第27話 符作成の心得:長く続いたままの誤解

「取り敢えず、ウチの古文書については置いておいて、符の作成で〜す!

まず必要なのが、これ」

じゃん!と碧が和紙の束を箱の中から取り出した。

かなり濃厚な魔素が詰まった紙なのに、箱から出すまで察知出来なかったので魔素を封じるような効果のある箱のようだ。


と言うか箱にもビックリだが、ここまで魔素を込めた素材が現代日本にあるとは驚きだ。

中級クラスの魔物の毛皮並みに魔素が詰まっている。


これだったらちゃんとした魔道具が作れそう。

今までは魔素を十分に内包した素材が見つけられず、しょうがないので魔力と比較的相性の良い骨や角、木材と言った物に魔力を注ぎ込む方法を色々と試していたのだが、どうしても定期的な魔力の補填が必要でマジで使い勝手が悪かった。


「凄いわね、これ。

どこでゲット出来るの??」


「心得4にあるように、素材の質は重要だからね〜。

これは実家のそばの白龍さまの聖域で育ったこうぞを和紙にしてもらった物なの」

えへへ〜と何故か嬉しげに教えてくれた碧の頭をぽかりと白龍さまが尻尾で叩いた。


『こら、心得1から3を抜かして4から始めるとは何事じゃ!

そんなだから弟を教えるのに不安が残ると父親に言われるのじゃぞ』


なる程。

このハイテンションは、初めて人を教える事に対する張り切りなのか。


まあ、どちらにせよ現時点では碧は実家を離れて大学に通っているのだから弟君に教えるのは無理だし、その前となったらまだ高校生だ。


流石に後々神社を継いで宮司になる弟の教育を女子高生に任せるのは無いだろう。

「そう言えば、弟君も符を作ったり悪霊を退治したりも出来るの?」


碧の家族が有する魔力(和風に言うと霊力か)がどんな感じなのか知らないが、碧だけが有している訳ではなさげだ。


「一応全員霊力はあるよ。

弟と父は水の霊力を有しているから、退魔協会のオッサン曰く私よりも戦闘に向いている筈なんだって。

だけど何故かウチの家系って回復系の霊力を持つ人間の方が好戦的なんだよねぇ。弟は襲われたら撃退するけど、そうじゃなければ悪霊退治なんて出来るだけ避けたいタイプ。

久しぶりに白龍さまが愛し子を選んだ〜!て騒ぎになったんだけど、私が回復系の霊力持ちだって分かって退魔協会の人たちなんかはがっかりしていたのよ、失礼しちゃう。

医療団体の方はガクブルだったかもだけど」

クスクス笑いながら碧が言った。


そう言えば、回復系の霊力持ちの叔父さんが医療団体にかなり露骨に圧力を掛けられたと言っていたっけ。

白龍さまのかんなぎである碧に同じことをやったら、離島に引き籠る前に天罰があちこちに降りそうだ。


人間の霊力を使った報復には制約が掛けられるだろうが、天罰は法律で制限できないからねぇ。

喧嘩を売って白龍さまに買われたら・・・と思うと怖くて迂闊に動けないだろう。


「ちなみに、回復系の霊力ってどういう風に悪霊を祓うの?」


碧が肩を竦めた。

「基本的に、『滅せよ』っていう意思を込めて霊力を叩きつければ良いだけ。

回復用の霊力だろうが関係ないみたいね」


「ああ、こっちでもそうなんだ。

火とか水みたいな元素系の事象を態々引き起こさないから、体のない悪霊相手だったら回復の霊力って実はかなり効率が良いんじゃない?

特効もある筈だし」

精神と魂に直接作用するタイプの魔力である私の力も、悪霊に対してだと効果的だ。


黒魔導師は魂に干渉できるんで、倒し切るまでの間に悪霊が逃げたり反撃したりしない様に動きも止められるので効率的なのだ。


「そうだよね?

私もそう感じたんだけど、何故か退魔協会のお偉いさん達は回復系の霊力って悪霊退治に向かないと信じ込んでいるみたいで。

まあ、態々悪霊退治での有効性を説得してもっと危険な仕事を寄越されたい訳ではないんで何も言ってないけど」

碧が頷きながら合意した。


『戦国時代には社寺も武装して人間相手に争っておったからの。

武装した人間相手に闘うならば風や水の刃や炎を操る者の方が強く、回復師は癒しだけが役割になる。

その時代の名残りで、悪霊相手ならば回復師の方が効率的であると言うことが忘れ去られたままなんじゃろ』

白龍さまがコメントした。


「戦国時代って400年以上前の事じゃないですか」

一理はあるのだが、納得できず思わず反論する。


ぷるんと白龍さまの尻尾が動いた。

もしかしてあれって人間で言うところの肩を竦めるジェスチャーなんだろうか。

『侍の時代が終わるぐらいまでは、悪霊の振りをした野盗や悪人が人を殺めていた事は多々あったのでな。

悪霊退治に招かれた退魔師が代わりに人間を倒す羽目になることも良くあったから、戦闘はお主の言う『元素系の力』の持ち主の方が向いているという誤解がそのままずっと残ったんじゃ』


「なるほど、そうだったんだぁ」

感心した様に碧が頷いた。


おい。

あんたも知らんかったんかい。

もうちょっと白龍さまから色々学ぶべきじゃない、お嬢さん?


















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