天啓?」
「そう。自分の望みを叶えてもらうんだ」
教会の周りは、一夜にして真っ白に染まったことで一種の名所のようになっていた。
大人たちがぐるりと取り囲み、けれど誰も近寄らない。ここがアトラス教の力の及ぶところだと、肌で感じているのだ。
レンたちを連れて祈りの間に行くと、僕はマリス様がしていたようにお手本を見せる。
「僕の真似をして、お祈りするんだよ。自分がしたいこととかお願いしてね」
半信半疑で、けれど、僕がいうのだからとみんなが真似してくれる。そんな彼らの期待に応えてもらえるように、僕も真剣に祈った。
(子どもたちが健やかに育ちますように……)
返事はない。
普段のお祈りで返事が来ることはないけれど、天啓が下りるときは返事があることを僕は知っている。
少しして、みんなが立ち上がる音が聞こえた。
立ち上がって振り向くと、みんなが目をキラキラしている。
ここで得た天啓はアトラス教が管理するとか、そういうものはない。
だけど、みんなが興奮して教えてくれる。
「俺麦作ったら収穫量5倍になるって! 5倍ってなんだー!?」
「私なんて私がお願いしたら雨が降るの! 凄くない!?」
「僕はアカリお姉ちゃんを守るよ! 影の中に入れるんだ!」
「俺は逃げ足早くなるって! これで食い物盗んでも捕まらない!」
「俺も麦作ったら収穫量5倍なんだけどー!」
「私はお願いしたら壁ができるんだって! すごーい!」
「俺のほうがすごいぜ! 俺なんて胃袋5個になったんだ! これで腹一杯……腹5杯も食べれるぞ!」
「「え! いいなー! ずるーい!」」
「ふふ、私のほうが凄いのに、醜い争いなんてしちゃって」
「なんだよ、セーラは何をもらったんだ?」
「私はねー、アカリお姉ちゃんを守りたいってお願いしたの。で、このおっきな盾を貰えたのよ!」
セーラが盾を出す。
神秘的な白い光に包まれた盾。出し入れ自由みたいで、何度も消したり出したりしている。
それが子どもたちにはおもしろいのだろう。先ほどよりも興奮した声が祈りの間に響いた。
「それで、レンとジュリアはどんなだったの?」
みんなが口々にいう中で、レンとジュリアだけが黙っていた。
みんなも気になったようで、二人に「教えろよー!」と楽しそうに笑っている。
「俺は……普通だ普通。よくあるやつだよ」
「よくあるやつってなんだよ〜、教えろよ〜」
「うっ……ぁ、アカリ姉ちゃんがどこにいるのかわかるっていうの」
レンが赤面する。
それはつまり、僕のストーカーですか?
「いいなー! アカリお姉ちゃんのピンチに駆け寄れるよそれ!」
セーラがいいなと声を上げ、周りの子たちも羨ましいと声をあげた。
え?
「ジュリアは?」
とりあえず流すことにして、今度はジュリアに聞いてみた。
「あたしは、お姉ちゃんとずっと一緒にいたいってお願いしたの。そしたらね、お姉ちゃんは大変な目に遭うからって、いっぱい貰ったよ。レンとセーラみたいなこともできるし、走ることも、ちょっとくらいなら食べなくてもよかったりするんだよ。あとね、お姉ちゃんの敵をやっつけられるんだって! なんかね、ぎゅー! ってするとね、しんぞう? っていうのを潰せちゃうって!」
ヤバい。
ジュリアがダントツでヤバい。
手をにぎにぎして、ぎゅー! をしようとしてくれる。
「い、いや、それはもうわかったよ、うん。その気持ちすごく嬉しいなぁ」
「ほんと!?」
「うん! ジュリアはいい子だね」
まだ13歳くらいの子が心臓を握りつぶせるなんて、ヤバい。
ちゃんと情操教育しないと、大変なことになりそうだ。
ジュリアの頭を撫でながら、僕は知らなかったことにするか悩んで、やっぱりそんなことはできないと思った。
僕を守ろうとしてくれているのだ。
その気持ちに応えないと、僕の心臓が危うい気がする。
ひとまず祈りの間を一般公開するため、僕たちは外に出た。みんなに手伝ってもらい、アトラス教で洗礼を受けることを伝えて周り、洗礼の仕方はみんなが持ち回りで教えていってくれた。
僕がすることはほとんどなくなってしまい、バルドさんのところへ行くことにする。
そろそろ議会の族長たちを招集して、今後の指針を決めなければならない。
ところで、僕が大変な目に遭うって、嘘だよね?
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