限られた時間で得るもの(審判の逆位置)

「主よ、久しく顔を合わせていなかったがどうしておったか?」

「いや、久しくも何も毎日顔は合わせているじゃないの……」


 人によって、時間の感覚が異なるように、認識も人によって異なる。自分の中ではこれくらいと思ってても、相手からすれば重要視するべきことだと思っているなんてことも多くある。その度に気持ちがすれ違い、寄り添える時もあれば対立したままにもなるだろう。


「そうか、貴殿にとっては毎日に該当するのか……」

「滞在時間は短いけど、毎日会いには行ってるじゃない。逆位置さん的にはそんなに感覚が空いているように感じてたの?」

「日数で表現をするならば、貴殿とは三ヶ月ぶりに会ったように感じているな」

「それは流石に空きすぎよ! どういう感覚になればそこまで期間が空くように感じるの?」


 正逆合わせると、44枚存在するカードたち。そんな彼ら全員と交流をするには、ある程度時間配分をしながら均等になるようにかかわる必要がある。彼ら側から関わってくることもあれば、私から行かないと関わってこない人もいるため、出来るだけ交流が偏らないようにだけ気を付けているつもりだ。

 だが、少なくとも彼からすれば、私と関わる時間が不十分だと感じているようで、今後の反省点だなと思いつつも、認識の食い違い度合いに驚いていた。正直に言えば、大袈裟すぎるのではないかとも思ったが、それは敢えて口にはしなかった。


「より多くの話を聞くためには、より多くの時間を共にする必要がある。私にとって、交流時間というのは、そのものを深く知るために最も重要視していることでもあるのだ」

「まあ、貴方の性格であったり特性を見るにそれはなんとなくわかる。時間をかけながらゆっくり確実に相手の事を知っていきたいんだよね?」

「端的に見て判断できることなど、その者の指先にも及ばない。時間をかけ、話を聞いていくことで見えてくるものが深まると私は思うのだ」


 彼のモットーは、時間をじっくりかけながら愛情をかける事。どんな些細な話でもじっくり時間をかけて聞き、その上で褒め称えたり改善点を提示したりする。そんな彼にとって、短い時間の関わりは得られるものが少なく、物足りなさを感じるのだろう。


「独断と偏見で人を判断したりするのはよくないし、時間をかけて話を聞く重要性は確かにあると思う」

「無論、時間だけをかければいいというわけではない。貴殿のように切り分けて管理することもまた重要だといえよう」

「うん、だから私例え短い時間だったとしても、その人のことを深く知りたいって思いながら関わるようにはしてる。知れる事には限りはあるだろうけど、それでも何も得られないよりいいし……」


 時間は有限、人生の中でどれだけ多くの時間を彼らと過ごせるか、知っていけるのかは分からない。それはほかの人とも同じことである。大事な人と、どれだけの時間を過ごせるのかは、誰にも分からない。

 それでも、短くとも過ごそうとすることに意味がある。相手の事を深く知りたいという思いがあれば、相手にもその気持ちが伝わるだろうし、その結果お互いに関わる機会を増やしたりして繋がっていくのだと思う。


「貴殿の考えあってのことであるならば、それでよい」

「ありがとう、でももう少し時間が取れるように頑張るよ。いつも寂しくさせてごめんね」


 そういうと、彼は少し嬉しそうに微笑み、深く深く頷くのであった。

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