第70話 子分は要らない

昨日ペットショップで買った、動かすとシャカシャカと中に入ったまたたびの実が音をたて、噛めば歯磨きになるとか言うオモチャを振り回して碧が子猫達と遊び始める。


動くオモチャにはどの猫も注目するのだが、オモチャが比較的短いので自分から碧に寄っていかないとオモチャに飛び付けない。


ここでまず、人見知りする猫としない猫が分かれた。

飛びつく猫でも、トロいのは空振りが多く運動神経が良いっぽいのはシャカ!と見事にオモチャを一発で小さな前足で捕らえたり、噛み付いたりしている。


「同じぐらいの月齢の子猫でも、大分と運動神経に差があるんですねぇ」

空振っている子猫に笑い掛けて目の前で小さくオモチャを振ってみせる碧を見ながらブリーダーさんに話し掛ける。


「そうなんですよ。

どの子も遊ぶのは大好きですが、上手い下手はありますね〜」

にこやかにブリーダーさんが答える。


「ちなみに、我が儘な子とか自分勝手な子っているんですか?」

私の知っている猫は基本的に全て死霊か、従魔だったので普通の子猫とは違う。


基本的に猫って上から目線だけど、猫を数多く育てた人から見るとどうなのだろうか?


「猫にとって我々は言う事を聞く奴隷ですからねぇ。

自分の要求を通す事が我が儘だとすら感じていないと思いますよ。

頑固な子と、言う事を聞いてもらえないとすぐに気を変えて別の事を求める子と言った違いはありますが」

笑いながらブリーダーさんが答える。


成る程。

猫が自己中である事はどれも同じで、違いは頑固か否かなのか。

そこら辺が群れる生き物である犬との違いなんだろうな。


従魔契約を結べば猫であろうとこちらの希望を理解させ、従わせる事も可能だが。


とは言え、碧は

『私が欲しいのは妹分か弟分のニャンコなの。子分が欲しかったら犬を躾けるよ』との事。


なので今回も、性格を感じ取る為に従魔契約の準備段階までのリンクを一時的に繋げるのはOKだが、従魔契約そのものは絶対に結ばないでくれと念を押されている。


流石に八匹全部に従魔契約の準備をするのは厳しいので、碧が選んだ子だけにやる事になっているが・・・この調子だと、別に私のインプットなんて必要無さそう。


「ちなみに食いしん坊とフードを選り好みする子とかの違いは?」

ブリーダーから子猫を買った近所の知り合いは、子猫がブリーダーに言われた餌を食べてくれないと言ってありとあらゆる子猫用キャットフードを買い集めていた。

しかも最低でも400g単位でしか買えないのに、気に入って貰えなかったら全部ゴミ。

やっと食べてくれるのがあったと2キロの袋を買ったのに、飽きたのか一週間で食べなくなったりと中々大変そうだった。


子猫用のキャットフードなので他の猫持ちにも譲れず、開封してあるので保護猫のボランティア団体とかも引き取ってくれず、捨てるのもなんだし・・・と押し入れに大量にキープしていたが、子猫が成猫になった時点で諦めて捨てていた。


40リットルゴミ袋がほぼ一杯になっていた。

一体幾ら掛けた事やら。

同じ事をされるぐらいだったら従魔契約を短期的に結んで『選り好みせずに出された餌を食べなさい!』と命じたいところだが、多分碧は嫌がるんだろうなぁ。


となったら、選り好みしない食いしん坊の方が良いかも。


「あ〜、それはありますね。

ウチでは生まれた頃から慣らしていっているのでそれ程問題はないんですが、引き取られた先でフードを食べてくれ無いという相談はちょくちょく来ます」

ブリーダーさんが頷く。


ここでは選り好みするかどうかイマイチ分からないのか。

『クルミって生きてる猫に話を出来るよね?

餌を選り好みしない様に言い聞かせられる?』


『子猫は言い聞かせても直ぐ忘れるからにゃあ。

何が気に入らないかを聞き出すのは出来るかもだけど、成猫になるまではあまり期待はしないで欲しいにゃ』

クルミからの返事も微妙だった。


「じゃあ、出来るだけ食いしん坊な仔を選ぶ方が苦労しないかもですね〜」

食べたがらない子猫に気に入らない餌を食わせるのは大変そうだ。


「食べてくれないと言う悩みは無いかもですけど、必要摂取カロリー量以上に食べたがってもあげすぎない様に気をつけて下さいね。

肥満は猫にとって人間よりも更に危険なので」

ブリーダーさんが真面目な顔で言ってきた。


「猫も糖尿病になったりするんでしたっけ?」

まあ、碧が血管の詰まりも糖尿病もその他の病気も大抵は治せるとは思うが。


「糖尿病や腎臓系の疾患もですが、肝リピドーシスが怖いんです。普通の猫だったら水さえあれば一週間程度餌にありつけなくても死なないんですが、肥満な猫が何かの事故や手違いで4、5日絶食することになった時に一気に黄疸が出て死んでしまう事があるんですよ。

だから猫の体重管理は本当に大切なんです」

ブリーダーさんが真剣な顔で言い募ってきた。


マジか。

死んじゃうの??

私だったら同じ魂がそばに居てくれるんなら魂が苦しい死の過程で歪んだりしていない限り使い魔化すればそれ程問題は無いのだが・・・碧はそうもいかなそうだよなぁ。


ふむ。

餌選びで苦労しない様、食いしん坊を選ぶ方向に誘導しない方が良いかも?


と言うか、どんな選択肢も利点と欠点があるみたいだから、口を出さないのが正解かな?

情報を聞かれたら提供するという姿勢に徹しよう。













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