第3話ーお願いいたします。ー

「オスカー様、なぜ私にそんな事を…顔に傷ができ、跡が消えることはありません…キズモノと言われる私に」


「ルナ、俺はそんな事気にしない、君がそう教えてくれたからな」


「私が?」


オスカー王子はそう言って自身の手のひらを見せてくださった

そこには大きな傷跡が残っていた、その時…

私は思い出した、幼い頃オスカー様と出会った日のことを




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



あれは私がまだ8歳になった頃だ

パーティーに父様と出席したが幼い私は退屈で思わず会場を抜け出した


ウロウロと城内を歩いていると、ふと暗がりで泣いている少年を見つけた


「どうしたの?」


私が話しかけると目の前の少年は顔を上げた

思えばあの時月明かりに見えた美麗な顔はオスカー様だった


オスカー様は泣きながら私に手のひらを見せた

その手には包帯が巻かれており、血が少しにじんでいた


「痛い!?」


オスカー様は首を横に振った


「違う、この傷は転んでしまった母様を助けようとして出来てしまったんだ…傷跡は消えないんだ」


「それで泣いているの?」


「あぁ…弟はこの傷を醜いと言って馬鹿にする…王族に傷など許されないと…」


そう言って涙を浮かべたオスカー様に私は手を伸ばしてその涙を拭った


「あら?私はその傷が醜いなんてちっとも思いません」


「え?」


「その傷はあなたが母様を助けるために付けた傷なのでしょう?優しい勲章ではありませんか、王には優しく民を導く事が必要です、この勲章を持つあなたはきっと素晴らしい王様になれますわ」


そう言って私はオスカー様の手を握った

彼の顔は赤くなり、ずっと私を見つめている


「き、君の名前は…」


「おーーーい!!どこだーー!?」


「あ、父様の声!ごめんなさい!私、もう行きますね!優しい王子様!」



パーティー会場に戻る私を…オスカー様は見つめ続けていた





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




思い出した

私は完全にあの日のことを忘れていた、だがオスカー様の傷跡を見て

優しい勲章を見て思い出した



「あの後、君に会うために探したが見つからなかった、そして次に君を見たのは弟のアルベルトとの婚約が決まったパーティーの日だった」


オスカー様は歯をかみ締め、悔しそうに言葉を続ける


「胸が張り裂けそうだった、けど君が弟と結ばれ幸せになれるならそれが一番だと思った…だけど君がこんなに傷付いているのならばあの時に強引にでも君を奪えば良かった、済まない…」


「そ、そんな!?オスカー様が謝ることではありません!」


「ルナ・スカーレット、改めて君にお願いがある…俺と婚約を結んでくれないか」


真っ直ぐに見つめるオスカー様を見ていると胸の鼓動が速くなる

こんな気持ちは初めてだった

これが、恋で、愛なのだろう


「はい…こんな私で良ければ…喜んでお受けいたします…」


涙をこぼしながら返事をした私をオスカー様が優しく抱きしめてくれた

頭を撫でて、安心させてくれる

私は嬉しくて涙が止まらない


「君のメイドも傷付いているし医者を呼ぼう…君も傷口が開いている」


「そうだマリアンヌが」


私は気絶していたマリアンヌを見るといつの間に起きていたのか

マリアンヌは涙を布でぬぐいながら私たちを見つめていた


「ルナ様…大変お幸せそうで…マリアンヌは嬉しいです」


「マ、マリアンヌ…起きていたのなら声をかけてよ」


一部始終を見られていたのかと思うと恥ずかしくなってしまう


だが、そんな空気を壊す人がいる




「おい…俺を忘れてんじゃねえよ……」



殴られた跡を抑えながら先ほどまで伸びていたアルベルト王子が起き上がった


オスカー様は彼を見つめると私の頭を優しく撫でてこう言った





「もう少し待っててルナ、すぐに終わらせる」


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