第1章 第6話

 朝食が終わって、輝夫は自分の部屋へ向かって階段を上って行った。萌子はテーブルの食器を片付けていた。片付いたテーブルの上に真樹夫はダンボール箱を置いた。

「中学2年と3年の教科書と参考書だけれど・・・手分けして教えていかなければね」

「大まかに理系の教科があなたで、文系の教科がわたしかしら」

「問題は英語かね。でも中学の英語だからどうにかなるか」

「でもわたしは日本史が苦手かな。ちょっと自信がないわ」

「なんだろうこの教科書、戦前戦後の重要な部分の記述が少ないね。この重要な時代について大して教えないのかね」

「そう戦国時代や江戸時代の年号や人名を覚えるのに忙しくて、結局最後の頃ちょっと触れるだけで終わってしまうみたいよ」

「同じ敗戦国でもドイツと日本の戦後の精神的状況がこんなに違っているのは歴史教育の違いなのかね」

「わたしはそう思うわ。日本がドイツのような歴史教育をしていれば、韓国の日本に対する見方も随分ちがったものになっていると思うわ。ドイツでは近現代史に多くの時間をかけるみたいよ。特にナチスを通して犯してきた加害者としての歴史に、随分時間を割いているみたいよ。ユダヤ人虐殺に関する資料館を必ず参観させているみたいよ」

「高校の修学旅行で広島・長崎や沖縄に行って、被害者としての資料館を見学するということは聞いたことはあるけど、朝鮮や中国に対する加害者としての資料館を参観したということは聞いたことはないからね。といっても日本には加害者としての資料館はないんでしょう」

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