第9話 こっちを見て笑ってたのを覚えてるよ
ある日、小学生になった子どもが、「私、昔、ここで寝てたよね」と話し出した。
「ここで横になっていて、上にゆれるオモチャ(まだ寝返りがうてない赤ちゃん用のジム)があって、窓から光が入ってて、あっちの部屋からママがこっちを見て笑ってたのを覚えてるよ」
その瞬間をたまたま私も覚えていた。
なんでかというと、全身がスイッチかというくらい、布団にねかせると泣く赤ちゃんなのに、珍しく一人で横になっていたのに泣き止んだから、台所でお皿を洗っていた私は声が聞こえなくなって「あれ? 寝たのかな?」と見に行ったところだったからだ。
南向きの窓からレースのカーテンごしに昼の光が入ってきて、優しい風にそよぐカーテン。
そのカーテンをつかみたいのか、手を伸ばせば届くオモチャをさわりたいのか、一人で楽しそうに手足を動かす赤ちゃん。
それまでは、とにかく泣かれないようにかまっていたけれども、こんな風に遊んでくれることもあるんだなぁ。
まるで天使かなにか、見えない誰かが遊んでくれているみたいだなぁ。
とても尊い(当時はそんな表現はなかったですが)光景に、きっと自然に私も微笑んでいたんだろう。
なんせその子は全身がスイッチかというくらい敏感な赤ちゃんで、夜も抱っこしたままじゃないと眠らず、布団にそっと置こうものなら泣き出す始末。
だから私は布団の上でよこになれず、いつも赤ちゃんを抱っこして、壁沿いに大きなクッションのように布団を重ね、背中をもたれかけて眠っていた。
昼も同じで、そばにいても抱っこをせがまれ、ほぼずっとおっぱいを吸われていた。
おっぱいを飲んで眠るかな、と思って布団に置くと起きるし、おっぱいが口に入っていないと眠らないことが多くて、くわえられっぱなしでふやけた乳首が何回も切れて痛かった。
(当時は乳製品アレルギーだったので、粉ミルクを使うことができなかった)
実家の車に乗せてもらったある日は、目的の場所についた時に赤ちゃんが寝ていたので、車から降りて赤ちゃんが起きて泣くことが怖かった私は車中に残って、赤ちゃんを抱っこしながら一緒に寝させてもらった。
極度の寝不足で、座ったらすぐ眠りに落ちる状態だった。
それでも家事をしないと家はぐちゃぐちゃで。
どうしてもやらなくてはならない家事を、赤ちゃんが眠った瞬間にしたいのに、なかなか眠ってくれない。眠っても、布団に置いたら起きてしまう。
さすがにずっと相手をすることは無理なので、もう、お皿を洗う間は泣いてもらおうと布団に置いて、せめてもとベビージムをセットしていたのだ。
寝返りもできないくらい小さかったから、生後数ヶ月頃の話だ。
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