第311話 タダより高いモノは無い?
「こう言う親族の集まりに呼ばれない・来ない一族の人間も不調を訴えるんですか?」
宴会スペースっぽい所でガヤガヤ飲み食いしている人達を一通り見終わったらしき碧が武田氏に尋ねる。
そうだよねぇ。
こう言う一族が集まるイベントに来る人間だけが若死にするんだったらそう言う時に何か盛られていると考えるべきだ。
とは言え、答えはなんとも微妙だった。
「さあ?
来ない人間は一族扱いされんから詳しいことは知らん。
死んでないから葬式が無いのか、呼ばれてないから聞かんのかは不明だな」
この爺さん、田舎を出て都会で成功したぜっぽい話だった割に、この『一族』を歪な形で重視しすぎじゃ無い??
集まらない親戚は死んでても気にしないって・・・。
『武田家の末裔である自分達は凄い』って言う価値観を共有する親戚以外は生死すら興味を感じないのかい。
確かに自己中な人って自分と自分の価値観に合致する人間以外はどうでも良いって考えがちだけどさぁ。
歳をとっている上に、自力で成り上がり(と言うか本人的には『再興』かね?)に成功した人間だから余計頑固になっているのかな。
だけど、『一族の呪い』とかなんか言って騒ぐ前に条件の精査をしっかりしておけよ。
「誰だったらそう言うことに詳しいですか?
あと、一族の人間だけに出す飲食物とか、一族だけが行く場所とかってあります?」
穢れが内臓の一部に集中しているなら、飲食物として摂取した可能性が高いだろう。
単にそこら辺の場所から吸収しているだけだったら使用人とかももっと穢れを溜め込んでいる筈だし。
「毒物検査だったらここで出される物も、他の家で出されるものも何度も繰り返しやっているが怪しい毒素は何も検出された事がないし、死んだ際に何人か検死解剖をやって貰っているが毒物は見つからなかったぞ」
武田氏が私の質問の後の部分だけに答えた。
まあ、興味が無いから知らないんだろうな。
何も見つからなかったら後で執事にでも聞いてみるか?
主人の活動範囲に『入ってこない』人間の情報が執事の職務範囲に含まれるか、微妙な気もするが。
「いや、呪いなら毒物検査しても見つかりませんよ」
だからウチらを呼んだんだろうに。
「・・・そうだったな!
こう言う一族の集まりの際に頼む食事は地元のケータリング会社に協力してもらっている筈だが、特に決まった食材とかがある訳ではない。
酒も飲まぬ人間がいるし、特に一族の人間だけが集まる場所も無いと思うが・・・」
武田氏が首を傾げながら言った。
う〜ん、ケータリング会社に恨まれているって言うのも考えにくい。
つうか、時折集まる時に食べた物だけで不調をきたす様な量の穢れだったらここからでも視えると思うんだけど、特にそんな感じでも無いんだよねぇ。
「・・・茶葉はどこから仕入れてます?」
思いつくことを片っ端から聞いていたら、じっと部屋を見回していた碧が突然口を挟んだ。
「これは武田家ゆかりの盆地で採れる茶葉だ。
こう言う場で出される他に、土産として配られる分しか無いから流通もしとらん特別な物だが、今回来て貰った礼に少し分けよう」
おい。
そう言うのが無いか、さっきから聞いていたんじゃん!!
あと、一族若死の原因かも知れない怪しい茶葉なんて欲しくないよ。
お茶を魔力視で確認してみたところ、確かにもやっと穢れが視える・・・かな?
かなり微量だけどこれを毎日飲んでいたら穢れが溜まるのかもね。
「取り敢えず、茶畑を見に行きましょうか」
碧が提案する。
確かに、茶畑に問題があるのか、茶葉の加工プロセスに問題があるのかで対処法も変わるだろう。
呪いじゃないと言う時点で何処までがウチらの仕事なのか微妙な気はするが、それなりに報酬は貰っているから茶畑の穢れを祓うぐらいはしても良い。
通常だと穢れの祓いは呪詛返しより安いものの別契約なのだが、今回は『一族の呪いに関する対応』って感じの契約だから医療行為はしないが穢れの祓いぐらいなら契約範囲内だろう。
穢れを祓ったところで既に生じている不調は治らないだろうが。
「あの人たちを放置して出かけてもいいんですか?」
宴会場の人たちを放置して早速茶畑へ!と車を出した武田氏に碧がちょっと呆れたように尋ねる。
「もとより、退魔協会から人を呼んだとは言っていない。
先祖の適当な者の何百年周忌と言う口実で集っているだけなんだ、儂がおらんでも構わんよ」
あっさりとした返事が帰ってきた。
「しかし・・・歳をとってコーヒーより茶が飲みやすくなったから、折角だしということで故郷の茶を飲むようになったから体調を崩したとはな。
なんとも皮肉な話だ」
溜め息を吐きながら武田氏が言った。
ふうん。
歳をとってから飲み始めたって事は、意外とこの茶由来の穢れって不調が出るのが早いんだね。
ある程度以上歳をとった日本人で全くお茶を飲まない人ってそれ程いない気がする。だから死亡者が中年程度以上の年齢に集中しているのかな?
『一族に』って言う特別感もだけど、何よりタダでお土産として渡されるって言うのが一族の皆が飲んでる理由なんだろうねぇ。
それなりに旧家が拘って作っているなら美味しいんだろうし。
多分。
「「うわぁ・・・」」
茶畑に来て、思わず私と碧の口から声が漏れた。
凄い。
ちょっとした盆地で開けている筈なのに、森の中と同じような薄暗い印象だ。
これって絶対昔の戦場とか、一族皆殺しになった誰かの屋敷跡とかなんじゃない?!
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