第36話 合宿だ〜!:到着

「あれが諏訪湖で〜す!」


「「「おおお〜!」」」


人数が十二人とそれなりになった為、碧のお父さんによる車でのお迎えは遠慮し、駅からバスに乗ったサークルメンバー一行だったが・・・流石歴史のある神社。


大通りから一本入った所とのことだが、大通りから最短距離らしき場所にちゃんとバス停があった。


一本裏に入った突き当たりに大きな湖と、対岸側の山が見える。

左手には参道と立派な鳥居があり、素晴らしい風景だった。


鳥居の向こうの森の方を霊視すると仄かに光っている感じがするので、あちらに白龍さまの聖域があるのかも知れない。


後で一人で、もしくは碧と一緒に散歩に行けそうだったら行ってみたい。


ついでに碧のご両親にも挨拶しないと。

彼氏の紹介じゃあないが、ビジネスパートナーの紹介だって重要だろう。

幸い収納用の符の作成にはなんとか成功したので、収納用の符の作成方法を教えて貰う為に借金をする羽目にはならなかったが、大学卒業後に店舗や事務所を借りる事になったら保証人になってもらう必要があるかも知れないし。


ある意味、二人とも女でよかったよ。

男女の組み合わせで『ご両親へ挨拶』になんて言ったら変な誤解をされていたかも。


「で。ここが実家で〜す」

碧が社務所の裏にある和風建築の家に皆を誘導し、ガラガラと大きな引き戸の入り口を開けて振り返り、皆に声を掛けた。

あれ?

鍵は掛かってないの?


田舎だから?

それとも神社だから?

まあ、ここなら白龍さまが邪心のある人間を締め出す結界ぐらい張っていそうだから鍵がなくても安心な可能性は高いか。


だがそれでも、近所の氏子の人がずかずかと入って来れるかもと思うと自分なら嫌だ。

そう言う環境で育っていればそれに慣れていて平気なのかもだけど・・・弟さんは嫁を見つけるのに苦労しそう。


「ようこそ!

碧の母親の藤山 京子です。

何も無い所ですが、どうぞゆっくり楽しんでいって下さいね」

奥から40代前半ぐらいに見える女性が出てきて、朗らかに声を掛けてくれた。


ショートヘアにジーパンと言う神社の奥様の想像図からはちょっと外れた姿だが、碧の母親だと思うとある意味納得な雰囲気だ。

彼女も悪霊祓いとかするんかね?

特殊な家系の結婚って、同じ業界の人間の間での方が理解があってスムーズだろうと思うのだが・・・どうなんだろう?


数少ない(と思われる)正真正銘の氏神さまである白龍さまを祀る神社の跡取りが霊力無しで生まれちゃったら大問題だろうから、藤山家は霊力のある女性と優先的にお見合いをしてるんだろうなぁ。


でも考えてみたら、今時はお見合い結婚なんて抵抗感が強いだろう。そうなると碧の弟君は奥様をどうやって見つけるんかな?

業界内での合コンでもあるとか?

悪霊が存在・発生し続けている現状を考えたら退魔師が減りすぎると国にとっても問題だ。霊力持ちのメンバー間での合コンは少なくとも退魔協会あたりは熱心に開催してそう。


・・・だとすると、ちょっと面倒くさそうかも?

碧の弟君には『頑張れ〜』と気楽に応援するが、自分も合コンに出席しろってプレッシャーを掛けられたらめっちゃ嫌だな。


そんな事を考えながら、皆で碧のお母さんに挨拶し、中へ案内された。

社務所から廊下で繋がった部分の横に集会所みたいに使われているっぽい畳の大部屋があった。

部屋の奥には押し入れがあり、寝具が仕舞われているのが見える。


合宿に貸すと言っていたから本殿や拝殿の一部でも使わせるのかと思っていたが、考えてみたら本殿って神様のいる場所の筈。

普通の神社だったら適当な像とか石とか鏡とかなのだろうが、下手をしたらここなら白龍さまの気分次第では氏神さまが自身が休んでいる可能性もあるのだ。

そんなところにガキンチョの集団を泊らせられる訳がないか。


そう考えると、宮司一家のプライバシーが損なわれるとしてもこっちの家の方を提供するしか選択肢は無いのだろう。


う〜ん、ますます神社の跡取りなんて面倒そうだ。


荷物を置き、家人に挨拶をした後は翌朝までフリータイム。

美味しい近所の食事処のグルメマップが提供され、適当にバラけて食べに行く事になっている。

お風呂に関しては近所の温泉旅館の温泉を格安で使わせてもらえる割引チケットが配られた。

ローカルサポートが半端ない。


合宿最終日にはデリバリーで色々料理や飲み物を用意して、合宿らしく宴会もどきな感じに騒いでも良いと言われている。

個人宅なので12人分の食事の準備は厳しいから食べるのは各自自己責任となっているので、藤山家への負担は最小限に抑えられている・・・と思いたい。


一応、大人数で食事を準備できるような大きな台所があるから自炊も可能とは言われたのだが・・・サークルメンバーの料理スキル持ちが少なかったので、デリバリーを使う事になったのだ。


◆◆◆◆


「で、ここが白龍さまの聖域の一つね」

私は夕食前に抜け出して、碧に裏の滝を上流に遡ったところにある小さな渓谷っぽい所に案内されていた。


真夏の晴れた昼間だと言うのに、空気が微かに湿っていて程良く涼しい。

渓谷に流れる小川から飛び散る雫もあるのだろうが、ここは現世とは僅かに時空軸がずれている感じがする。


「ここってもしかして幻想界と繋がっていたりしてる?」









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