第62話 タラシ

水城氏の義父は若い頃にはモテたんだろうなぁと思えるような、中々整った顔の中年男性だった。

ちょっと陰があるっぽいところがますます女を垂らすのに有効そう。


封じられた筈の水子霊や弄ばれた女の霊が活性化するようなロクデナシであると聞いていなかったら、ロマンスグレーとかイケおじと思ったかも知れない。


言い方は悪いが、田舎の温泉町にこんな男性がいたら近隣の女はタラシ放題かも。

もう50代ぐらいだろうに中年太りも薄毛の傾向も見えないなんて、努力をしているのか、遺伝子的にめっちゃ運が良いのか。


ある意味羨ましい。


「ちょっと体調が悪いせいで立ち上がって挨拶が出来なくてすまない。

水城 穣だ。

今回は急な依頼だったのに、来てくれてありがとう」

安楽椅子に体を預けたまま水城シニアが軽く頭を下げる。


見た目にはそれ程腫れ上がっているように見えないが、霊視すると足の骨が赤くなっている。それなりに痛そうだ。

悪霊が徐々に骨を溶かしているっぽい?

ちょっと変わったタイプの霊障だ。

でも目に見えにくいけどがっつり痛いと言うのは、この見た目だけは良い男性にピッタリなのかも。

とばっちりで霊障被害を受けてる娘さんには同情するけど。


「いえいえ、仕事ですので。

実は急ぎだったせいか今回は退魔協会から調査報告書の写しを受け取れなかったのですが、調査結果について教えて貰えますか?」

碧が淡々と応じる。


まあ、イケおじ度で言ったら碧パパの方が上だもんねぇ。

仄かに腹黒い誠実さ(?)が滲み出ている上に、碧ママご自慢の上腕筋もあるし。


「いや、退魔協会に知り合いがいてね。

今回は緊急と言う事で例外的に事前調査無しで依頼を受けて貰えたんだ」

水城シニアが答える。


え、マジで?!


事前調査(と調査料)は絶対に不可避な手続きの一環だとオリエンテーション研修では聞いたけど??

悪霊の正確なランク評価は、派遣される退魔師の選択と依頼の安全な完了にも関わるんだし。


水城氏は退魔協会と50年間連絡を取って居なかったっぽい言い方をしていたが、もしかして水城シニアはもっとマメに連絡を取って現状を知らせていたの?


霊障が突如悪化した際の混乱で情報共有がちゃんと出来て無かったのかね。


「結婚した頃から霊障と思われる事象が時々起きるようになってね。

50年前の依頼料で我が家の貯蓄が尽きてしまっていたので、正規な依頼以外の方法で何とかならないか色々と相談乗ってくれた方がいるんだ。

今回は状況が一気に悪化したので特別に依頼を緊急で通して貰えて、本当に幸運だった」

シニアの言葉を聞いて、思わず碧と顔を見合わせた。

おい。

もしかして、私らの依頼は正規の依頼じゃ無いの???


退魔協会の人からの連絡だったから碧はいつも通りの依頼だと思い、愚痴を言いつつも受けたのだが。

情報が足りないのも時折ある嫌がらせだと思って特に追求しなかったし。


・・・ちゃんと協会から報酬を払って貰えるんだろうねぇ。

その水城シニアの誑した相手が自腹で報酬を払うなんて事になると、報酬の扱いが税務上面倒になりかねないんだけど。


後でしっかり確認しよう。


しっかし結婚後に霊障が増えたって。結婚前に手を出した女とちゃんと誠意を持って関係を切らなかったな、こいつ。

しかもずっと問題が続いたと云うことは浮気や女遊びを止めなかったって事でしょ?

何をやっているんだか。


「先日いらした退魔関係の方が何かをしてから急速に状況が悪化したと聞いていますが、どこで何をしたのか、教えて貰えますか?」

気を取り直して水城シニアに尋ねる。


「詳しいことは私も聞いていないが、裏山にある鎮魂の石碑のところで儀式をすると言っていた」

困った・・・と言いたげに眉をハの字型にしながら水城シニアが答える。


「その方はどう言った方なのでしょう?」

問題を悪化させたらしき退魔師が能力的にどの程度の事が出来るのか分かれば、何をしでかしたのかも判断しやすい。

かも知れない。


「さあ?

知り合いから紹介されたのだが、それなりに能力があると言われて裏山へ案内しただけなので・・・」

本当かね。


「その『知り合い』の方にはどの様な人材を求めていると伝えていたんですか?」

ちょっとイラっとしながら更に尋ねる。


自分に霊障が出てるんだ。

ちゃんと情報を寄越せ!


こいつマジで、協力する気あるの??


「どうも先祖から引き継いでしまった呪いが活性化しつつある様から何とかしたい、と相談したら紹介されたので、退魔師だと思っていたのだが・・・状況が悪化したことを鑑みると違ったのでしょうね」

まるで人ごとの様に応じてきた。


なんなの、この人。

『ちょっとプライベートな事も聞きたいので、外して頂けますか?』

水城氏に力を乗せた声で話しかける。


あまり褒められた行為では無いが、『ちょっとしたお願い』ならこれで聞いてくれる人は多い。

ガチガチの強制力がある訳ではなく、『なんとはなしに説得力がある』程度なので、辻褄が合うリクエストなら従ってくれるのだ。


「分かりました。

ちょっと妻の様子を見てきますね」

あっさり水城氏が出て行った。


碧が目を丸くしているが、それを無視して水城シニアの方へ向く。


『我々に霊障を祓って貰いたいなら、今回の事象に関係する事を全て話して下さい』

さっきより多く魔力を込めて話しかける。

これに抵抗するなら、帰ってもいい。


どうせ変則的な案件らしいのだ。

それを指摘して、水城氏の奥さんだけ治して帰っても退魔協会から制裁はない可能性が高い。

報酬も無いだろうけど。


これ以上変な事に付き合ってられっか。

最低限でも、情報を寄越しやがれ!
















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