第90話 特殊装備は?
「そう言えばさ、退魔師用の特殊効果のついた装備とかって無いの?」
退魔協会の売店では見かけなかったが、装備なんて基本的にオーダーメイドなので売店になくても不思議はない。
2000年の日本の歴史の中で、霊的防御力や攻撃力のある装備が開発されていないのかね?
日本の職人は凝り性だし、明治維新前は霊的な存在が認められていたんだから研究した人も居ても良さげだけど。
前世では属性攻撃への防御力や特効を重視した装備はそれなりにあった。
基本的に魔物の耐性や特性を活かした物だったので、こちらの世界で複製出来そうな物は無かったが。
悪霊しかいないこの世界ではどんな装備が発達したのだろうか?
「あ〜。
聖域の側で育てた綿や蚕の絹から作った服とかだと多少は霊力を高めてくれて防御力もあるけど、死ぬほど高いから仕事着に使えるような値段じゃあないんだよね。
昔は天皇陛下の衣装に使っていた事もあるらしいけど、平安時代の後半ぐらいから資金力が足りなくて、先祖が作ったのを擦り切れるまで使っていたって話らしい」
碧が肩を竦めながら答えた。
おおう。
そっかぁ。
天皇家に国家予算が戻った明治維新以降は霊的存在がほぼ無視されたから、そっち系に予算は回されなかったんだろうなぁ。
「符に使う和紙を作る素材を繊維にして布に織り込んのは駄目なの?
碧の実家の方の地場産業なんでしょ?
良い収入源にならない?」
悪霊に特効のある白魔術を使う碧本人は防具なんて必要ないだろうが、他の一族とか子孫とかにはあっても悪くないだろうに。
「う〜ん。
費用対効果を考えると、服にしてしょぼい防御力を追加するよりも符にしちゃった方が効率的だからなぁ。
本当にガッツリ効果があるように作ろうと思ったらバカ高くなるし」
レンタカーの受付の方へ向かいながら碧が答えた。
大学での授業を終え、一度家に帰って源之助と遊んだ後に新幹線で日本海側に出てきた私たちはレンタカーで退魔協会が手配した宿へ行くところだ。
迎えを寄越すとも言われたのだが、碧が『責任範囲の除霊が終わったら即座に帰れるようにしたい』と主張して自分用の足を確保する事を優先した。
まあ、白魔術師の碧と黒魔術師の私が作業するのだ。
普通の元素系の退魔師よりも効率よく仕事が終わるのはほぼ確実だから、さっさ作業が終わらせて終了確認をしてもらって退散するのが正解だろう。
「そっかぁ。
確かに符にして防御用結界でも作った方が無駄が無さそうだね」
白魔術と相性の良い聖水モドキが湧く泉の様なものが前世ではあったので、その近辺で育てた蚕や綿花から服を作ると白魔術師の能力アップ効果があったのだが・・・魔素が薄いこちらの世界でそれは無理だろう。
歴史の蓄積の中で何か特別な技術でも発見されたかと密かに期待していたのだが、無いようだ。
ちょっとがっかり。
まあ、医療業界の圧力に負けて回復術が規制されてしまう程度にしか霊力が活用されてこなかった世界なのだ。
霊的な効果のある装備とかを開発する資金力も需要もなかったんだろうね。
小さめながらも中々格好の良い車に案内され、碧が運転席に乗り込む。
「一応今晩の宿も温泉があるらしいから、チェックインしたら大浴場に行こうか」
碧がウキウキしながら提案した。
「そうだね。
そう言えば、現場は宿の近くなの?
今から行ってちゃちゃっと除霊しちゃってからお風呂と食事を楽しんで明日の朝1に確認してもらって帰るのって駄目なの?」
夜の方が霊が出張っているので除霊しやすいだろう。
まあ、ヘタをするとどんどんこっちに寄ってくるかも知れないから、我々の責任範囲に結界を張って霊の出入りを制限する必要があるが。
「本当にねぇ。
そうしたいって言ったんだけど、大規模案件を夜から始めるなんて危険すぎて話にならんって全く聞く耳持たず。まあ、本音は『低ランクな癖に自分達が怖くてやりたくない事を提案するなんて生意気な』って感じかな。
正式に責任範囲を通知して貰えない場合、下手に除霊しても退魔協会のお偉いさんがやった事にされちゃうから行くだけ無駄なんだよねぇ」
溜め息を吐きながら碧がエンジンをかけて車を駐車場から出す。
なるほど。
自分達が危険な案件へ夜に着手したく無いから、やろうとする生意気な若手には嫌がらせで手柄を横取りして二度とそんな提案をしないようにするのか。
大人数でやる大型案件の問題点だね。
「そっかぁ。
残念。
そう言えばさ、聞こうと思っていたんだけど発電所とか人が集まるターミナル駅とか、病院とか、イベント会場とかって霊的な惨事が起きないようにするような結界は張ってないの?
何も対策を取っていないと死や苦しみを糧にする術とか悪霊でとんでもない事が起きない?」
それこそ被害者を燃料にしたテロ攻撃が出来てしまうと思うが。
でも、東京駅に特になにか結界が張ってある感じは無かった。
平和ボケなの?
それとも私が感知できないぐらい地中深くに埋め込まれているのか。
「基本的に公共性が高い施設は設計の段階でヤバい魔法陣とかを組み込めないように退魔協会の方で確認する部署があるんだ。
流石に原子力発電とか感染症研究所みたいな危険な所は更に悪霊避けの結界も設置しているって聞くけど。
病院とかは・・・変な霊が集まりやすいからそう言うのを阻害する結界を組み込んでおくか、定期的に退魔協会に除霊を頼むかなんだけど・・・除霊を頼むタイプは閉業する前に資金繰りが苦しくなって除霊に手を抜くと今回のところみたいな『知る人ぞ知るホットスポット』になっちゃう訳」
横断歩道の信号が点滅し始めたのを見て車のスピードを落としながら碧が答えた。
なるほど。
つまり公共施設の殆どは、狂人が何かやろうと思ったら色々と出来ちゃうんだ。
怖いねぇ。
短期的なタイプはどうしようもないが、長期的に時間をかけて魔力を集めていくようなタイプだったら阻止できるよう、これからは人が集まる様な場所に行ったらしっかり霊視で確認しておこう。
うっかり巻き込まれるのはごめんだ。
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