第87話 再度王都へ1
種蒔きが終わった。
これから、王都行きの準備作業に入ると思う。
新しい村長宅は、もう少しかかりそうだ。でも、帰って来た頃には、完成していそうだな。
井戸は、レンガで舗装している。水質調査は、もう少し先だそうだ。
俺は……、肉体労働くらいしかすることがなかった。
ちょっと不満かな。
「大規模破壊とか行いたいけど、エレナさんの表情が曇りそうだよな……」
ちょっとストレスが溜まっているかもしれない。収納魔法を使えないからだ。
昼食を食べながら考える。
「ああ、そうだ。海に行ってみるか」
また海魚を得るのもいいだろう。干して保存食にしてもいいし。隣町に売りにも行ける。
エレナさんに聞いてみるか。
「エレナさん。海に行って来てもいいですか? また、魚を獲りたいです」
「……食料は、十分にあります。塩もトールさんが以前作っていて、一年間は不足しません。それよりも、そろそろ王都行きを考えましょうよ」
意外だな。エレナさんは、王都行きは否定派だったと思ったのだけど。まだ時間を稼ぐのだと思っていた。
ここで、ヴォイド様が来た。
「トール。そろそろ王都行きについて話し合いを持たないかい?」
話し合い? なんだろう?
まあ、俺に反対意見はない。
「情報の提供をお願いします。俺は、王家について無知なので。なにをすればいいか。それと、シュナイダーさんの処遇とか、詳細を決めて貰えますか?」
◇
村長宅へ移動となった。
メンバーは、ヴォイド様、セリカさん、エレナさん、シュナイダーさん、俺の5人だ。
これから、詳細を教えて貰う。
「まず、シュナイダーからだな。彼は、スミス家預かりとなる話はしたと思う」
そこから先が知りたいんだけど。
「それで……、果樹園だ。王都で果樹園を作って欲しいと連絡が来ている。数年先になるが、他の地にもお願いしたいのだそうだ」
果樹園? お願い?
「……そうなりますか。ハグレのエルフから、随分と期待されているみたいですね」
シュナイダーさん? テレパシー能力か?
連絡が来ている?
「うむ。南のエルフ領から逃げて来たエルフ達が、困っているのだそうだ。北のエルフ族の技術を欲しているらしい。助けてやって貰いたい」
話が、おかしくないか?
聞いてみるか。
「排他的な人族の領土で、ハグレのエルフを匿っているのですか?」
全員が俺を見る。ズレたことを言ったようだ。
「……排他的か。まあ、そうなのだがね。だが、他種族でも保護を求めて来る者を追い返すほど、人でなしでもないと言ったとこかな。トールは、オークの件があるので誤解してるね」
そうなのか? 亜人については、以前ヴォイド様に聞いたことがあるけど、あの時は、『国境まで行けば』だった……。
確かに、『住んでいない』とは言っていないな。
「他種族と戦争しているんですよね?」
「人族領にも、亜人族は住んでいるよ? 王都には、入れないけどね。そうだね……、トールは、他の街に行って会話して来るといい。エレナ、手紙を書くからスミス家に渡してくれるかな」
「畏まりました」
ダメだ、分んない。
その後、エレナさん、シュナイダーさん、俺の3人で王都に行く事を告げられた。
運ぶ物資は、事前に決めているらしく、馬車に積み込めばいいらしい。
それと、明後日出発にすると教えて貰った。
「トールさんも、王都に喜ばれそうなモノを探してくださいね」
明日一日でなんか用意しろと? 塩でいいかなと思ってたんだけど。
ため息しか出ないよ。
◇
シュナイダーさんは、果物を収穫していた。
エレナさんと俺は、荷物を馬車に積み込む。
「トールさんは、亜人と会ったことはないのですか?」
突然のエレナさんからの質問だ。
「一人だけ、会ったことがあります」
「亜人族は、王都に立ち入らないという条件付きで、各街で保護しています。絶対数は、少ないのですが……。本当は、こんな政策なんて意味ないって皆思っているんです。ですけど……、過去の歴史と王家の体面もあって……」
少しだけ理解した。他種族といえど、条件付きで住めたのか。
隠していた訳ではないと思う。
もしくは、俺の危険性を考慮して、今まで黙っていたかだな。
「危なくは、ないのですか?」
「危険な人物なら、追い出します。奴隷紋の技術もありますし……。時間をかけて問題に取り組めば、共存も可能ですね。まあ、共存していた時期もあるんだし」
「今度は、王都以外にも行ってみたいですね」
「ハグレとなって、他種族で保護を受けて戻って来た人達がいます。その人達が、主導して作った街がありますね。規模の小さな街が、多少ある程度に考えてください。一番近い街は……、かなり遠いです。寄り道すると、王都へ行くのが遅くなりますし……。ヴォイド様の手紙次第かな」
今回は、無理そうだな。
だけど、以前行った廃墟なら別だ。
「エルフ族や亜人族がなにを考えているのか……、聞いてみたいですね。世界規模でなにが起きているのか……」
「はぁ~。面倒ごとを起こさないでくださいね」
「今回の王都行きの用事が終わったら、行くのもいいかな」
「だから、伏せていたのに……。理解してない……」
俺って、本当に信用ないんだな。
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