第87話 再度王都へ1

 種蒔きが終わった。

 これから、王都行きの準備作業に入ると思う。


 新しい村長宅は、もう少しかかりそうだ。でも、帰って来た頃には、完成していそうだな。

 井戸は、レンガで舗装している。水質調査は、もう少し先だそうだ。

 俺は……、肉体労働くらいしかすることがなかった。

 ちょっと不満かな。


「大規模破壊とか行いたいけど、エレナさんの表情が曇りそうだよな……」


 ちょっとストレスが溜まっているかもしれない。収納魔法を使えないからだ。

 昼食を食べながら考える。


「ああ、そうだ。海に行ってみるか」


 また海魚を得るのもいいだろう。干して保存食にしてもいいし。隣町に売りにも行ける。

 エレナさんに聞いてみるか。



「エレナさん。海に行って来てもいいですか? また、魚を獲りたいです」


「……食料は、十分にあります。塩もトールさんが以前作っていて、一年間は不足しません。それよりも、そろそろ王都行きを考えましょうよ」


 意外だな。エレナさんは、王都行きは否定派だったと思ったのだけど。まだ時間を稼ぐのだと思っていた。

 ここで、ヴォイド様が来た。


「トール。そろそろ王都行きについて話し合いを持たないかい?」


 話し合い? なんだろう?

 まあ、俺に反対意見はない。


「情報の提供をお願いします。俺は、王家について無知なので。なにをすればいいか。それと、シュナイダーさんの処遇とか、詳細を決めて貰えますか?」





 村長宅へ移動となった。

 メンバーは、ヴォイド様、セリカさん、エレナさん、シュナイダーさん、俺の5人だ。

 これから、詳細を教えて貰う。


「まず、シュナイダーからだな。彼は、スミス家預かりとなる話はしたと思う」


 そこから先が知りたいんだけど。


「それで……、果樹園だ。王都で果樹園を作って欲しいと連絡が来ている。数年先になるが、他の地にもお願いしたいのだそうだ」


 果樹園? お願い?


「……そうなりますか。ハグレのエルフから、随分と期待されているみたいですね」


 シュナイダーさん? テレパシー能力か?

 連絡が来ている?


「うむ。南のエルフ領から逃げて来たエルフ達が、困っているのだそうだ。北のエルフ族の技術を欲しているらしい。助けてやって貰いたい」


 話が、おかしくないか?

 聞いてみるか。


「排他的な人族の領土で、ハグレのエルフを匿っているのですか?」


 全員が俺を見る。ズレたことを言ったようだ。


「……排他的か。まあ、そうなのだがね。だが、他種族でも保護を求めて来る者を追い返すほど、人でなしでもないと言ったとこかな。トールは、オークの件があるので誤解してるね」


 そうなのか? 亜人については、以前ヴォイド様に聞いたことがあるけど、あの時は、『国境まで行けば』だった……。

 確かに、『住んでいない』とは言っていないな。


「他種族と戦争しているんですよね?」


「人族領にも、亜人族は住んでいるよ? 王都には、入れないけどね。そうだね……、トールは、他の街に行って会話して来るといい。エレナ、手紙を書くからスミス家に渡してくれるかな」


「畏まりました」


 ダメだ、分んない。

 その後、エレナさん、シュナイダーさん、俺の3人で王都に行く事を告げられた。

 運ぶ物資は、事前に決めているらしく、馬車に積み込めばいいらしい。

 それと、明後日出発にすると教えて貰った。


「トールさんも、王都に喜ばれそうなモノを探してくださいね」


 明日一日でなんか用意しろと? 塩でいいかなと思ってたんだけど。

 ため息しか出ないよ。





 シュナイダーさんは、果物を収穫していた。

 エレナさんと俺は、荷物を馬車に積み込む。


「トールさんは、亜人と会ったことはないのですか?」


 突然のエレナさんからの質問だ。


「一人だけ、会ったことがあります」


「亜人族は、王都に立ち入らないという条件付きで、各街で保護しています。絶対数は、少ないのですが……。本当は、こんな政策なんて意味ないって皆思っているんです。ですけど……、過去の歴史と王家の体面もあって……」


 少しだけ理解した。他種族といえど、条件付きで住めたのか。

 隠していた訳ではないと思う。

 もしくは、俺の危険性を考慮して、今まで黙っていたかだな。


「危なくは、ないのですか?」


「危険な人物なら、追い出します。奴隷紋の技術もありますし……。時間をかけて問題に取り組めば、共存も可能ですね。まあ、共存していた時期もあるんだし」


「今度は、王都以外にも行ってみたいですね」


「ハグレとなって、他種族で保護を受けて戻って来た人達がいます。その人達が、主導して作った街がありますね。規模の小さな街が、多少ある程度に考えてください。一番近い街は……、かなり遠いです。寄り道すると、王都へ行くのが遅くなりますし……。ヴォイド様の手紙次第かな」


 今回は、無理そうだな。

 だけど、以前行った廃墟なら別だ。


「エルフ族や亜人族がなにを考えているのか……、聞いてみたいですね。世界規模でなにが起きているのか……」


「はぁ~。面倒ごとを起こさないでくださいね」


「今回の王都行きの用事が終わったら、行くのもいいかな」


「だから、伏せていたのに……。理解してない……」


 俺って、本当に信用ないんだな。

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