第140話 怪しい人間の住処?

「う〜ん、取り敢えずこっちの方向にそこそこの距離かな?」

紙人形を受け取り、魔力の残滓が汚染されていない事を確認した私は取り敢えず退魔協会の近くにあった静かな公園のベンチに座って呪詛のリンク元を探してみた。

しっかりと探すには夜の静かな環境が望ましいが、少なくとも大体の方向ぐらいは日中でもある程度はわかる。


退魔協会近辺からの方向と、ウチらのマンションからの方向が分かれば三角測量っぽい感じに最終目的地を割り出せる・・・かも知れないと碧に言われたのだ。


前世では馬でひたすら追いかけたのだが、今世は車だ。

方向だけでなく最終目的地が判明しているとどの国道を使うのが効率的かが分かるので、可能ならやっておいてくれとの事だった。


大量に魔力を使うせいで呪詛の痕跡を上書きしてしまう転移用魔方陣ではなく、魔力に干渉しない電車や自動車でそれなりの距離を移動できる今世だからこその手法だね。

まあ、呪師が仕事に出ていたら日中と夜とで居場所が違っちゃうだろうけど。


これに関しては帰宅したらすぐに方向を確認して場所を推定しておき、夜になって家を出る前にもう一度方向を確認して移動していない事を祈るしか出来る事は無い。


取り敢えず、電車で帰宅後に方向を確かめて地図を広げる。

前世だったらコンパスとかなり大雑把な地図を使う羽目になっていたが(実際には護衛兼監視係の騎士が付いてきてたのでそちらに任せていたけど)、今では無料のマップアプリを起動してチョイチョイとタップして印をつけ、スクリーンショットを取れば良いだけなので本当に便利な世の中だ。


前世の魔道具には今世の機械技術で真似できていない便利な物もあったが、少なくともマップアプリに関しては今世が圧倒的に便利だ。


とは言え。

運転しない私には効率的なルートの割り出し方がイマイチ分からないので、タブレットで広範囲な地図を出して退魔協会からの方角の線とウチらのマンションからの線を引いて大雑把な推定目的地を割り出した後は放置だけどね。


「ただいま〜!」

線をタップしていたら碧が帰ってきた。


「お帰り。

大体の場所はわかったよ〜。

大雑把だからそれなりに誤差はある可能性は高いけど」


鞄を置いて源之助を抱き上げた碧にタブレットを見せる。

源之助って私が抱き上げても直ぐに降りようとするのに、碧だとかなりの時間大人しく抱かれるんだよねぇ。


やはり一緒に住んで居ても『ママ』は碧と言う事なのだろう。


「ふうん?

・・・腕の良い呪師だと一件ごとの報酬が大きくて、日中もあまり仕事に出てないのかな?」

地図を覗き込んだ碧が言った。


「なんで?」

腕が良く、しかも退魔協会で問題視されるぐらいの頻度で依頼を熟している呪師は確かにそれなりに儲けてはいるだろうが。


「だってここ、高級住宅地だよ?

金持ちな依頼主が家に呼びつけた可能性もあるけど、普通だったら人を陥れられるぐらい危険な呪師を自分の家に招かないでしょう?

私だったらどっか個室のあるレストランか、ホテルの部屋でも使うわ。

後ろめたい事をやろうとする富裕層の人間だったら余計にそうなんじゃない?

だとしたらこんな高級住宅地のど真ん中に居る理由なんて、『自宅だから』の可能性が高いでしょ?」

碧が地図の地名を指差しながら指摘した。


なるほど。

最寄り駅から少し距離があるので、『近く電車が通る予定』と謳って売り出した新興住宅地かと思っていたが・・・運転手がいる様な高級宅地も駅から離れている可能性が高いのか。


夜になってもここに居たら間違いなく自宅だろうね。

ラノベなんかだと呪師なんて怪しげなボロ小屋とか廃屋とか古い屋敷の地下室にでもいる様なイメージなのだが、考えてみたら違法な依頼をしっかりこなす職人はかなりの高所得者になるのか。


ちょっと違和感ありまくりだが。

これだったら最新の防犯設備とかもあったり??

忍び込んでちゃんと捕縛出来るのか、ちょっと心配になってきたぞ。










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