因果応報

第679話 Gよりマシ?

「涼しくなると覿面に源之助の愛情が深まるねぇ」

ソファに座って先日買った本のシリーズを1巻から読み直している私の膝の上を見て、外から帰ってきた碧が言った。


膝の上でぬくぬくと暖まりながら昼寝している源之助を見下ろして、思わず笑いが漏れる。

「食事係と暇つぶしの相手をさせる下僕としてそれなりに気に入られているとは思うけど、室温が下がると一気に『寄り添い度』が上がるよね〜」

10月を過ぎてやっと涼しくなってきたものの、南向きに大きな窓があるこのマンションはそれなりに日中の日差しで暖かくなっていたのだが、昨日から天気が悪く日差しがなくなったせいで部屋がひんやりしてきたら、一気に私たちの重要度が上がったらしい。


午前中は碧にべったりしていた源之助だが、彼女が買い物に出て行った後は私をホットカーペット代わりに上に寝転がっているんだよねぇ。


お陰で食事やトイレに行くのも難しく、嬉しいんだけど辛い。


「あ、さっき退魔協会から電話が入っていたよ。

呪詛返しの依頼に関してメールを送るから是非受けてくださいだって」

昔は電話が鳴ると飛び上がって走り回っていた源之助だが、今ではどっしり構えたまま動かなくなったので、今日は立ち上がれなくて電話も取らずに留守電に任せる羽目になった。

まあ、どうせ碧と話し合わなければ依頼を受けるかどうか、決められないのだ。

態々源之助を膝から下ろして『後で碧が帰ったら返事します』と応答する事もなかろうと留守電に応答を任せて無視した。


「呪詛返し??

こないだのハロウィンで一網打尽・・・とまで言わなくても国内の仕事熱心な呪師は片っ端から再起不能にしたんじゃ無いかと思っていたんだけど。

まだ居たんだ??」

碧が意外そうに言った。


まあ、退魔師だって全国で数百人いるのだ。

人格的に色々欠落が必要だがその分『一人前』になるハードルが退魔師より低い呪師の方が人数が多い位でも不思議は無いかも?

依頼を選ばないと命懸けな職業だから、一人前になってからの脱落者は退魔師より多いだろうが。


表立って『職業、呪師です』と言えない分、そんなに増えなそうな気もしていたが、所得税も払わずに儲けが全て懐に入るからやりたがる人間は尽きないのかな?


いや、それなりに収入源を偽造して所得税も払わないと儲けた金を使いにくいか。

家を買うのだって資金源に関して聞かれるし、答えなければ調べられるだろう。

まあ、裏社会繋がりで資金洗浄マネロンを上手くやってくれる知り合いなんかも多そうだけど。


「なんかこう、今までずっと体調が悪かったのがハロウィンの週末を境に突然回復したと思ったらまた悪くなったんで怪しいと思って退魔協会に調査依頼を出したら、呪詛だって発覚したらしい。

白龍さまの呪詛返しを喰らった呪師に呪われていたけど、呪師が居なくなったって分かった途端に別の呪師に依頼がいったみたいね」

留守電に退魔協会の職員が話していた説明を思い出して告げる。


被害者はハロウィン騒ぎで呪師が大量に捕まったって事を知っていて、呪詛を依頼した人は被害者が呪詛から解放されたとすぐに知れる上に即座に代わりの呪師を見つけ出して依頼できる立場にあるって・・・ちょっとヤバそうな気もしないでも無い。


ハロウィンの時の呪詛返しは呪師本人とオークションの主催者にしか害意の因果が行かなかったから、呪詛を依頼した人間はピンピンしているんだよねぇ。

折角無事にすり抜けたんだから、もう諦めれば良かったのに。

露骨すぎるタイミングのせいで不調が呪詛だとバレちゃあ、例え退魔協会による呪詛返しが依頼人ではなく呪師に行ったとしても、被害者が依頼人を見つけ出して報復するんじゃ無いかと思うけどね〜。


「へぇぇ。

まあ、オークションなんぞに参加するだけの資金力と向上心がある呪師しか捕まらなかったんだから、現時点で自分が知っている術だけで十分だと思っていた年寄り連中とか、まだ若い新人タイプが残っているのかな?

意外と居なくならないもんだね」

碧が留守電の再生ボタンを押しながら言った。


「ゴキ程はひどく無いにしても、社会の闇に隠れて儲ける人間って言うのも根絶は難しいんだろうね」

まあ、良い人だけの社会なんぞ存在するのは無理なんだろうし、しょうがないよね。






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