私と彼等の日常は、あまりにも非現実的過ぎる3(逆位置編)

死神の嫁

受け継がれていく想い(塔の逆位置)

 幼少時代、よく通っていた駄菓子屋さんがあった。その駄菓子屋さんは、おばあちゃん一人で経営しているこじんまりとしたところで、お小遣いの少ない子供たちの為にと、破格の値段でお菓子を売ってくれる優しいお店だった。


「こんにちはー!」


 大きくなってからも、おばあちゃんの人柄の良さに惹かれ、時々お菓子を買いに来ていた私は、おばあちゃんに声を掛けた。


「ようきたねー、今日は弟さんも一緒なん。姉弟で来てくれて嬉しいわ」


 おばあちゃんは少し不思議な力のある人だった。だから、彼の姿もきっと見えていたのだろう。この日私はタワーちゃんこと『塔』の逆位置と一緒に訪れたのだが、おばあちゃんにはタワーちゃんが私の弟に見えたらしい。確かに彼の身長は、人間でいう小学2年生くらいではあるし、そう見えてもおかしくはない。


「……この人、僕が見えるの?」

「うん、どうやらそうみたいだね。すごくいい人だから安心していいよ?」


 小声で私に聞いてくる彼をなだめ、私は早速お菓子を見て回る。昔ながらのスナック菓子や、おもちゃ入りのものまで種類はたくさんあり、そのどれもが破格の値段で売っている。彼は私の後ろについて回りながら、時々おばあちゃんの様子を見ていた。やはり気になるのかと思いながらも、そこまで気に留めず見て回っていると、彼がおばあちゃんに向かって声を掛けた。


「ねえ……」

「はいはい、何かあったかい?」

「貴女は……いなくならないよね? ずっとここに、いるんだよね?」


 タワーちゃんからの急な言葉に、一瞬おばあちゃんは驚いた様子だったが、すぐにいつもの笑顔になりうんうんと頷いた。


「私が元気なうちは、ここにいるつもりだよ。だからたくさん遊びにおいで?」

「……」


 おばあちゃんの言葉に彼は何も返さなかった。その後は何事もなかったかのようにいくつかお菓子を見て回り、気になったお菓子を見つけると私のもとに持ってきた。いくつかお菓子を選び、会計を済ませた私たちがおばあちゃんに声を掛け、店を後にしようとしたとき、振り返った彼はおばあちゃんにこう言った。


「……気を付けてね」


 それから一週間と経たないうちに、おばあちゃんは病気で倒れてしまい、程なくして亡くなったと教えられた。私はショックだったが、タワーちゃんはやっぱりと言って落胆していた。理由を聞くと、店が跡形もない情景が見えたため、あの時いなくならないかを聞いたのだと打ち明けてくれた。


「やっぱり、僕が行ったから……」

「それは違うよ、おばあちゃんも言ってたじゃない。またたくさん遊びにおいでって……いやだと思ってたらあんなこと言わないよ」


 おばあちゃんが亡くなってから、二週間くらい経った後。私はおばあちゃんのお店がどうなっているのが気になり、様子を見に行った。すると、見知らぬお兄さんが忙しそうに出たり入ったりしながら、段ボールを運び込んでいるのが見えた。不思議に思い近づく私に気付いたのか、お兄さんから声をかけてきた。


「もしかして、ばあちゃんの店でお菓子買ってくれてた子?」

「あ、はいそうです……おばあちゃんが亡くなったと聞いて……」

「そうだったか。俺実はばあちゃんの孫なんだけど、ここで新しく店開こうと思ってさ。いつもばあちゃん、子供たちが来てくれんのが嬉しいって話してたから、俺もばあちゃんの遺志を継いで、誰でも来てくれるような店にしたいんだよ。開店したら、絶対来てくれよな!」


 おばあちゃんのお孫さんだと話すお兄さんは、おばあちゃんが亡くなった後店を壊そうと考えていた両親を説得し、改装してカフェを開店することにしたらしい。来てくれた人には、昔ながらの駄菓子を一つプレゼントするというサービスも考えているとの事で、おばあちゃんの優しさもしっかり受け継ごうとしているのが見て取れた。


「はい! 弟と一緒に、来ますね」


 そう言って帰ろうと振り返ると、いつの間にいたのかタワーちゃんが立っていた。彼の目には涙があふれており、口をパクパクさせている。私は何も言わず、彼を抱きしめてからこう言った。


「更地に戻っても、受け継いでくれる人がいればまた再生できるよ」

「……うん」

「お店、開店したら一緒に行こうね」


 楽しみだね、と声をかける私に、彼は元気よく頷き、自分が見えていないであろうお兄さんに向かってお辞儀をしたのだった。

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