第610話 進捗
『見つかりましたよ』
折角魔力をふんだんに与えて見張りに当たらせたクルミだったが、目新しい情報が木島方面で入る前に田端氏から電話が入った。
「死体ですか?
それとも逮捕できる様な証拠?」
スピーカーにした電話に碧が尋ねる。
『まだ歯型記録の照合が返ってきていませんが、死体は見つかりました。
あと、津田さんが亡くなった時と、名畑さんが行方不明になった日の駅の防犯カメラに容疑者が写っているのも確認できました。それらを元に家宅捜査の捜査許可証を申請したので、明日か明後日には家宅捜査ができる筈だと思います』
田端氏が答える。
そっか、砂漠や凍土ならまだしも普通の山中に埋められたんじゃあ遺体はとっくのとうに白骨化してるし、身元がわかる様な物が一緒に埋められていたとしても腐って無くなっているよね。
としたらDNAとか歯型とかの記録と照合しないうちゃならないのか。
・・・運転免許証なんかはラミネートしてあるけどやっぱ腐るのかな?
いや、あれは流石にシュレッダーにでも掛けて出先でコンビニのゴミ箱にでも捨ててるか。
全国の行方不明の情報全部と総当たりするんじゃなくって、名畑さん一人の情報と確認するだけだから記録の照合もそんなに時間は掛からないと期待したい。
「ちなみに木島はまだ高齢者用施設で寝込んでいるんで家に行っても留守だと思いますが、そう言う時ってドアの鍵を壊して入るんですか?」
古い戸建てに一人住まいだから、同居家族にドアを開けてもらう訳にもいかないだろう。
『幸い、妹さんが近所に住んでいるようだから、彼女に同行を頼む予定です。
警察は本人もしくは代理人か隣人か自治体の人間かに立ち会ってもらう必要があるんで、勝手に家の扉をピッキングして開けて入る訳にはいかないんですよ』
田端氏が教えてくれた。
へぇぇ。
妹さんが家の合鍵を持っていなかったら鍵屋を呼びつけるのかな?
隣人でも代理人の代わりになるって言うのは意外だね〜。
今時、隣の人とそんなに仲良くしているとは限らないのに立会人にされたら立ち会う方も立ち会われた方も迷惑そう。
このマンションだって、私は隣人の名前は知らない。
一応エレベーターで会うから顔は漠然とは知ってるけど。
はっきり言って、犬の霊経由でクルミの方がお隣さんの事はよく知っていそうなんだよねぇ。
意外とクルミは社交的で、近所の犬や猫の霊とわちゃわちゃやって色々と情報収集しているみたいだから。
「台所の下に地下室があって、そこに名畑さんは2ヶ月近く幽閉されて虐待されたらしいです。
あと、降りて右側の方に鍵付きのガラス張りの食器棚があって、そこに津田さんの腕時計とか、名畑さんの髪の毛とか他の方々の物がトロフィー代わりにディスプレーされていると思いますからしっかり証拠として調べて確保して下さいね」
一応先日メールでもざっと送ったんだけど、詳しい詳細は口でも伝えた方が確実だろう。
木島は家族とも付き合いがあって甥や姪が遊びにくることがあるから、トロフィーは地下室に隠す事にしたらしいんだよね。
名畑さんが下に幽閉された頃は奥の壁際に鎖で繋がれていたって記憶にあったが・・・今はそこら辺がどうなっているのかは微妙に不明だ。
『・・・髪の毛ですか。
腕時計もあるとなると、言い逃れは難しいでしょうね』
ちょっと微妙な声音で田端氏が応じた。
証拠があっさり手に入りそうなのは嬉しいだろうが、津田さんの腕時計とか、名畑さんの髪の毛を集められた時の光景を思い浮かべると複雑な心情になるのだろう。
「ちなみに、トロフィーとかが見つかったら直ぐに木島を逮捕できます?
もうそろそろ眩暈が治って自力で歩き回れるようになると思うんで、中途半端に事情聴取なんてしたら警戒されて逃げられちゃうかも。
IT関連のフリーランスって事ですからそれなりに戸籍とか身分証明書を買える様なやばいサイトも知っている可能性がありますよね」
田端氏に一応の為に釘を刺しておく。
逮捕状を取るのがどの程度難しいのかは分からないし、最近の冤罪関連の報道のせいで警察が及び腰な可能性もあるが、慎重にやり過ぎて逃げられたら困る。
まあ、クルミが尾行している筈だから逃げられても比較的直ぐに再確保出来るとは思うけど・・・逮捕状が出ていない状況で雲隠れされたら警察に何が出来るのか、分かったものではない。
『髪の毛なんて物があるなら逮捕して拘束は出来るでしょう。
起訴にどの程度時間が掛かるかは不明だが、駅の防犯カメラに木島らしき人物と名畑さんが待ち合わせして喫茶店に入っている姿は写っているので、名畑さんの遺体と遺髪が見つかれば検察も起訴に渋らないと思う。
高齢者用施設の方の調査をどうするかは悩ましいところですが』
田端氏が言った。
そう言えば、こう言う場合って全部一気に起訴しないといけないのかね?
それともバラバラに起訴するのだろうか。
子供の頃からの悪事を全部調べたら虐めたり嫌がらせで学校の同級生や同僚を追い詰めて引きこもりにさせたり、下手をしたら自殺にまで追い込んでいる可能性もあるけど、そういうのって人間的には問題ありな行動だけど起訴は出来なそうだからなぁ。
取り敢えず、女性を二人殺していたら無期懲役になるよね??
高齢者だって、子供がうっかりボールで怪我をさせたり自転車でぶつかって寝たきりにしただけで何千万円もの賠償金を払う羽目になったりするのだ。
殺していたらそっちだって更に追加な無期懲役になっても良さそうなものだが・・・こちらはどの程度証明できるかは警察の腕にかかっているかな。
もしくはどの程度各施設が証拠になる情報をキープしていて協力するか。
今回行った所の所長さんはかなり誠実に調べて対応しているみたいだったけど、篠原さんがいた施設も同じかどうかは分からないからないからねぇ。
取り敢えず。
中々良い感じに進捗しているようで一安心だ。
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