第33話 誘拐

レベッカの病室

レベッカが、そっと目を開ける。上半身を起こし、瞳をパッチリと開ける。

テレサが駆け寄る。

「レベッカ、レベッカ。やっと気がついたのね。よかったわ。よかったわ。お父さん、お父さん!」

ベッドの周りでは、マービンやリーガンも集まって喜び合っている。

レベッカが静かに語りだす。

「長く、苦しい夢を見ていたわ。ラッキーが鎖にまかれて苦しんでいたの。私にはどうにもできなくて。ところが、そこにリタがきて救い出してくれたのよ。そうだ、リタ、リタはどこ。私を励まして

くれたリタ」

テレサが花瓶の花を指し示す。

「リタは、今日は着てないけれど。そのお花はお見舞いに来たときに、あなたにって…。」

「リタが、夢の中で、私に力をくれたのよ。リタに会いたい、リタに会わせて」

「はいはい、すぐに連絡をとって、来ていただくわ」

「ありがとう」

レベッカは大きく深呼吸をした。その瞳には輝きが戻っていた。


体育センターのそばの丘の上

タロスとジャイアントがにらみ合っている。ジャイアントの左手には、上下つなぎの作業服を着たリタが、気を失ってつかまれている。後ろにはデーモンたちがぞろぞろとついて周りを威嚇している。

ケンがモニター画面をチェックする。

「リタ隊員を確認しました。なんとか、救出を試みます」

ルークが声をかける。

「冷凍弾や殺菌弾は、リタがいるから使えないぞ」

「わかっている。ソードとボウガンでなんとかやってみる。リタ、待っていろよ」

巨大なソードを振り上げて突進するタロス。振り下ろされるソード。

ジャイアントは巨大な腕でそれを振り払うが、右手が大きく切れる。

「ウォーン」

ジャイアントが怒り狂うと体を覆う長い毛が硬質化し、傷口もみるみる治っていく。

「浅かったか。もう一撃!」

タロスが今度は横から大きく切りつける。だが、硬質化した剛毛によって、簡単に振り落とされ、さらに太い腕からの熱放射弾を至近距離から浴びせられる。

ルークの声が響く。

「ケン、一度下がって体勢を立て直せ」

「了解。よし、間合いをとって、ドリルボウガンで逆転だ」

さっと後ろに下がったタロスが、すばやくボウガンを撃ちぬく。

ジャイアントはよけるが、矢は肩の肉をえぐる。ジャイアントは、あわててリタをそばの地面に置くと攻撃体勢に入る。

「グアォー」

両手の筋肉が盛り上がり、手のひらと爪が巨大化、硬質化する。

ルークのドリルボットが動き出す。

「やっこさん本気だ。ケンがんばってくれ、その間にリタを救い出す」

ケンも負けてはいない。

「今度こそ、とどめだ」

巨人タロスが強力なボウガンをキリキリと引き、一気に矢を放つ。

だが、巨大な爪の攻撃で矢は叩き落され、さらに巨体が剛毛を逆立てて襲いかかる。

がっしり組み合う二つの巨体、空転するキャタピラが唸りを上げる。

「うぉ、な、なんて怪力だ」

メキメキと音を立て、ボウガンをつけた腕がねじ曲がる。

右手のソードで切りつけるが、剛毛ではねかえされてしまう。

「うぬ、ま、まずい」

関節に閃光が走り、タロスの片腕はもぎ取られてしまう。

火花が散り、振動音が響き、小さな爆発が立て続けに起こり、タロス機能停止。

動かなくなったタロスから離れ、勝利の雄たけびを上げるジャイアント。

そのすきに、ルークのドリルボットが、リタのすぐそばまで接近する。

「リタ、待っていろよ」

だが、ドリルボットに気づいたジャイアントが、大急ぎで駆けつけると、あと少しというところでリタをその大きな手でつかみ、ドリルボットをひっくり返し、去って行く。

煙を上げ横たわるタロスとドリルボット。

気を失ったままのリタをそっとつれて、ジャイアントは、静かに去って行く。


便利屋サムの事務所、テーブルの上に新聞がいくつも広げてある。

新聞にはどうやら同じ記事や写真がのっている。。

いずれも最近動物園にきたオランウータンの紹介記事である。

最後の写真には、上下のつなぎ姿の飼育係と一緒に映っている。

かたわらで、イネスが忙しそうに調べ物をしている。

「ありました博士。やはりあの上下のつなぎで間違いないですね」

ソロモン博士が覗き込む。

「本当だ。まさかと思ったが、言われてみれば、この便利屋サムの作業着と、動物園の飼育係のつなぎが似ておるのう。そっくりだ」

「それで、リタは、あんなに大事にジャイアントに連れて行かれたんですわ」

「まだ緊急回線はつながらないか」

「通信機は正常ですから、まだリタの意識が戻ってないのでしょう」

「ハンドとエルンストはどうなんじゃ」

イネスがモニター画面をチェックする。

「二人には、同じように帰還命令を出したのですが。ハンドは、前のミッションがコンプリートするまでは帰らないそうです。エルンストは特殊処理班に回収されて、先ほど検問を超えたそうですから、程なくここに送られてくるでしょう」

「ふうむ、自立型アンドロイドとして、ハンドはまた少し進化したようじゃのう」

そこにシドとモリヤから連絡が入る。

「今、封鎖地域の操作許可がやっと下りた。今から、リタの奪還作戦を行います」

ソロモンが念を押す。

「リタの現在位置と最新の状況はすべて送るから……。ハンドとも協力して、なんとかリタを救ってくれ、頼む」

シドが答える。

「ああ、何から何まで責任を感じています。それ以上言うことはありません、では」

その時、イネスのパソコンが点滅し、何かを知らせる。

「博士、エルンストが到着しました。おかえりなさい。すぐ博士に見てもらいましょう」

さっそくソロモン博士が奥の研究室で、精密検査を行う。

ソロモン博士の表情が険しい。

「これは、まずい。運動中枢がやられておる。バイオコンピューターにも、異常がありそうだ。うん、こ、これは……」

イネスが近付いてくる。

「どうしたのですか」

ソロモン博士がコンピュータを操作しながら答える。

「自分からはほとんど欲求を持たないはずのバイオアンドロイドが、何か強いメッセージを送っている。今、モニターに、出力をする」

モニター画面に、次の言葉が流れる。

「もっと強くなりたい。もっと強い体がほしい」

イネスが目を丸くする。

「これは……。エルンスト、あなた……」

「エルンストも、立派に成長しとるということじゃ。だが、ここの施設ではきちんとした修理は無理じゃ。これから、生物科学研究所に出かけることにしようレオン博士の設備なら、なんとかなるじゃろう」

「すぐに連絡をしておきます。でも……」

「でも、なんじゃ」

「生物科学研究所には例の確保された怪物がいて、手を焼いているようですよ。お気をつけて」

「例の怪物?カニと昆虫の遺伝子を持っていたというやつか。うむ」

その言葉を聞いたとたん、エルンストの目が光る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る