第115話 無難に纏めよう

「ただいま〜」


香織さんの妹の起床時間が分からなかったので始発で水島家に出向き、そっと庭に忍び込んで生垣の影から沙羅さんの夢へ香織さんを中継したのだが・・・思っていた以上に長く二人っで話し合っていた為、帰ってきたらもう9時近かった。


「お帰り〜。

上手くいった?」

珍しくこの時間に起きていた碧が台所でパンにジャムを塗りながら声を掛けてきた。


「うん。

ちゃんと必要事項は伝えたみたいだし、終わった後に妹さんはちゃんとメモを取っていたから大丈夫じゃないかな」

クルミにこっそり中へ忍び込んで沙羅さんが書いたメモを中継して貰ったところ、ちゃんと遺書や書類の場所とかパスワードを間違えずに書いていたので問題は無いだろう。


「妹さん?

親じゃ無かったんだ?」

碧がちょっと意外そうに目を丸くした。


「お互いのペットの世話に関する相互協定みたいのがあったみたいだから、それでかも?」

夢を繋いだ関係で聞こえてきたが、さっさと介護施設に入れろと言っていたし、親とは微妙に距離がある関係だったのかと思い特に突っ込まなかった。


田端さん経由の話では親もそれなりに頑張って香織さんの事を探していたらしいけど。


まあ、仲のいい家族だって一人で介護は大変過ぎる。二人でやる筈だったのが脱落しちゃったから妹さんが『姉さんの分まで私が!』と頑張りすぎて無理をしないよう、前もって忠告しておこうと思ったのかも?

妹さんだって自分の家族を持つだろうし。


「香織さんは?」

オレンジジュースに手を伸ばしながら碧が聞いてきた。


「妹さんとの話が終わったら満足したのか、『ありがと〜』と言ってあっさり成仏しちゃった。

親と話す?って聞く暇もなし」


「おっとりした感じだったけど、意外と思い切りが良い人だったのかな?」


「かもねぇ。

こっちは何か連絡でもあったの?」

普段だったら9時ぐらいに起きてくる碧が既に朝食を食べているのだ。

もしかして電話でも掛かってきたのかな?


「退魔協会から電話。

一応今回の事件について報告書を纏めて出してくれだってさ。

田端さんに連続殺人魔の素養ありだと主張した理由も知りたいんだって」

タブレットのメールを見せながら碧が教えてくれた。

協会って基本的にメールと電話を併用するんだよねぇ。

確かに確実だけど、ちょっと人件費の無駄じゃない?

メールだけにしてその分手数料を減らしてくれればいいのに。


・・・旧家の頭の固そうなおっちゃんとかがメールだけじゃあ納得しないのかな?


「なんで今更??」

田端氏に黒田が連続殺人魔だと我々が主張した時、警察としてそれ以上の報告が必要そうな事は言っていなかったのに。


「協会にとっての連続殺人の兆しマーカーは複数の殺された人間の霊なんだってさ。

協会側の調査員が調べても連続殺人魔を疑わせる証拠は無かったのに、大丈夫なのかって心配しているみたい?」

碧が肩を竦めながら言った。


「警察や検察側は自分達で調べた証拠に納得したから過失致死じゃなくて殺人で起訴する判断を下したんでしょ?

退魔協会が心配する謂れは無いと思うけどねぇ。

まあ、ちょっとダークサイドに染まり掛けてる大量の動物霊に存在が兆しマーカーだと言っておけばいいんじゃない?

今回みたいに死骸処理のせいで大量にGが発生するなんて言うのは例外的なんだろうし。

・・・多分」

でも、考えてみたら猫の死骸とかって他の連続殺人魔はどう処分しているんだろ?

一々夜中に川辺や公園で埋めていたらそのうちバレていたと思うけど。


それとも冷凍しておいて溜まったら車で山にでもドライブに行って捨ててくるのかね?

・・・と言うか、海外犯罪ドラマなんかで警官が『殺された猫の死骸は連続殺人魔の予兆』って言っていたって事は意外とそのまま普通に適当にそこら辺に捨てる連続殺人魔予備軍も多いんかね?


連続殺人魔予備軍がそこら辺にちょこちょこ居るとは思いたく無いが。


「そうだね。

下手に怪しい人間のオーラや穢れを確認したなんて言ったら余計なボランティアもどきな仕事が増えそうだ」

碧が顔を顰めた。


「そう言えば、碧には黒田のオーラってどんな風に見えたの?」

魔術師の適性によって、人をざっと観察した際に視える魂やオーラは違ってくる。

私は黒魔術の適性があるのでオーラはかなり集中しなければ視えず、魂の方がはっきり視える。

碧は白魔術師なので生命力的なオーラの方がよく視えると思うのだが。


生命力的系のオーラだと殺人をしまくっていてもあまり異常は現れないんじゃないかね?


「大分と血に染まった感じにオーラが穢れてたよ?

凛にはどう見えたの?」


「へぇぇ。

動物でも大量に殺すとオーラが穢れるんだ?

私は魂がこう、赤暗い感じに視えたな。

あれは素養も関係するから、連続殺人魔の歩みを始めているかどうかは周囲の動物霊で確認したけど」


碧が少し首を傾げた。

「考えてみたら、牛とか豚の屠殺をしている人のオーラがどうなるのか、知らないなぁ。

確実な事は言えないから問題ありそうな大量の動物霊の存在が怪しかったと言っておこう」


ふむ。

「そうだね。

オーラは特に注意を払って視てこなかったものの、少なくとも前世で視た限りでは『食肉用の屠殺関連の仕事をしていたら魂が血に染まる』って訳では無かったから、穢れてたら疑って良いんじゃないかとも思うけど。

ただ、今世では屠殺職人に会ったことが無いから余計な事は書かない方が良いよね」

もっとも、魔術師だった前世では屠殺職人は基本的に被差別階級だったので、魂が歪んでいるケースは多かったが。


まあ、それはさておき。

それでは適当に無難なレポートをでっち上げますか。








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