第3話
「いったいどこまで行くんだ?」
旅人は前を歩く女に尋ねる。いま旅人たちは、薬を持つ男を先頭に、女、旅人の順番で列をつくって歩いている。
街を出てからかれこれ一時間は歩いているというのに、いまだに目的地に着く気配がない。
この国に入ってから荒唐無稽な話ばかりをされて気が立っているところに、長時間歩くだけ、しかも会話もなしに歩くのだから苛立ちは増すばかりだった。
「あともう少しですよ」
相も変わらず女の返答は簡素だった。
「そう言ってもう一時間も歩きっぱなしじゃないか」
「しょうがないですよ。そういう決まりなのですから」
女は悪気もなしにそう言った。
「決まり?人が花木になるのに何かルールでもあるのか?」
旅人が尋ねる。すると、女は立ち止まり、旅人が横に来るまで待ってから
「そうですよ。このまま歩くだけというのも退屈でしょうから、少しお話しましょうか」
と言って、静かな声で語りだした。
「先ほどのお店、造園所と看板に書いてあったのはご覧になってますよね。造園というのは、要はお庭造りでして、花木をどこに生やすか、どのような花にするかということを決めるのがあのお店なのですよ。
「それはそうだが、それが歩きっぱなしの今の状況とどう関係すると言うんだ」
「それが関係あるのですよ。この国では人が花木になると言いましたが、つまり誰をどこで、どんな花木へとするかは私たちが決めるのではなく、区域ごとの造園所が決めるんです。なのでこうして一時間以上も歩かなくてはいけないのは私たちのせいではなく、あの造園所のせいなんです」
女は自分に非はないのだと主張する。
「ちなみに、街の中央にあった桜の樹。あの樹だけは元々この国に自然に生えていたものらしいですよ」
「ああ、あの桜の樹は見事だった。だが、自然に生えた樹だというのなら冬でも満開になるのはおかしくないか?」
「それも造園所のおかげらしいですよ。この国では人が事故とか寿命で亡くなったときに、あの桜の樹の下に埋めることになってるんです。そのときにあのお店で貰った薬を一緒に埋めると、冬でも満開を維持できるらしいです。詳しいことは私もよく分からないですけどね」
女の話す内容は与太話のような話なのに、初めて話した時から声色がかわらないからか、事実のように思えてくる。
なんとも奇妙な国に来てしまったものだ。溜息をつきながら布作面を着けたの男女の数歩後ろを歩き続ける。サクサクと雪を踏む音だけが歩いてきた道に残されていた。
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