第621話 奥が深すぎる

「なんかさぁ、小説とかでは『身体は子供、頭脳は大人』な転生者が実家の図書室に忍び込んで絵本を見て一人でこっそり文字を学ぶなんて言う設定のもあるけど、絶対無理だよね!!!」

魔法陣の紋様を、意味が感じ取れる部分部分で切り取って単語帳みたいな感じに書き出して何とかならないか試行錯誤してみたが・・・無理!!


「だねぇ。

なんかこう、同じような紋様パターンがあるから文字っぽい感じではあるとは思うんだけど、あちこちに似たようなパターンがあって、でも微妙に違っていて・・・収拾がつかない」

単語カードもどきな紋様の諸々を睨んでいた碧もため息を吐きながらカードを机の上に置いた。


前世で習った魔法陣の内容も、基本的にこう言うパターンはこう言う効果って言うような限定的な内容だったからなぁ。

あれって魔法陣を専門に研究している先生の下で学んでいたらもっと掘り下げた内容を教えてもらえたのかな?


魔道具に使う魔法陣が色々と数多くあった前世なのだ。

紋様に関する知識の蓄積も多かった筈。


とは言え、コンピューターは無かったので手作業による知識の蓄積と分析だから、解析は難しかっただろうが。


数学とかの天才だと、パターンも見ているだけで分析できちゃうって話を聞くけど、前世にもそう言う人はいたんだろうか?


まあ、前世だと魔力がある程度高くなければ魔法陣を作る事ができなかったし、魔術師としての才能がない子供は余裕のある家に生まれたのでない限り教育も簡単な読み書き程度しか受けられなかったから、数学の天才でも普通に農家や職人として働いていた可能性も高い。


天才ってコミュ障なタイプが多いみたいだし、下手をしたら人付き合いが上手く出来なくて排斥されてのたれ死んでいたかも?


つうか、義務教育が一般化する前の地球って数学や物理の天才とかはどうやって世に出たんだろ?

レオナルド・ダビンチとかアイザック・ニュートンとかって天才はそれなりに教育とか権力者の目に留まる職業にアクセスがある環境に生まれたから大成出来たんだろうけど、のたれ死んだ天才も多かったんだろうなぁ。

そう考えると、天才の遺伝子って子孫に伝わりにくそう。

比較的裕福な家に生まれて才能を活かせたとしても、天才って異性との付き合いが下手そうだし。


それはさておき。

「考えてみたら、表意文字と言ったって漢字だって一文字ではなく幾つかの文字を組み合わせた単語で使われる事が多いんだから、一文字ごとに紋様を切り離して理解しようと頑張るんではなく、単語単位で分析するんでもいいか。

魔法陣なんて限られたスペースに色々と定義しなきゃいけないんだから、この紋様って絶対に表意文字だと思って一文字ごとの意味を理解しようと頑張ったけど・・・無理だよね?」

文字単位の意味を解析しようと頑張ったが、考えてみたら漢字だって一つの文字で複数の意味を持つ事が多いのだ。

何も分からない状態から文字単位で意味を解析しようとしても無理がある。


「魔法陣の紋様がどう作られたのか不明だけどねぇ。

それこそ神様とか宇宙の理が創り出した奇跡の言語だったら全ての現象を一文字で表せる様なスーパー言語の可能性もあるけど、そうなったら文字の数が無限大になっちゃうからマスターするのは実質不可能だもんね。

単語パターンで解読を試みる方がまだ現実的だよね」

碧が頷いた。


マジで魔法陣の言語ってどう創られているのか不思議だけどねぇ。

適性があったら魔力を込めてやりたい事に集中すると徐々に脳裏に浮かぶなんて、不思議すぎる。


魔力を捧げる事で魔法陣の言語を管理している存在から知識を下賜されているのか、それともアカシックレコードっぽい何かから魔力を対価に情報をダウンロードしているのか。


そう言うことを知っている神様と問答をする魔法陣でも創れるなら創りたいが、それこそ何十年もかけて全魔力を注ぎ込んでも『あなたは誰ですか』みたいな簡単な質問を一つできる程度なレベルになりそうな気がするから、やってみるだけ無駄だろうなぁ。


白龍さまにも以前聞いたことがあるけど、幻獣レベルになると何もかも本能っぽく出来ちゃうらしくて、人間がやらなきゃいけない努力に関する理解はお手上げだそうだ。


そう考えると、前世の神殿に祀られていた神様とかだって知らなかったかも?

前世には神の愛し子が時々神殿にいたから、たっぷり寄付をすれば多少は融通を利かせてくれたらしいし神様との問答も大金をかければある程度は可能だった筈だが。


まあ、融通と言っても治療とか、ちょっとした魔法陣の提供程度で魔術の根底に関する知識はあまり得られないとも聞いた。

あれって神殿側が既存の権益を守る為に断っていたんだと思っていたが、もしかしたら神様も詳しい事はわかって無かったのかも?


前世の神様は全能では無かったからなぁ。

と言うか、今世の神様だって、本当にいるとしても全能じゃあ絶対に無いと思うが。


まあ、それはともかく。

単語単位で紋様を分析して、それらを繋ぎ合わせて何か新しい魔法陣を作れないか、試してみよう。







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