肉球訪問マッサージ
牛耳
第1話
『ピンポーン』と後脚だけで立ち上がる姿勢になり鼻先でインターホンを押して
「こんにちはー、肉球訪問マッサージでーす」
と元気良く言う。
するとドアの中から
「蜜ちゃん、空いてるから入って来て」
と控えめな女性の声が聞こえた。
私は、傍らに置いた魔道具の買い物籠から、ドアノブフックを取り出しドアノブに引っ掛けてドアを開けて空いた隙間に買い物籠を咥え室内に滑り込む。
靴を脱ぐスペースに、マッサージの仕事をする時、肉球が汚れ無い様に履く足袋(ゴム底付き)を脱ぎ咥えて揃えて今日最初にマッサージをする水無月咲(ミナヅキ サキ)さんの寝室へ向かう。
「咲さん、こんにちは、お加減はどうですか?」
電動ベッドのリモコンを操作して上体を起こし咲さんはニコニコしながら
「元気で暖かな蜜ちゃんの肉球で、揉んで貰えると思うと、それだけで身体がポカポカして来るわ」
うん血行も良さそう、意識や受け答え、声もハッキリしてるわね。
「元気そうで良かったわ咲さん。今日、特に気になる場所とかは有りますか?左手の麻痺の状態はどうですか?」
咲さんは数年前に脳梗塞になり左半身に麻痺が出ている。
「咲さん、予定では歩行訓練が主でしたが、その前に左腕をマッサージしてから動かしましょう」
ベッドのリモコンを操作して少し上体の傾斜を緩める。
「では、失礼します」
と言い、買い物籠から日本手縫いを出して咲さんの左手にフワリと掛け前脚の肉球で左手の掌側を押して行く。
『ギュギュ、ギュギュ』
「痛かったりしませんか?」
「全然、大丈夫よ、蜜ちゃん。貴方の肉球っていつも暖かくて気持ち良いわぁ」
私の問いに目を閉じて応じる咲さん。
数分後、咲さんの寝息が
「クークー」
と聞こえ始める。
私は、今日の歩行訓練は次の訪問日に変更かな?
と思いながら咲さんの左足へ移動するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます