後日談②
「ふざけないでください!オルガル殿」
オスカー様は私を強く抱きしめながらそう叫ぶ
だが目の前の宰相オルガルはその光景を見て喜々とする
「違うだろう!今のお前の立場は泣いて叫び、王妃の命を救って欲しいと懇願する立場だろうが!」
卑劣な男だ
オスカー様は腰に差していた剣を抜くが周りの兵士の数は多い
剣に長けているオスカー様でもこの人数相手に私を守りながら切り抜けるのは難しい…
「オスカー様…私を置いて逃げてください!王がいればギリシア王国の未来は途絶えません」
「ふざけるな!ルナ、僕はもう二度と君を離さない、もう二度と君に傷なんてつけさせないと誓ったんだ!絶対に置いてかない!」
オスカー様は怒りながら私の頭を胸に抱きよせて下さった
私が間違っていた、逆の立場なら私もオスカー様を置いてなどいけない…
「ははは!悲劇のショーはそろそろ終わりだ、オスカー王よ!王妃の言う通り、泣いて逃げ出せば命を救ってやらんこともないぞ?美しいが顔に傷のある女など置いていけばよい」
「オルガル、それ以上…俺の妻への侮辱は許さん…刺し違えてでもお前は殺す腕はあるつもりだ」
オスカー様は剣を向けながら今までにない冷酷な表情になった
今までの王としての顔ではない、アルベルト王子に向けた時と同じ、怒りに満ちている
その気迫に周りの兵士やオルガルでさえたじろいだ
「ふざけるな!!この人数でどうにかなるとでも!お前たち!オスカー王を取り押さえよ!目の前でルナ王妃をいたぶってやろう!!」
周りの兵士達が武器を向けて走り出した
オスカー様は私をかばいながら剣を構えた
あの時と同じように私は無力だ、何もできず…助けを待つようにこらえるしかできない
私の恋した…愛した方が命をかけているというのに!
どん!
「ルナ!?」
私はオスカー様より離れ、こちらに向かってくる兵士達のもとへと歩く
兵士達の武器が眼前に迫る
だがもう助けを待つだけではダメだ…私は助けて頂いてばかりだ…
だから、今度は私がオスカー様を
「止まりなさい!!!」
私の叫びのような声に、迫っていた兵士達の動きが止まった
目の前で槍の切っ先が止まる
動揺した兵士達は顔を見合わせていた
「あなた方、兵士は決して誰かを傷つけるために存在しているわけではありません!」
「ルナ…」
「なにをしている!速くルナ王妃を捕えんか!?」
「おだまりなさい!!オルガルよ!」
オルガルもビクリと動きを止めた
兵士達の目を真っ直ぐに見つめ、問いかける
「あなた達はその武器を王や、民や、愛する人を守るために手を取ったはずです!違いますか?」
「お、俺たちは…」「王を…」
「信念や意義を!権力や欲に惑わされずに生きなさい!!それが武器を手に持つあなた達の使命です!その武器は私達に向ける武器なのですか!?今一度、あなた達の心に問いかけなさい!!」
「………」
「な、なにをしておる!?」
静まり返る中
カランっと
武器を兵士の一人が落とした
「お、俺は…母さんに金を送ろうと…目がくらんでた…けどこんな事して俺の母さんが喜んでくれるわけなかったんだ…」
その言葉をきっかけに次々と武器を兵士達が落としていく
「僕も…妻に合わせる顔が…ない…」
「俺たちは…戦う相手を間違えていたんだ…」
「な…………な………」
オルガルは目の前の光景が信じられないように見回している
武器を落としていく兵士達をみて私が安堵の息をつくと、後ろから抱きしめられる
「きゃ!オスカー様…」
「君は、僕が思うよりずっと強い女性だったんだね、助かったよ…君はどこまで惚れさせてくれるんだ」
抱きしめられながら、私もオスカー様に手を回した
「ふざけるな!!まだ…終わっていないぞ!城内にはまだまだ俺の私兵がいる、叫べば大勢が駆けつけるはずだ!」
オルガルはそう叫びながら落ちている短剣を手に取ってゆらりとその膨れた身体を鼻息荒く動かした
「ふふ、まだだ、俺にはまだ…さぁその妃をよこせ、さもなくば集めた私兵にこの場のもの全てを殺させてやろう」
ゆらゆらと歩み寄るオルガル
下卑た笑みを浮かべながら、私の身体をなめまわすように見つめるが
「オルガルよ………その者達に………手を出すことは…グフッッ!!…許さん…!!」
その一言は、衰弱して言葉を発することさえ不可能であったクラティア王が発したのだ
視線がクラティア王に集中する
「な、なぜ…喋れる…」
動揺するオルガルだったが
クラティア王は衰弱しながらも笑みを浮かべた
「それに…貴様はもう終わりだ………オスカー王と王妃が来ているのならあやつも…必ず来ている…」
「な………なにを…」
私の耳に、音が聞こえた
そしてその音は確実にこちらに向かって来ている
「クラティア王のおっしゃる通りです、オルガル…貴方の目論見は全て終わりです」
「ルナ?一体なにを…」
オスカー様も私の言葉に動揺している
私の目標は時間を稼ぐことだった、この国に入り、オルガル宰相の目を見た瞬間に察知した
そしてある者にとある指示を出したのだ
護衛は連れて行けない
メイドであるその者は私が思うよりもずっと速く使命をやり遂げて戻って来てくれた
「ありがとう、マリアンヌ_」
ドガァァァァン!!!!!!
王座の間を閉じていた重く硬い扉が吹き飛ぶ
バラバラと砕け、煙が上がる中から一人の女性が入ってくる
「ルナ様、お待たせしてしまい申し訳ございません」
後にギリシア王国の守護剣と呼ばれ歴史に名を刻んだ女性
マリアンヌが落ち着いた様子でそう告げた
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